魔法遣いは自重しない。8

の左目も元に戻り、一週間。
対『鬼』用の装備をランクアップさせようと、隊服を一着いただいて調べまくっていた。
さん」
「お帰りなさい、カナヲ。『靴』はどうでした?」
カナヲ用に試作した靴を中庭で試してもらっていた。
「凄い、速いです」
は目を輝かせるカナヲの頭を優しく撫でる。
最近、少しずつ心の声が大きくなっているようで、オジサンはとても嬉しい。
「そっか。これ、鬼狩りにも使えそう?」
コクコクと何度も頷く姿が可愛らしい。
「じゃあ、まずは柱の面々に作りますか」
『ヘルメスの靴』を元にしたミリタリーブーツに、ケブラー素材と鬼殺隊の布を合成して作ったシャツと上着とズボン。
ドックタグモドキには、リジェネ効果をぶち込んでみた。更に、オートプロテスとオートシェルを練り込んだ指輪まである。後は、どこかにリレイズを突っ込んだ装備品を作っておきたい。
年下の連中が、自分より先に死ぬ可能性など、欠片も残す気がないオジサンである。
「師範、まだ作って、ない?」
「ん?ああ、カナヲには申し訳なかったんだけど、こっちの人にどのくらい効果があるか、わからなかったからね。お姉さんに作る前に試してもらいたかったんだ」
ちょっと顔色を悪くしたカナヲに、ごめんなと謝る。
「う、ううん。そういう、理由なら、仕方ないよね」
カナヲは何かを納得するように頷いている。
「うん、カナヲの靴も軽量化したり、もう少し調整するから持ってきてくれる?」
「はい」
玄関へ向かったカナヲと入れ違いに、今日も隊服に羽織のしのぶがやってきた。
「どうですか?改良できそうですか?」
「うん。いい感じです。そっちは?ちょっと休憩できそう?」
そう言いながら、は座布団を取り出し、その前にミルクたっぷりの紅茶と今日のおやつであるバターサンドを置いていく。休憩できそう?と聞いていて、この所業。
「本当に手際がいいですよね」
そう言いながら、しのぶはそこへ座って、カップを手に取る。
「靴と指輪とこの識別票に関しては、まずは柱の面々に使ってもらって、効果を実感してもらう予定です。服に関しては布が出来次第、裁縫係さんに渡す予定なんですが……隠の人からろくでもない噂も聞いてます。布に余剰分がないので、何かやらかしたら、俺がそいつ〆ます」
怪我する可能性があるのに、心臓の上が開いてるとか、スカートとか、作った奴は死ねと思っている。
「とりあえず、布の耐久性は俺が着て一撃受けて、実証しないとなー」
「は?」
がボソリと呟いた言葉に、隣から冷気が流れ始めた。
「俺なら、その場で怪我が治せるでしょ?他の人には任せられない」
「いいじゃないですか。強度実験はしているのでしょう?誰かの命を守れたら、実証できます」
「……んー。でもなぁ……」
煮え切らない返事をする彼に、しのぶは釘をさす。
「もし、勝手に鬼狩りに行ったら……どうなるかわかりますよね?」
「……はい。とりあえず藁束に着せて、風柱とか水柱とか炎柱とかに斬らせてみます」
「そうですね。それがいいと思います。試験の時は、私も見たいので、声をかけてくださいね」
「装備品の説明もいるだろうし……ルーラで産屋敷邸に集めるか」
「るーら、ってどうやって悲鳴嶼さんや宇髄さんを抱えるおつもりなんですか?」
実に言いにくい。別に抱えなくても、手をつなぐだけでも大丈夫なんて言ったら、確実に『脇腹の惨劇再び』である。
「入れる袋でも作るか、箱にするか悩む所だな」
「……ぷっ」
でかい巾着袋や、木箱に入った面々を想像したらしい。
「そ、それは、楽しそうですね」
「師範?」
しのぶの笑い声が聞こえたのだろう、靴をもって戻ってきたカナヲが目を丸くしている。
「お帰り、カナヲ。それは、ここに置いておいてくれる?」
床に新聞紙を引いて示すと、しのぶの隣に座布団とお茶セットを置いて、カナヲを招く。
「これが新しい靴ですか?かなり頑丈そうですけど」
「うん。かなり頑丈。水も弾くから、雨の日でも動きやすくなるよ」
しのぶは新聞紙の上に置かれたそれを、興味深そうに手に取った。
「あら。思ったより軽いですね」
「特殊機能付きは俺が作るしかないのが問題点だね。その機能がついていないものは、現在職人ゴーレムさんに、若いのを鍛えていただいていますので、数年後には一般人にも買える程度になるといいね」
彼はいつも未来の話をする。そして、そこに彼女たちがいるのを疑いもしない。それがしのぶには少し悔しい。
「……なんです?」
それを見越したように頭を撫でられるのも、もう慣れてきた。
「まずは貴女の靴を作ろうかと。靴下……そこから作るか」
「靴下なら、何足か手持ちがありますが?」
