放課後、クラブハウスの廊下を歩いていたシャーリーは、聞こえてきた声に思わず足を止めた。
声は彼女と同じく生徒会役員のものだったし、何より彼の口から出ている名前は、同じく生徒会役員の名前だったからだ。
「シャーリー?」
扉の向こう側に聞き耳を立てていると、背後から声を掛けられた。
「か、会長っ」
静かにというジェスチャーをしておいて、シャーリーはミレイを手招きする。
「……ほほう、これは……」
ミレイは扉の奥から聞こえてきた内容に、ニヤリと悪魔の黒い尻尾が見えそうな笑顔を見せた。
「いや~、まさかカレンとはね~。さすが、隅に置けないわ」
「私が、どうかしましたか?」
「へ?」
シャーリーとミレイが掛けられた声に振り返る。
視線の先には、赤毛の同級生が立っていて、シャーリーは思わず彼女と目の前の扉を見比べていた。
その時、一際大きな声が扉の奥から聞こえてきた。
「こら、カレン。そんなところを舐めたらくすぐったいっ」
廊下がシンと凍りついた。
「会長?それにシャーリーとカレンまで。こんなところで何をしているんです?」
「ルル」
掛けられた声に振り返れば、書類を抱えたルルーシュが立っていて、首をかしげている。
「今日も仕事が山積みなんですから、早く入ってください」
小さくため息を吐いた彼は、あっさりと扉を開いてしまった。
「ああっ」
止める間もない。
扉を開けた途端に上がった声に、ルルーシュは驚いた表情を見せるが、中から聞こえてきた声に笑顔を浮かべる。
「ルルーシュ?」
「兄上。お待たせしました。……ああ、なるほど」
彼の腕の中でくつろいでいる存在に、ルルーシュはミレイ達が廊下で聞き耳を立てていたのか、その理由を悟った。
「カレンは兄上の腕の中が大好きだな」
ニヤリと笑って扉を見る弟に、ソファの上にいた彼も漸く気付いたらしい。心なしか、顔が青ざめて見える。
「あの。もしかして……」
「入ってきてはどうです?会長、シャーリー。カレンも」
ルルーシュに呼ばれて室内に入ってくる彼女達を、はまともに見る事ができない。
「その。知り合いから預かっているんですが……」
彼の腕の中から、子猫が初めて見る人たちを見つめていた。
「へえ、この子、カレンって言うんだ」
ミレイに呼ばれて、子猫はにぃと鳴いた。
「ええ。その、すみません」
最後の言葉は、さっきから一言も発さない、隣に座った赤毛の彼女に向けられている。
「……この子、貴方の知り合いから預かったって言った?」
一方、カレンはの腕の中にいる子猫に視線を奪われていた。
あれから、しばらく時間が経っているし、この世の中に似た子猫はいっぱいいるだろう。
それでも、彼女と同じ名前と、毛並み。似ている。そう思う。
「ええ。拾ったらしいんですけれど」
彼の手が優しく子猫を撫でると、気持ちよさそうに目を細める様子に、カレンも優しく微笑んでいた。
「触っても?」
「どうぞ。あっ」
カレンが腕を差し出す前に、子猫の方がカレンの膝の上に移って甘え始める。
その姿には微苦笑を浮かべた。
「同じ名前の効果でしょうか」
「アイツは特別嫌われているみたいですけど」
カレンとは逆側に座っているルルーシュは苦笑して、子猫を見つめた。
「ああ、名前だけでも全身で拒否反応ですからね」
は軽く肩をすくめる。
「アイツ?」
首を傾げるシャーリーに、は困ったように告げる。
「この場にいない、茶髪の彼です」
「ああ。スザク君」
その瞬間。
カレンの膝の上からは子猫を抱き上げた。
「……大丈夫だよ、カレン」
途端に機嫌が悪くなった子猫を宥めるように、何度も背中を撫でて落ち着かせる。
彼が抱き上げていなかったら、カレンの足には子猫の爪が立てられていただろう。
「……これは本格的に嫌われてるのね」
ミレイが少し驚いた様子で、まだ少し剥れている子猫を見つめた。
「ええ。本人はめげずに再チャレンジする予定らしいですけど」
「頑張るわね。名前を聞いただけでこれなのに」
ルルーシュの言葉に、は軽く肩を竦め、ミレイは乾いた笑いをこぼした。