魔法遣いは自重しない。47

その日も産屋敷で柱たちを集めて、現状の報告会を行なっていた。
は今のうちに何かしておきたい事はあるかい?」
「あー、俺?……言ったら、お前ら全員激怒状態になりそうなんで言わない」
もっちもちの団子を口に運びながら、柱だけでなく耀哉とあまねも見たが口にした言葉に、耀哉は目を丸くした。
「俺らを激怒させるねぇ?」
「僕たちが怒る事をがするの?」
ニヤニヤしている天元の隣で、無一郎が想像できないと首を傾げる。
基本的に身内に甘い彼が、彼らを怒らせる事をするとも思えない。
「何か自分を犠牲にするようなことではないか?」
杏寿郎の言葉に、団子を食べていたの手が一瞬止まったのを、柱達は見逃さない。
「鬼退治に一人で行きたいと思ってるんですよね?」
わざとらしくため息を吐くしのぶの言葉に、室内に沈黙が落ちる。
「無惨と相打ちにでもなれば、御館様に面倒を見てもらうこともなくなって、後腐れもない。……なんて考えてませんよね?」
笑顔のしのぶが一言を発するごとに怒気が膨れ上がるのが目に見えるようだ。
「情報はどこからだ?」
さんが物騒なことを言っていたと、うちの子たちが。隠の方からも私に連絡が来ました」
義勇の問いに、しのぶは情報源を告げる。
しのぶでさえ、初めてこの話を聞いた時は、の部屋に特攻をかけそうになったほどである。
じーっと見つめられたは、バツが悪そうに団子を食べていた手を止めて、少し逃げ腰になっている。
「わかってるから、言うつもりもなかったし。する気もない。元々は君達の敵討ちなんだから」
中庭に視線を向けて、誰とも目を合わせようともしない男に、実弥と小芭内が腰を浮かしかけた時。
さんはみんなが怪我をするのが嫌なんですよね」
しのぶがため息を吐きながら口にした言葉に、怒気が霧散していく。代わりに呆れたような、生温い視線を向けられる。

「本当にさんは優しいですよね」
「我らの怪我を気にするとは」
納得と蜜璃は軽く手を叩き、行冥は微笑みを浮かべた。
「ふん。俺たちが弱いとでも言いたいのか?」
「まったくだぜ。俺らは諒の後ろで大人しくしてろっていうのか?」
「蜜璃と玄弥には後ろにいてほしい癖に」
「なにか言ったか?」
「あぁ?」
「まったく。万が一の想像でも嫌だけど、君らが万が一にでも鬼に殺されたりしたら、俺がまともで居られると思っている?この国滅ぼす勢いで、鬼を潰すよ?」
の言葉に、不穏なものが混じった気がする。
「聞き間違えを希望したい発言をしないでおくれ」
耀哉は全く困ったものだとため息を吐く。
「まあ、耀哉を始めとして、皆がこんな理不尽にずっと耐えてたんだと思って、勝手に全部終わらせなかった俺に感謝の念くらいあってもいいと思う」
そう言って、やっと中庭から視線を戻したは、いつもの笑顔に戻っていた。
「理不尽に、無意味に、未来に繋がることなく、殺され続けていた。お前らはそんな日々を終わらせたかったんだよな。そう考えたら、俺が此処に来たことも無駄じゃなかった」
「そうだね。あの日、あの時、君に会えたことを感謝しているよ」
そんな耀哉とのやり取りを、あまねは楽し気に見つめていた。