「いや、そこからこっちの繊維で作ってしまおう。裸足になって、これに座って足をこっちに出してもらえる?」
ひょいとラタンの椅子を取り出す。
「どうしてこんなものを持っているんでしょうか」
ささ、どうぞ。と、エスコートされて座るしのぶは、椅子に置かれたフカフカのクッションに沈み込みそうだ。
「昼寝用。足置きも出して、毛布にくるまると気持ちいいよ。足に触っていい?」
許可を取ってから、両足を手に取って詳細に【鑑定】する。
「じゃあ、作ります。きつかったり、大きかったりしたら、言ってください」
そっと、両足を新素材の布の上に置いて、両手を合わせる。
【錬成】
布はしのぶの足を包み込むように変化し、靴下へと形を変えた。
その、ちょっと厚手の五本指靴下は、踵とつま先は特に頑丈な織り方になっている。それでいて速乾性も持ち合わせているので、蒸れることも少ないはずだ。
「気持ち悪いくらい、馴染んでますね」
「それはよかった。ちょっと椅子の周りをぐるっと一周して、具合を確認してください。……どうです?」
「特に問題はないと思います」
「そう。じゃあ、靴を作って行こうか。もう一度、座ってもらっていい?」
畳を傷つけないように、作業用の帆布をしのぶの足元へ広げて、靴下と同じようにコンバットブーツも錬成する。
「内側のファスナーもきちんと動いてる……と。履き心地はいかがですかね?」
片足ずつ持ち上げて、機能がきちんと動いているかを確認する。
「こちらもかなり馴染んでますね」
「靴は馴染むまでに時間がかかるからね。ちょっとズルをしました」
すぐに使えるように、慣らしまで終わらせてある。
「靴と靴下は、俺が予備まで用意するか……【複製】【色変】」
それだけで同じ靴が二足、靴下に至っては六足分出来上がる。
「後で玄関に靴箱作りますね。靴下は、持っていってください」
「この靴下は、靴と一緒に使うものですか?」
「いえ?普段使いしていただいて構いません。しばらく使って履き心地が良ければ、ご要望の数をご用意させていただきますよ、お嬢さん」
靴を脱いで靴下で椅子の周りを歩いていたしのぶの言葉に、は笑って応える。
「他の装備品については、他の面々と一緒に説明しますね」
「…一人ひとりに説明するの大変ですからね」
「後、どんな隊服が上がってくるかわかんないから、何かあったら、その場で〆たい。そう言えば、貴女の隊服が普通の詰襟にスボンなのは何で?」
例の裁縫係が美人の彼女の隊服に何もしなかったとは、全く考えていないだった。
「マッチで燃やしました。それ以降、蝶屋敷の者には常備させています」
「……そっか」
笑顔で言い切られて、それ以外に言葉が出てこないが、逆にどんな隊服だったのか気になってしまう。
「よし。次はカナヲね。さ、どうぞ」
おいで、と椅子に誘われて、カナヲは何だか恥ずかしくなってきた。
目の前に、が跪いているのだ。よく師範は普通にしていられたなぁと、心の中で感心しきりである。
「はい。靴下完成。靴も調整して……【複製】【色変】と」
先程の試作品よりもしっくりしているそれに、カナヲは中庭にすぐ出てみたいと思ってしまう。
「はいはい、わかりました。中庭でその靴の凄さを、お姉さんに教えてあげてください」
それに気付いたは笑って、手早く確認を終える。早く早くとカナヲがに目で訴えてくるようになったのは、実に素晴らしい出来事だ。
「中庭から上がる時は、靴は脱いで玄関へお願いしますね」
優しくカナヲの頭を撫でたは、靴箱を作るべく二人分の予備の靴を抱えて、そちらへ向かっていった。
「あ。あの、師範……見てて、くださいね」
そう言って中庭でカナヲが見せた速さに、しのぶは玄関まで笑顔で向かっていくことになる。
その後、玄関に靴箱を錬成し終えたオジサンがどうなったかは、中庭に大の字で横たわるその姿から想像をしてほしい。

しばらくののち、柱の面々の装備品が一新され、下種眼鏡とその上司がの威圧を受ける事になり、柱や隠の面々が相談役をキレさせると怖いを再確認したのは、また別の話ーーー

« | 鬼滅の刃 | »

評価

1 Star2 Stars3 Stars4 Stars5 Stars (6 投票, 平均点: 5.00)
読み込み中...

後書&コメント

  1. 姉妹が可愛くて仕方のないオジサン。
    そして、魅惑の谷間、終了のお知らせ。
    作ったものは完ぺきに。着崩す分には好きにしてという方針。

    コメント by くろすけ。 — 2021/03/21 @ 09:56

Leave a comment

Posted: 2021.03.21 鬼滅の刃. / PageTOP