そこにあったのは、最愛の彼女の寝顔でした。
「!?」
もう少しで声を上げるところだったが、自分の口を押さえることで辛うじて耐えました。
それでも何かに気付いたのか、彼女が身動ぎする。
「!!」
肩まで毛布をかけて軽く背中を叩くと、安心した様子で再び腕の中で寝入ってしまう。
……理性がグラリと音を立てました。
シャツをぎゅっと握り締められたその体勢のまま、昨日のことを思い出す。
熱を出して寝込んだ彼を、彼女は呆れながらも看病してくれた。
最近、ちょっと根をつめ過ぎて、自己管理がなっていない自分を反省する。
天井を見上げて、小さくため息を吐く。
だがしかし、何故彼女が自分の腕の中にいるのか、そのあたりの記憶はない。
その時、元気になった身体から、エネルギー切れの警告音が鳴り響いた。
「……」
考えを一時中断して、彼はシャツのボタンを二つほど外すと、まるで魔術師のようにスルリとシャツだけを残してベッドを抜け出す。後にはシャツを握り締めたまま、気持ちよさそうに眠る彼女だけが残された。
なんだか、いい匂いがする。
パチパチと小さく油のはねる音も聞こえてきた。彼の作るオムレツは、中がトロトロで彼女の大好物なのだ。
「!」
そこまで寝惚けた頭で考えたところで、一気に意識が覚醒した。
目を開けて、自分が手にしているのが抜け殻だけだと気付き、彼女は台所へ駆け込んだ。
「おはよう」
朝目が覚めたら、最愛の人の笑顔がある。
それの何と幸せなことか。
しかし、それはそれ。
心配させた件については、必ず後で問い詰めよう。
美味しそうな匂いを放つ朝食を前に、彼女はシャツを握り締めて心に誓った――――
後で問い詰められた男主が反省させられるのが目に浮かびます。
これで『風邪ひきで10のお題』も終了ー。
次は何にしようかなー。
コメント by くろすけ。 — 2009/07/22 @ 01:24