は黒の騎士団のアジトへ向かう途中、それを見つけてしまった。
そして、見つけたからには放っておけないのが、彼の性分だった。
彼自身も『甘い』と思っている部分。
苦笑しながら、その子を抱き上げた。
「で、この状況ですか?」
「……ああ」
最高幹部二人の前にいるのは、小さな子猫。
まだ満足に目も開いていない茶色の毛玉のような生き物は、さっきまで彼の手の中で一心不乱にミルクを飲んでいた。
「見捨てられなくて」
「昔から変わっていませんね、貴方の宮は拾われてきた生き物で一杯でした」
「あの時は君にも迷惑を掛けた。今でも元気で生きてくれるといいんだが」
かつて追われた宮を思い出し、苦笑するしかない。あの時、彼らの母親に全てを任せて逃げ出すように宮を追われた。小さな生き物たちは生き延びられただろうか。
今では確かめる術もないが。ただ祈ってやまない。
「にー」
小さな声で呼ばれて、彼は子猫へ手を差し出した。
「おいで」
「とりあえず、名前をどうしましょうか?」
「そうだね」
二人がそんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「誰だ?」
「カレンです。はいらっしゃいますか?」
「開いている」
ゼロの声に、カレンは部屋へと入ってきた。
「失礼します。ラクシャータに言われてデータをお持ちしまし……」
カレンの目はの手の上の毛玉に釘付けだ。
「ゼロ」
「…わかった。その子の件は何とかできるか?」
「ああ」
「では、私は部屋に戻る。また後で。カレン、を頼む」
「は、はいっ」
入口でゼロを見送ったカレンは、再びの手の中に視線を戻す。
「カレン」
「はいっ」
「にー」
室内に沈黙が落ちた。
は手の中の毛玉に視線を落とす。
「……カレン?」
「にー」
子猫は嬉しそうに返事をした。
「……?」
「俺じゃない。無論、ゼロでも」
疑惑の目を向けてくるカレンに即答しておく。
「そ、そうですよね」
「……幾らなんでも……知り合いの名前をつけたりはしない」
知り合いのの前に妙な空白があるのは仕方がないだろう。
鉄壁の理性が音を立てて崩れそうなのだ。
「書類を」
空いた手でソファを軽く叩いて座るように促す。
「こちらです」
「ありがとう」
書類を受け取る代わりに、子猫をカレンの手の上に乗せる。
「にー」
「しばらく世話を頼む」
が書類に目を通す横で、カレンは自分と同じ名前の子猫をしげしげと眺めた。
「この子、が拾ってきたんですよね」
「ああ」
ラクシャータからの書類に目を通して、特に問題点を発見できなかったは机に書類を置いて、一人と一匹を見つめた。
「……可愛いな」
「ですよね。この愛くるしさ」
カレンは手の中の子猫と仲良くなっていた。
「確かに」
「え?」
頬に手を添えられてカレンは固まる。
「愛くるしいな」
カレンの手のひらで、子猫がにーと呆れたように鳴いた。