のISスーツは黒を基調として、白のラインが入ったシンプルなものだ。体にフィットした袖なしシャツと、ふくらはぎまで覆われたズボンで構成されている。この上に襟付きのワイシャツでも羽織れば外に出られるくらいの格好だ。
簪に初めてISスーツ姿を見られた時に『是非上着は赤で!』と詰め寄られたので、モデルは間違いなく赤原礼装なんだろう。作った人間が簪と意気投合していたので、この予想はきっと外れない。
そんなISスーツをまとったは、目の前の光景に頭痛を覚えていた。
「そろそろ起きろ。ラッキースケベ」
箒と鈴の首根っこをひっつかんで、二人を抑えながら、真耶の上にいる一夏に呼びかける。
「誰がラッキースケベだよ!」
「お前以外に誰がいるんだ。自分の手がどこにあるか理解しても、まだ言い訳する気か?」
「へ?」
あんまりな友人の言葉に、一夏は体を起こし、そこで漸く自分の手がどこにあるかという状況を把握したらしい。
「す、すみません!今、退きます!」
真耶を押し倒していた一夏が跳ね起きる様子を、は冷めた目で眺めながら、彼の幼馴染に声をかける。
「箒、鈴、怒りたくなるのはわかります。幼馴染が公衆の面前で変態行為に及んでいる訳ですしね。が、この場合、最初に怒る権利は山田先生にあると思いますよ?ちょっと落ち着きなさい」
「は本当に俺に容赦ないよな!」
怒り猛る幼馴染ズを抑えてくれているのには感謝しているが、掛けられた言葉に一夏の心が折れそうだ。
「変態にかける情けなどない。爆発して滅びろ、リア充」
「事故だって!」
「事故で済ませられるのは、最初の十秒までだ。……で、どうだった?」
「やわらかかった……はっ!」
思わず呟いた言葉に、一夏は周囲の視線が冷たくなったのを感じた。
「語るに落ちたとは、この事だな……だが、一夏がホモじゃないとわかって、俺は嬉しい。というか、色んなものが一安心だ」
「だから、ホモじゃねー……ってぇ!」
が一夏を揶揄っていたら、相手の脳天に出席簿が落ちてきた。
「その辺にしろ。授業が進まん」
「山田先生。一夏が仕出かした件に関しては、あの一撃でご容赦願えませんか?」
「ふふっ。はい、勿論です」
地面に倒れ伏している一夏を指さすに、真耶は笑って頷く。
彼女が一夏に嫌な感情を持たないように、が上手く空気を動かしてくれたの事に気づいていた。
「お兄さん役は大変ですね」
「山田先生まで、そんなこと言わないで下さい。アレのお兄さんになったりしたら、確実に俺の胃に穴が開いてしまうじゃないですか。大丈夫だったら、内臓系が鋼鉄製に決まってます。特に心臓とか胃とか」
「あー。その、後ろ……」
「ああ、織斑先生。そちらの話は終わりましたか?」
真耶の言葉に振り返れば、アレのお姉さんが仁王立ちしていた。
「誰の内臓が鋼鉄製だと?」
「大丈夫だったら、ですよ?先生の胃袋にもそろそろ穴が開くのでは?」
二人の間で視線で会話が行われる。
「……ちっ!」
「先生が舌打ちしないでもらえませんかねぇ」
視線を逸らして舌打ちする担任教師に、はやれやれと肩を竦める。
「覚えていろ。……山田先生、準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!」
千冬に声を掛けられて、真耶は姿勢を正す。
「是非とも、実力を見せつけてください」
「……ふふ。任せてください」
「俺の師匠の凄さを自慢したいので、楽しみにしてます」
そう。彼女はの師匠なのだ。
ぎりぎり負けてはいないけれど、勝つことも出来ていない。
なので、真耶を侮っている生徒を、は内心で嗤っていたりする。
「相手は元代表候補です。気を抜けばやられますよ?」
真耶が最終準備を整えている間に、相手に選ばれた専用機持ち二人に声を掛ける。
「はっ、誰に言ってんの?」
「私たちは現役の候補生なのですよ?」
鈴とセシリアは自信満々でに答えるが、彼は背後にいる世界最強を示して告げた。
「ちなみに山田先生が候補生だった時の代表は、あそこで仁王立ちしているブリュンヒルデです。更に言うと、俺との対戦成績は全戦全引き分けです。あの人か俺に勝てる自信があるなら、もう一度同じ台詞を言っても笑いません」
「セシリア、慎重に行くわよ」
「そうですわね。この間から連携も練習している訳ですし、みっともないところは見せられませんわ」
たった一言で態度を一変させた二人を、は軽く手を振って送り出す。
