「アオイとカナヲが知ってたら教えて欲しいんだけどね」
は三時のおやつを差し出しながら、そう前置きをした。
今日はチーズの盛り合わせと、干し柿である。この組み合わせは意外と合う。
緑茶を用意していたアオイと、取り皿をもって戻ってきたカナヲは、そろって首を傾げた。
「隊服に階級が分かる徽章とかないのに、どうやって階級がわかるの?」
彼にしてみれば、隊服のどこにも、その記載がないのが訳がわからない。
「軍隊とか警察とかだと、襟章を付けたりするんだけど無いでしょ?」
合同任務の際に困ったりしないのだろうか、と隊服を作ってから、ずっと不思議に思っていた。
首を傾げているの様子に、アオイとカナヲは目を合わせた。
確かに、は隊士服も着てない。元々組織支援のために、相談役の役職をもらったと聞いている。
「三人はもう少ししたら来るだろうから……カナヲ、しのぶ様を呼んできてもらえる?さんには、私が説明しておくわ」
アオイの言葉に頷いたカナヲは、とてとてとしのぶの部屋に向かう。
「階級については、ご存じですか?」
「うん。それは聞いた」
こくりと頷くに、アオイは右手を掲げてみせた。
「階級を示せ」
その手の甲に浮かんできた『癸』の文字に、が目を丸くする。
「は?」
「『階級を示せ』という言葉と筋肉の膨張によって、現在の階級が浮かび上がる仕組みになっています」
「なにそれ?」
「藤花彫りと言って、これで鬼殺隊の階級を確認します」
「……触っていい?」
「はい。別に痛くもないので、構いません」
恐る恐るアオイの右手の甲に触れるの姿が、ちょっと面白い。
いつもは、彼の取り出す不思議な道具に驚かされているけど、今の彼はその時の自分たちより挙動不審にみえる。
「……力を抜くと、消える?」
「はい。……こんな風に」
すっと消えた文字に、の眉間に皺が寄っている。
「階級が更新される度に、誰かが来て修正するの?」
「いえ、自然と更新されていますので、時々自分たちで確認をする必要がありますね」
今はもう文字の消えた手の甲を裏返したり、触ってみたりしていたは、アオイの自動更新との説明に、首を傾げる。
「……どうなってるの?」
「詳しい仕組みは私にもわからないです。鬼殺隊に入隊する際に、施されています」
「あら?今日はアオイを口説いているんですか?」
カナヲに声を掛けられてやってきたしのぶは、まだアオイの手を握っていたを揶揄う。
「しのぶ様!」
アオイがしのぶに経緯を説明している間に、はカナヲに声をかけた。
「カナヲも見せてもらえる?」
「階級を示せ」
右手の甲に現れた文字に、の眉間に皺が寄る。
アオイに説明されて、何をしていたのか理解したしのぶに視線を動かす。
「私も出ますよ……はいはい。階級を示せ」
じっとみつめてくるの視線に、しのぶは随分と久しぶりだなと思いながら、右手の甲に階級を表示させた。
彼女の手の甲に現れた『蟲』の文字に、は頭を抱える。
「なに、その不思議技術。自動更新とか誰が判定して、どうやって更新してるの?」
しのぶの右手に出ている文字を、はまじまじと眺めてみるが、原理が全くわからない。
「さんに言われると、理不尽だと思ってしまうのは、日ごろの行いのせいですよね」
しみじみと言ったしのぶの台詞に、アオイとカナヲも大きく頷く。
「『呼吸』とか言う謎技術使われてる人に、『理不尽』言われた……」
『魔法』なんてものを使っている人間が言っていい台詞じゃない。
こそっと【鑑定】してみるが、鬼殺隊に伝わる不思議技術と書いてあるのに、笑えばいいのか悩んでしまう。
「……痛くはなかった?」
「これですか?ええ。特には」
「そう?もし痛いなら、他のやり方を検討するんだけど、本当に痛くない?」
「はい。大丈夫ですよ」
「そっか。なら今度、他の皆のも見せてもらおう」
ならいいやと、は今日のおやつに手を伸ばした。
「でも、隊への貢献度で上がるんだったら、アオイの階級が『癸』なのはあり得ない。絶対、次に産屋敷に言った時に、この評価システムを作った奴を問い詰める。ついでに耀哉も」
「ひっ!や、やめてください!御館様にそんな!」
「さん。これが普通の反応ですよ?」
顔を青くしてを止めようとするアオイの姿に、そうですよねと大きく頷くしのぶ。
「組織的に良くないんだよなぁ。縁の下の力持ち的な人が評価されないの」
あまりにもアオイの顔色が悪いので、耀哉に言うのは止めにすると約束をしたのだが、としては組織の健全化を計りたいのである。
「勿論、鬼を直接狩る人が評価されるのは当然としてだ。隠や藤の家の人みたいに支援してくれる人がいるから、鬼殺隊は組織として成り立ってる。それを無視して、俺はすげーっていう隊士は、隠の面々から聞き出して、ボコボコに……それは兎も角、支援者に対する感謝が足りないのは困る」
「途中、聞き逃せないものがあった気もしますが、聞こえなかったことにします。私もアオイを馬鹿にするような連中には、天誅が下ればいいと思っていますから」
「しのぶ様……」
アオイは嬉しい反面、言っている事を認めるのも問題があるようなと、困った顔でしのぶを見つめる。
「だよね?誰がお前らの面倒見てんだって話で。後ひと月で意識が変わらない奴は、俺の支援を全部切ってやろうと思ってたりするから」
真っ黒な笑顔で楽し気に話をしないで欲しいと、アオイは思う。
その隣で、カナヲやきよ、すみ、なほも、頷いているのは見なかったことにしたい。
「今更、さんの携帯食を離れるのは辛いでしょうね」
しのぶは、彼の作った携帯食品の数々を思い出す。
試作品の感想が聞きたいと、彼が持ち込んできた物品は、ほぼ全て採用されている。
「アオイのご飯の方が何倍も美味しいですが、今までに比べるとね……」
支援のありがたみを知っている彼は、隠の面々にも評判のいい男である。既に鬼殺隊で立場を確立した彼に、ソッポを向かれるという事は、色んな意味で終了を意味していた。
「まあ、無惨を消滅させた後も考えると、色々牛耳っておけるのはいいですよねー」
本当に笑顔で恐ろしい事を言わないで欲しい。
蝶屋敷で一番普通のアオイは、チーズの干し柿サンドを食べながら、小さくため息を吐いた―――
原作では中盤以降死に設定になってしまって残念でしたが、浪漫ですよね?
でも、本当誰が管理してどうやって更新されるんだろ。。
コメント by くろすけ。 — 2021/03/28 @ 20:35