魔法遣いは自重しない。50

「初めまして、だね。鬼舞辻無惨」
の後ろで正座していた耀哉は、目の前に現れた彼の一族の宿敵を見つめていた。
「産屋敷一族に酷く腹を立てているだろうから、私だけは君が殺しに来ると思っていたよ」
「千年にも渡り、私の邪魔ばかりしてきた、人間風情が」
「……やはり、の言ったとおりだったね」
耀哉は、小さくため息を吐いて、前に立つ魔法遣いに声をかける。
「言ったろ?この手の奴は、絶対的に自分に自信を持ってて、間違いなく上から見下ろしてくるって」
「見下ろしているわけじゃない。私の方が、上なだけだ。事実としてな」
その言葉に失笑しているに、無惨の額に青筋が浮かぶ。
「君が死ねば、全ての鬼が滅ぶのだろう?」
そんな無惨に、耀哉が何でもないことのように告げる。
「空気が揺らいだね、当たりかな」
「黙れ」
「さすが、耀哉。大当たり。樹形図の頂点っぽい」
がそう言ってくれるなら間違いないね。後は、もう一つの方だけど、どうだい?」
「そっちも当たり。つまりは、予定通りってことだ」
「貴様らの話など、どうでもいい」
煽り耐性が低いらしい無惨が、攻撃態勢になるのを見て、も両手に双刀を手にした。
「そうだな。お前のことなんて、どうでもいいね」
「貴様っ……!」
激高した無惨に、が軽く手を振った。
「現代兵器を味わえ、鬼野郎」
その声を合図に庭が爆ぜる。
「なっ!」
「さすがの回復力。クレイモアで肉片削り取って、それかよ」
耀哉たちを結界で守りながら、高速回復している無惨に、は肉薄しながら魔法を使った。
【ドンアク】【ドンムブ】
「く……っ!」
魔力マシマシで喰らわせたそれで、移動も行動も封じられた無惨の脇腹に、腕が沈む。
「珠世!なぜここに…!」
そう言いながら、埋まった珠世の拳を吸収する。それによって、少しでも回復を図ろうとしたのだ。
「……吸収しましたね、無惨!拳の中に何を入れていたかも考えず!」
「何?」
「鬼を人間に戻す薬ですよ!どうです?効いてきましたか?」
「そんなものができるはずは……!」
「完成したのですよ、状況がずいぶん変わった!私の力だけでは無理でしたが」
「俺がいるんだ。不可能も可能にしてやるよ」
は不敵に無惨を煽りつつ、拳以上が吸収されないよう、自身と珠世を結界で守っている。
「行冥!」
の声に応じて、無惨の背後から行冥が一撃を加えた。
「あー、わかってたけど、頸を切っても死なないのな。仕方ない。珠世さん、この後は予定通りで」
頸を粉砕されても回復している無惨に、はやれやれと言いたそうにため息を吐きながら、珠世に結界の魔法を重ね掛けをしておく。
「はい。……お気をつけて」
「お互いにね。今日こそ、仇を取ろう。行くぞ!」
はぽんっと彼女の背中を軽く叩いた。
それと同時に彼の合図で隠れていた鬼殺隊全員で、無惨へと攻撃を仕掛けるが、一歩間に合わない。
「これで私を追い詰めたつもりかっ!」
無惨が叫んだ瞬間、足元に穴が開く。
「貴様らが行くのは地獄だ。目障りな鬼狩りども!今宵皆殺しにしてくれる!!」
「あんまり吠えるなよ、弱く見えるぞ」
敵の本拠地に落とされるというのに、いつも通りの魔法遣いの声に、全員が精神を立て直す。
「全員、予定通りに!耀哉、また後でな!」
は御館様達に手を振ってすら見せた―――

「さて、この向こうなんでしょうね」
無惨の城へと落とされたしのぶは、目の前の大きな扉を見上げてつぶやく。
そして、今日の昼間に、から告げられたことを思い出す。

「いいかい?イチを絶対に手放さないで。蜜璃には小芭内を張り付かせておくけど、俺は耀哉の側にいないといけないから、一時的に君とは離される事になると思う」
ものすごく、ものすごく不満そうに眉間に皺を寄せた彼は、ため息を吐いてしのぶを見つめる。
「すぐに、駆け付けるから、絶対に無茶だけはしないと約束してください」
「戦うなとは言わないんですね」
僕も頑張るよ!とぽよぽよ揺れるイチを撫でながら、に訊ねた。
「それを言うくらいなら、今すぐに俺が鬼の総てを灰燼と化してくれる」
「……早めに駆けつけてくださいね」
の声に本気を感じ取ったしのぶは、それだけを告げる。
間違いなく、一瞬で敵の本拠地が灰燼にされるだろうと想像ができてしまったからだ。

「さて、駆け付けてくれるまで、頑張りましょう。イチ、よろしくお願いしますね」
任せて!と肩の上でポヨンと揺れる水まんじゅうをお供に、しのぶは扉を開ける。

「ん?おや、もう来たの?わあ、女の子だ。後で鳴女ちゃんに、ありがとうって言わなくちゃね」

そこには、間違いなく、彼女たちの仇が笑っていた―――

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後書&コメント

  1. 年一更新になってて、すみません。
    今年に入って、やっと体力回復が終わったのに、3月末に向けてまだまだ忙しい日々……
    早めに戦闘は終わらせて、さくっと日常回へ帰ってきたい。
    終わらせて、イチャイチャするのだ!

    コメント by くろすけ。 — 2024/02/24 @ 23:40

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Posted: 2024.02.24 鬼滅の刃. / PageTOP