「山田先生の事を知っていたのか?」
隣に戻ってきた彼に、千冬が訊ねた。
「自分の師匠ですよ?いつか勝つつもりなので、きっちり調べました。モンド・グロッソは大々的に放映していましたし、雑誌も特集を組みますしね」
その頃には、まさか自分がその優勝者の隣にいることになるとは、思いもしなかったのだが。
世界を裏から牛耳るつもりであっても、まさか自分がISを動かせるとは思ってもいなかった。きっとうっかりEX状態をキープしていた『騎乗』が作用したんだろうと検討をつけてある。
「まあ、何にせよ。これで多少はいい勝負が出来るでしょう。上から見下ろす者は、誰一人の例外も無く足元をすくわれるものです」
「十七とは到底思えない発言をするものだ」
「ははは。少し大変な経験をしましたからね。少なくとも、アレよりは乙女心に詳しいですよ?」
「あれと同レベルがそう居てはたまらん」
「そこは姉として否定するところでは?」
「例え姉でも、いや、姉だからこそ出来ない事もある」
「そこで胸を張って威張らないでください」
そんな会話を交わしている姉との足元で、『アレ』こと、一夏がへこんで地面にのの字を書いているのは軽くスルーされている。
楽し気にそんなやり取りをする彼らの姿を忌々し気に睨んでいる軍人さんがいるのを知っていたが、は気づかないふりをしておいた。
シャルルによるラファールの解説を聞きながら、上空で繰り広げられる戦闘を観察する。
「しかし、巧いものですね。二人の連携の隙を見事についてくる。それでも耐えている二人を誉めるべきでしょうか」
「ならどう対応するの?」
「射程範囲に近づかない」
説明を終えたシャルルの質問に、は腕を組んで胸を張った。
「……倒さないと終わらないんだけど」
「エネルギー切れを待ちますね。勿論、チャンスがあれば攻撃を仕掛けますが、俺の基本性能を考えると、面で制圧してくる射撃攻撃とは相性が悪いんですよ」
「は?」
の言葉に、一夏だけではなく、千冬も何言ってんだこいつという表情を浮かべていた。
流石に姉弟、実に似ていると思いつつ、は軽く肩を竦める。
「ちなみに、一夏のような突っ込んでくる近接攻撃タイプは鴨葱です」
「かもねぎ?」
「ああ、日本独特な言い回しかな」
は微笑んでシャルルに【鴨葱】について話しておく。
「ちなみに、対戦成績は俺の全戦全勝ですね。冬になったら、美味しい鴨葱鍋を食べに行きましょうか。フランス料理の鴨のローストもいいですが、冬は鍋が旨い」
「楽しみにしてるね。そういう、の射撃の腕は?」
「つい先日まで極々普通の男子高校生をしていた俺に、そんなものを求められても困ります」
極々普通の男子高校生が聞いたら怒りそうな事を言いながら、は腕を組んで首を傾げた。
「つまり、皆無?」
「シューティングゲームでヘッドショットが出来る程度の腕前ですね。今後を考えると、射撃にも是非チャレンジしてみたいとは思っています」
それよりもIS操縦の習熟を優先していたので、チャレンジするのを後回しにしていたのだが、真耶だけでなく、セシリアと簪という二人の教官も得た事だし、近々やってみたいと思っていたのだ。
「それ、僕も参加していいかな?」
「いいんじゃないか?は?」
「特に問題はないでしょう。面倒を見ろと、先生からも念を押されている事ですしね。肉食系女子の方々にも言い訳が立ちます」
二人を伺うようなシャルルに、は微笑みながら答えた。
「そんな顔をしなくても、ちゃんと面倒は見るよ。何より一夏より可愛げがある」
「しれっとディスられてる!?」
「しれっとどころか、しっかりディスっている」
「もっと酷い!」
詰め寄る一夏を片手間にあしらうに、シャルは小さく笑ってしまった。
「も大変だね」
「そう思うだろう?だから、シャルルは何かあったら、必ず言えよ?後で巻き込まれるのは、本気で面倒くさいからな?」
シャルは、優しく笑うに小さく頷く。
そんな会話をしている間に、セシリアと鈴の敗北が決定していた―――
ちょっと進行。
インフィニットストラトスの最終巻はいつ頃出るんでしょうかねぇ?
やっぱり例のあの人がどういう立ち位置なのかとか、伏線回収とかが気になってます。
回収されない場合は、捏造し放題なわけですが。もやもや。
早く臨海学校にいきたーい!w
コメント by くろすけ。 — 2021/09/30 @ 14:11