「初めまして」
そう言って笑った笑顔はとても優しそうだった。
・。
「今後ともよろしく」
そう言った声は、とても不敵そうに聞こえた。
『』
彼は顔の上半分を濃い目のサングラスで覆って、口元は黒いマスクで覆っていた。
彼と同一人物であると言い切れないのは、その態度の違いだった。
「君」
教室で呼びかければ、彼は優しく笑ってくれる。
「どうかしましたか?」
「兄上に何の用だ」
「ルールー。そういう言い方は止めなさい。すみません、カレンさん」
弟の頭を軽く撫でておいて、カレンに苦笑して話を促す。
わからないところを教えてほしいと言うと、彼はどうぞと自分の椅子を引いてくれる。そして、自分は左側の机によりかかるようにして、彼女が指差す問題をのぞきこむ。
彼の説明はわかりやすくて、カレンはすぐに問題点が解けていく。
「ああ、なるほど」
「さすがに飲み込みが早いですね」
まるで『えらいえらい』と言わんばかりに、彼の手は自然にカレンの頭に乗せられていた。
「え…?」
「あ……っと。その、これは失礼」
つい癖でと苦笑いする彼に、カレンは小さく頭を振って応える。
「気にしないで。少し懐かしく思っただけだから」
「そう?ならいいんですが」
「またわからなかったら、聞きにきてもいいかしら?」
「勿論。いつでもどうぞ。ああ、それから私のことは『』で構いませんよ」
その笑顔がとても優しくて、カレンは穏やかな気持ちになれる。
「そう?じゃあ、私のことも『カレン』と呼んでね」
彼はブリタニア人だけれど。
「ありがとう、『カレン』」
優しく紡がれる名前が、暖かいと感じられる。
夜、黒の騎士団のアジトへ出向けば、すでにゼロとは来ていて扇たちと何やら話をしていた。
だが、だけは入ってきたカレンに気づいて、彼女へ視線を向ける。
「?」
ゼロの呼びかけに、は小さく首を振った。
「……では、次だ」
打ち合わせが終わったのだろう、ゼロは自室へ。
は自分の機体へと歩み寄る。
彼の機体『パーシヴァル』
彼が持ってきた蒼く染め上げられたそれは自分の紅蓮とまるで対をなすようだ。
「カレン」
じっと見ていたのを気づかれたのだろうか。
「はいっ」
思わず大きな声が出ていた。手招きされて、機体の足元にいた彼のところへ駆け寄れば、手を出すように促され、その上に小さな箱が置かれた。
「…これ、私に?」
「ああ」
「開けても?」
彼が小さく頷くのを見て、箱を開くと、そこには小さなケーキ。
「これは?」
「甘いものは好きか?」
「はい」
「私は苦手だ」
これまでの会話を総合すると、彼は甘いものが食べられないから、代わりに食べて欲しいということなのだろうか。
「あの…」
「?」
「何で私に…?」
「疲れている時は甘いものがいいらしい」
カレンには彼と『彼』が同じ人物なのかわからない。
でも、その優しさは似ていると思うのだ。
「あの、これどこで買われたんですか?」
「……何故?」
「凄く美味しかったんで、また食べたいなと思って」
「そうか。では、また作ってこよう」
「へ?」
「……全員分は作れない。だから、他の者には黙っておいてくれ」
の背中が見えなくなってから、カレンは漸く自分を取り戻した。
「……の手作りっ!?」
今度からはもっと味わって食べようと、カレンは心に固く誓った。