認められない。
そう、誰かがどこかで声を上げたのだ。
女の子を抱っこしたら、唐突に後ろから斬りかかられた。
何を言っているかわからないかと思うけど、斬りかかられている彼が一番わかっていない。
山の足場の悪い中、彼は小柄な美女の突き出してくる刀を、女の子を抱っこしたまま、躱し続ける。
「ちょっ!?な、んで、俺、いきなり攻撃を、されてる!?刀!?」
「何でって、鬼を抱えてるからですけど?」
「鬼って何っ!?つーか、ココドコ!?」
彼女から距離を取って、ぐちゃぐちゃになっていた事を叫んでいた。
「迷子の方ですか?」
「……それもわからないので、出来れば、落ち着いた場所で、話がしたいです」
「……斬りかかられた理由もわかりませんか?」
「全くわからないので、出来れば、落ち着いた場所で、お話させていただけますと非常に助かります。ぷりーずへるぷみー」
突きを避けきった男は、距離を取りつつ、周囲を【解析】する。
山。
腕の中に、女の子。
すぐ後ろにボロボロの少年。たぶん、女の子のお兄ちゃん。
その近くに、イケメン。
目の前に、美人。
もう一人近くに女の子がいて、その他大勢に周囲を囲まれている。
そして、自分を【鑑定】して、ため息を吐く。
【戦闘以外で治療系魔法を使う場合は反動あり。要注意】
現在は、戦闘状態に入っているから影響はないようだが、今まで見たこともない制限には違いない。
ここで逃げ出しても、少年を人質に取られたら終わりだ。
第一、それを選択するのであれば、腕の中の子を置いて逃げ出している。
山だと気付いた時に、部屋着のスウェット上下から、投影で赤原礼装に着替えた判断を自画自賛しておこう。
しかし、この状況でどうするか。
そんなことを脳内でつらつらと考えていた時だった。
「カァー!伝令!伝令!」
「鴉がしゃべったっ!?」
男の意識が鎹鴉に持っていかれた瞬間を目の前の美人は見逃さなかった。
鋭い突きが放たれるが、男はそれが届く前に左腕に抱えていた子を、後方にいた少年へと投げ渡す。と同時に、突き出された刀の根本、鍔を掴んで、相手の足を払う。
そこまでを一連の作業としておいて、男は気付いた。やばい、相手が怪我すると。
空いていた右腕で、相手の腰のあたりを掴んで、衝撃を殺す。
半分抱きしめるようになりながら、地面に降ろして、彼は息を吐いた。
「……怪我はない?」
「は?」
「怪我はしてない?」
「……ええ。はい。全く」
攻撃を仕掛けた相手を、本気で心配して怪我がないことに安堵している男に、仕掛けた彼女の方が目を丸くしている。
「それは、よかった」
そんな彼女を右腕で抱きかかえたまま、男は起き上がって、彼女の服についてしまった土汚れをパタパタと叩いて落としていく。
「子ども扱いしないでもらえませんか?」
彼からしてみれば、別段、何かを考えての行動ではなかったのだが、どうやら怒らせてしまったらしい。
笑顔で青筋を立てるという器用な真似をしている彼女に、両手をあげて降参の意を表しておく。
「すまない。子ども扱いという訳ではなくて、せっかく綺麗な布だから、汚れているのが嫌だなぁと思ったんだ。気に障ったなら、謝ります」
「……そうですか。子ども扱いでないなら、いいです」
「あの、しゃべっている鴉は、君たちのお友達?」
「いえ、私たちの組織の連絡係をしてもらっています」
伝書鳩ならぬ伝書烏の存在に、男は眉間に皺を寄せる。
「……つかぬ事をお伺いしますが、今の年号って、明治か大正だったりしますか?」
「大正ですけど……大丈夫ですか?」
「……大正桜に浪漫の嵐」
何かよくわからないことを呟いた男は、両手で顔を覆って天を仰ぐ。今までで一番ダメージを受けている気がする。
「客人として招けって言ってる、赤い外套を纏った男って、俺の事か?」
伝わるのかわからないが、近くの枝にとまっていた鴉に声をかけてみる。
「ソウ。オマエノコト!ナマエハ?」
「名前は。……現在は、盛大な迷子ってことになりますかね」
鴉の問いかけに、律儀に答えた男は、肩を落として盛大にため息を吐いた。
そこから【隠】と言われる人の背中に揺られること、しばらく。
案内された和風総本家に、は顔を引きつらせることになる―――
勢いって怖い。
17巻くらいから23巻終わり手前までの記憶があいまいになるくらいの衝撃を受けました。
長い事オタクやってますが、推しが死んだの初めてです。
最初はやべー人だと思ってました。最後までやべー人でした。そこが好きです。
ということで、滅茶苦茶「自重?それ美味しい?」のレベルで救済を行う所存。
女の子が笑っていられないなど、認められぬ。
という、いつものルートに変更は全くありませんので、そこは安心してください。
そして、それがダメな方は回れ右をお願いします。
コメント by くろすけ。 — 2021/02/18 @ 15:15