青年が昼休みに現れなかった理由は祥子と志摩子によって明かされた。
「風邪?」
「ええ。今朝、家の方に連絡が。しばらくはお店もお休みだそうです」
となれば、放課後にする事は自動決定だろう。
「はい、どなたかしら?」
一人暮らしだと言っていた青年の家から、妙齢の女性が出てきたことに、祥子以外は驚きを隠せないでいた。
「お久しぶりですわ、瑞貴さん」
「あら、祥子ちゃん。久しぶりね。もしかして、山百合会の皆さん?あの子のお見舞いに来てくれたのかしら?」
彼女は楽しそうに笑って、彼女達を見回した。
「ええ。それでさんのお加減は…?」
「まあまあ、とりあえず入って。あの子の大切な人たちを玄関に立ちっぱなしにさせる訳にはいかないわ」
瑞貴の案内で居間へと向かう間に、彼女は簡単に自己紹介をしてくれた。
彼の保護者の一人で、今日は仕事が休みだったので、被保護者である青年の面倒を見に来たのだということだった。
「熱はもうほとんど下がっているのよ。ただ……」
「ただ?」
「喉を痛めて、声がちょっとね」
そう言って彼女が苦笑した理由は、すぐにわかった。
「瑞貴?」
聞こえてきた声に、瑞貴以外の全員の足が動きを止める。
「いつもより、ちょっと低めなのよ」
更に囁くように彼女達の耳へと届いた、彼の声は妙に色気があった。
「お客様でしょう?今、お茶の用意を……」
とりあえず、人前に出られるようにと着替えたのだろう。少し襟が曲がったままのシャツを着た彼の髪には、まだ寝癖が残っている。
「……いらっしゃい」
瑞貴の後ろにいた『お客様』の姿に、彼は嬉しそうに笑った。
彼の笑顔と声に、全員が『やられた』のは言うまでも無くて。
彼の保護者は、少し被保護者の未来を心配してため息を吐いた。