そんなことがあってから数日。
さん!」
鎹鴉から連絡を受けたのだろう、本日の柱稽古を終えた炭治郎が、蝶屋敷にいた諒のもとへ駆け込んできた。
「禰豆子が人間に戻れるって本当なんですか!?」
いつものように縁側で座っていたの目を真っ直ぐに見つめてくる炭治郎に、いつものように穏やかに笑って応える。
「ああ、やっと薬の目途もたったしね。ただ、無惨との戦いの丁度同じ時期になるから、産屋敷の方で預かることになった。何かあっても大丈夫なように、元鳴柱・元水柱・元炎柱に警護をお願いする予定だよ。あと、俺の方からも護衛を付ける」
「そう、ですか…よかった……本当に……」
「……炭治郎は、どうする?禰豆子の近くにいるかい?」
喜んで涙する炭治郎の頭を優しく撫でた。
「……いえ、俺は戦います。これ以上、泣く人たちが増えないように、俺は戦いたい」
「そうか。本当にいい子だなぁ、君は」
この子は、『いつかどこかの誰かのために』戦える。今、彼の周りには、そんな人間が多くて、は、ちょっとだけ泣きたくなる。
さん?」
「禰豆子は今、珠世さん達といるから、迎えに行くついでに挨拶とお礼を言っておいで。あの二人がいなかったら、もっと時間がかかってた」
「はい!」
研究所に走り出す炭治郎を見送り、は紅に染まる空を見上げた。
最近、一切の鬼の動向がなくなった。鎹鴉の情報網にも、の探査施設でも掴めない。
ただ、彼が視た。上弦の壱の背後に現れた日本風の屋敷。
「次元の狭間でそのまま塵になってくれないかなぁ」
魔法遣いの彼はボソリと呟いた。
「何を物騒なことを呟いているんですか、貴方は」
そんな彼のもとに丁度研究所から戻ってきたしのぶが顔を出す。
「お帰りなさい。今、炭治郎が禰豆子を迎えに行ったよ。入れ違いになっちゃったね」
「炭治郎君は、どうすると言っていましたか?」
の隣に座って、その顔を見上げる。
「君と同じ。『いつかどこかの誰かのために』戦うって。本当、子供たちは俺の心を抉っていくよね」
「それで、物騒なことを言っていたんですね。納得です」
子供のように撫でられるのにも、既に慣れたしのぶは、彼の言葉に頷く。
「もう少し自分のことを考えてもいいのに」
「だから、夜にこっそり特訓ですか?」
「……何のことでしょうか?」
「イチが案内してくれまして」
しのぶの言葉に彼女の肩の上で、イチが任せて!と言わんばかりにピョコピョコしている。
「おじさんの薄っぺらい矜持がズタボロです……」
子供達に負担をかけないようにと、コッソリ特訓をしていたのを見られたらしい。音や光が漏れないように、結界を張ってはいたが、まさかイチが案内していたとは知らなかった。いや、知りたくなかった魔法遣いであった。
「またおじさんって言って。でも、さんがあんなに歌がお上手だとは知りませんでした」
しのぶの言葉に、確かに上弦のトップスリープラス縁一との戦いの時、自分を鼓舞するため、何度か歌っていたのを思い出す。
「俺のライフはもうゼロよ?犯人は君だって書き残して倒れ込みたい」
「何を嘘を書こうとしてるんですか。この場合の犯人は羞恥心でしょう?」
苦笑するをしのぶはまっすぐに見つめる。
「次は万が一も許さないって、一人で背負い込まないでください。諒さんが教えてくれたんですよ?他人に頼ってもいいんだって」
しのぶの言葉を聞いていた彼は、一度目を閉じて開いた時には『いつもの』彼に戻っていた。
「……やれやれ、本当に困ったものだ。まだ子供でいてほしいと願っても、いつの間にか思った以上に成長してしまう」
「全部貴方のせいです。柱の面々が協力し始めたのも、私が他人に頼ることを覚えてしまったのも、全部。貴方が起点なんです。責任とってくださいね?」
その日の彼女の笑顔を、魔法使いは忘れることはない―――

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後書&コメント

  1. 年末滑り込み更新。
    子供達は着実に成長していて、魔法遣いはビックリです。

    さて、年明けには最終編が始まる見込み。あくまで見込みですが。
    でも、きちんとお正月がある分、去年より大分マシになってきたはず。

    それでは皆様。良いお年をー

    コメント by くろすけ。 — 2022/12/31 @ 21:32

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Posted: 2022.12.31 鬼滅の刃. / PageTOP