全力で神様を呪え。[四拾肆]

都での用事を済ませ、対蜀戦の前線基地としている城までやってきたは、軍師の面々と蜀までの補給のやり繰りに奔走されることになる。
「五十万人分の食料って、馬鹿にならんな。つーか、全て消費のみで生産性がないのが泣けてくる」
「だから、さっさと終わらせて統一するって言ってるんでしょ!?」
「わかってるよ。地味に食えるものを増やしてきたり、土地の生産性を上げてきた事が役に立って嬉しいよ」
今まで目も向けられてなかった食材の再発見や、区画整理や農具の改良によって上がった生産性のお陰で、この大軍を保持することが可能になっていた。
桂花に答えながら、机の上の書類を一つずつ片付けていく。
「これが終われば、俺たちも出陣なんだよな?」
「そうです。先日の出陣式以降、徐々に軍を動かしているのです。これで終わりにするのです」
「そうですね。その為に、我々は今まで頑張ってきたのですから」
は先日の華琳の演説を思い出して、彼の知る歴史との差を実感していた。
『赤壁』に、呉に勝った。その事実だけでも、もう戻れない場所まで来たのだと。
「……だな。よし、これで終わりか?」
最後の書類を桂花に渡すと、彼女もそれに目を通して頷いた。
「これで予備も十分よ。予備に手を出すような事になれば、負けているってことだけどね」
「ああ、だが、そんなことにはさせないさ。そうだろう?」
「当り前じゃない。誰に向かって言ってるのよ」
「期待してるよ、王佐の才。じゃあ、俺は部屋に戻って、最終準備をしておくよ」
三軍師に軽く手を振って、は割り振られている部屋に戻っていくのを、文官全員が頭を下げて見送ったことを彼は知らない。

出陣前に華琳が行った演説の熱が、まだ残っているようだった。
「……まだ身が震えるようです」
「うん。なんか、凄かったの……」
「ウチの兵士って、あんなにいたんやねぇ……」
「あれでも、今回動員している軍の四割程度って言うんだから、恐ろしいよな」
「本当に全軍動員したら、補給が追い付かないでしょ?警備兵まで入れたら、百万近いのよ?」
「桂花?何かあったのか?」
三羽烏と話していると、本陣にいるはずの桂花が顔を出した。
「この先の山で道が細くなっているから、あんたにわざわざ確認しに来たのよ!わざわざね!」
大事なことで二回も言われた。
「そう言えば、行軍速度が遅くなっていますね」
凪も周囲を確認して、頷いている。
「奇襲か。甘寧や周泰がいる事を考えると、あり得ないことじゃないんだが、俺の視界に伏兵の類が存在しないんだよね」
どう思う?と桂花に視線を向けると、彼女は少し考えた後、にある事の確認を求めてきた。
「この道の先が平原になっているわ。何か視える?」
「ああ、『大軍』だな」
チラリと空へ視線を向けた黒髪の青年は、楽しそうに笑って桂花に告げる。
「そう。……伏兵に関しては、念のための偵察を出すという事にしておきましょう。何もしないのは不自然だしね」
「了解。精神的に疲弊させたところで、大軍をもって少数しか展開できない敵を叩く。王道だな」
「教本にも乗らないくらいの、ね。私は本陣に戻るわ。あんたもついてきなさい。華琳様に報告するわ」
凪たちに偵察をお願いして、桂花と共に本陣に移れば、既に主だったものが集まっていた。
「敵が隘路の出口に布陣している?」
が得た情報を全員に共有すると、春蘭が首を傾げた。
「そう。こちらは少数を小出しにしかできないけど、向こうは展開している全軍を導入できる。数の暴力だな」
「地形を使った待ち伏せの、基本中の基本ですね」
の説明に、流琉が頷いている。妹分がしっかり勉強してくれている事が嬉しくて、青年は彼女の頭を撫でた。
「……敵将は?」
「旗は甘と周、それと趙。突撃にも強そうだね」
秋蘭の問いに、は再度『視界』を確認する。
「兵を道の両脇に潜ませて、こちらからも奇襲をかけるというのはどうですか?」
「まずは一案ね。桂花、山育ちで身の軽いものを選別して」
流琉の案に、華琳は桂花に命を下す。
「承知しました。凪たちも偵察で出ていますので、彼女たちを中心に部隊を編成いたします」
桂花が伝令に命令を伝えている間、春蘭が難しい顔をしてを見てきた。
「どうした?春蘭」
「何故、そんなに悩んでいるのだ?」
「どういうことだ?」
時々、この姉貴分は彼の想像の斜め上を行くことを言い出すことがあるので、は何を言いたいのかと首を傾げる。
「隙間が無ければ、作ればよいではないか」
春蘭が放った一言は、強烈だった。
軍師達が怒り出す前に、彼女の言っている意味を理解したは噴き出していた。
「ぷっ……は、はははっ!そうだな!俺達には作るだけの突破力があったな!」
「だろう?」
「面白い話ではないか。勿論、我々にも一枚噛ませてもらえるんだろう?」
大笑いする青年に春蘭が頷いているところに、楽しそうに声をかけたのは戦闘狂とに名付けられた紅である。
「ずるいわ。うちも混ぜてや」
霞まで揃っては、隙間どころではなく、突破できそうな感じがしてくるのは、だけではないだろう。
「この面子で正面からのぶつかり合いで、負けるのが想像つかん。どう思う?」
「そうね。第一陣は春蘭が務めなさい。後続は春蘭が隙を作ったら、その間にすぐ展開。間断なく攻撃を開始しなさい。迅速さが勝負よ?」
青年が華琳に意見を求めれば、三人が三人とも不敵な表情で頷いた。
こうして、隘路の出口で待っていた蜀軍は、魏軍の圧倒的な突破力の前に撤退を余儀なくされたのだった。

「くそ……。あと、もう少しなんだ……」
行軍の間は大丈夫だったのだが、が幕に入り一人になった途端、その表情を見ればわかるくらいに体調が悪化していた。
?ここにいるの?」
「……華琳?」
!?」
寝台に横になっている彼の表情を見た華琳が、すぐに駆け寄ってくる。
「一体、どうしたの!」
「気が抜けたのかな……?」
「これから緊張の連続になるという所で、いったい何をしているの」
「全くだな。この間、華佗に見てもらったばかりなんだが」
ケアルガで回復しても、大きな穴でも開いているかのように、体力が流れ出てしまうのだ。リジェネを唱えて、流出を抑えているが、限度があった。
「動ける?動けるなら、早く戻りなさい。流琉の料理、あなたの分まで食べられてしまうわよ?」
「華琳の分は?」
「私の分もなくなりそうだから、急いでちょうだい」
「それは困るな。……華琳、このことは内密にな」
「この大事な時に皆を不安がらせることは言わないわ。さっさとついてきなさい!」
覇王様らしい言い方に、黒髪の青年はふらつく足を内心で叱咤しつつ、天幕の外へ歩き出した―――

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後書&コメント

  1. あと、四話くらいで終わるかなぁ……{希望的観測}

    コメント by くろすけ。 — 2019/01/23 @ 23:33

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Posted: 2019.01.23 真・恋姫†無双. / PageTOP