「何だ…これはーーーっ!」
その朝、クラブハウスにの絶叫が響き渡った。
「兄上っ!?」
隣室で寝ていたルルーシュが跳ね起きて室内に飛び込んできた。
彼が見たもの。
それは、洗面所で顔を洗おうとしたのだろう兄の背中。
そして、その黒髪の上でふよふよと揺れる『耳』
「……耳ーーーっ!?」
本日二度目の絶叫。
「で、原因に心当たりはないんですか?」
ルルーシュはフサフサの獣耳に触れてみる。
暖かいし、何かを警戒するように絶え間なく動いている。
「……こんな事を出来る知り合いなんて……ラクシャータ?しかし、昨日は会っていない。それに彼女とはナイトメアフレームの話くらいしかしてないぞ」
ルルーシュに運んでもらった朝食を食べながら、は考え込む。
「では……」
「こういう事を出来るかはともかく、こういう事をして楽しみそうな人は心当たりがありますね」
「……会長ですか」
「放課後にそれとなく話を聞いてみてもらっていいですか?」
「わかりました。今日は休まれますか?」
「そうします。問題はカレンですね…」
は呻くように言葉を搾り出す。
さすがにこの姿を見られるのは、戸惑ってしまう。
「素直に話されては?」
「それはっ……その、恥ずかしいのだが」
兄の照れる顔なんて何年ぶりだろう。
この希少な顔を見られただけで、犯人を許してもいいかと思ってしまうルルーシュだった。
「しかし、兄上。病気だと説明したら、なおのこと彼女は入ってきてしまうと思いますけど」
「む……」
言葉に詰まったところでチャイムが聞こえた。
「覚悟を決めてください」
「おはようございます……ルルーシュ?」
いつもなら、そこに立っているのはのはずなのに、今日はルルーシュが立っていて、カレンは目を丸くした。
「おはよう、カレン。……兄上なら、少し事情があって部屋だ」
「何かあったんですか?」
「見ればわかる」
「……兄上、隠れても無駄です」
部屋に入れば、頭からシーツをスッポリと被っているの姿があった。
顔だけだして、入り口に立つ二人に困ったような顔を見せている。
「いや、しかし……」
「往生際が悪いですよ」
「るるっ」
のあわてる声なんて初めてじゃないだろうか。
カレンはそう考えながらシーツをはがそうとするルルーシュを見ていた。
「あ」
ぴこん。
そう、音が聞こえた気がした。
「ふわふわですね」
「ああ…」
がっくりとベッドの上で項垂れるの耳は、本人の気分をしっかりと表していた。
「あの……私に心当たりがあるんですが…」
カレンの話によれば、昨日の訓練後にラクシャータからドリンクをもらったのだが、飲み物を探していた、つまりに渡してしまったというのだ。
「あの時のドリンクはラクシャータ製だったのか……」
は速攻で携帯を取り出して、ラクシャータへ連絡をとった。
『ありゃ。あんたが飲んじゃったの?』
「おかげでふさふさの耳をおもちゃにされてる」
『カレンに飲ませようと思ってたのにねぇ~』
「……ああ、なるほど」
ラクシャータの言葉に、視線をチラリと耳を触っているカレンに走らせては頷いた。
『理解できたー?』
「今、もの凄く自分の行動を後悔しているところだ」
『やっぱり似合うと思うー?』
「無論だ。だが、耳が生えたのは私だ。これの効果はどのくらい持つんだ?」
『薬の効果が切れるまでだから、最短三日。最長一週間ってとこかねー』
「わかった。データがとれたら、改良版を作って本来の相手に使ってくれ」
『りょーかい。じゃ、あとはよろしくー』
「ということで、三日から一週間はこのままだそうだ。ルルーシュ、学園への連絡をお願いしてもいいですか?」
「はい。カレン、兄上の事は任せる」
「え?」
「はい。お任せください」
「ええ!?」
いつの間にそんな話になってる?
「兄上のそんな姿、他に見せられますか?」
「う……すまない、カレン」
申し訳なさそうに言う彼の耳はへちょりと垂れて、とても可愛い。
こんな可愛いは、勿体無くて他の人に見せられるものか。
カレンとルルーシュの二人は、顔を見合わせて大きく頷きあった。
「??」
知らぬは本人ばかりなり。
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以上。勢いとノリで書かれた話。耳が生えたのがカレンではないので、没。