魔法遣いは自重しない。10

新しい装備の試験で鬼狩りにやってきたしのぶとは、その最後に油断したと言ってもいいだろう。
「危ない!」
しのぶに向って放たれたそれを、は彼女を突き飛ばすことで回避させるが、その射線上に彼が来てしまうという事態に陥った。
さん!」
地面に転がったしのぶは、そのままの状態でを振り返る。
「ん?」
何があってもいいように、両腕で顔面を庇っていたのだが、やってこない痛みには首を傾げて防御態勢を解除した。
「……なんだ?鬼、死んだ……のか?」
塵に帰っていく鬼を南無南無と見送って、はしのぶを助け起こすために歩み寄る。
「悪い。何かあると思って突き飛ばしたんだが、ごめんな。怪我してないか?」
差し出された手に掴まって立ち上がったしのぶの方は、青い顔のまま、の頭上を見つめていた。
さん……、鏡は?」
「あるよ?」
無限収納の中から、鏡を取り出して、差し出す。
「頭の上、確認して」
「ん?……んん??」
は、自分の頭に生えた黒いものに、思いっきり首を傾げた。

「なるほど。これが鬼の使う【血鬼術】という訳だ」
ピコンと自分の頭に生えたフサフサの耳を鏡で確認しているに、鬼狩りに同行していたしのぶと【隠】の面々は頭を抱えている。
「こんなことが出来て何か役に立つのか?」
人間仕様の耳もあるので、頭を洗う時に困る程度で戦闘に何の役に立つのか。
首を傾げる男に、問題点はそこじゃないと、その場にいる全員が突っ込みを入れたい。
「末期の際でしたので、中途半端な状況なのでは?」
「ああ、なるほど。犬や猫にされては、確かに困るな」
しのぶの見立てに、漸く納得したのか、は大きく頷いた。
「術が抜けて治るのに……三日ってところか。経過とかも観察したいし、ま、放置で」
「……そういう事ですので、あとの処理はいつも通りお願いします。念のため、御屋形様に報告を。私の方からも詳細を上げますが、先に一報だけお願いできますか?」
鏡で生えてきた耳を観察している男を他所に、しのぶは【隠】の面々と処理を進めていくのだった。

「……なるほど。お疲れさまでした、しのぶ様。それで、その、さんは何をそんなに落ち込んでいるんでしょうか」
蝶屋敷に帰ってきたしのぶに呼ばれて、説明を受けたアオイとカナヲは、目に見えて凹んでいるに首を傾げた。
「帰る途中に気付いたらしいです。さん自身ではなくて、私がかかった方が猫かわいがりできたのにと」
しかたないですねぇと、しのぶも部屋の隅にいるに苦笑する。
「ああ……それで。【血鬼術】から、しのぶ様を庇ったんだから、仕方ないじゃないですか」
「わかってる。それはわかってるんだけど……また同じことがあっても、絶対に庇うんだけど!」
オジサンのケモ耳よりも、美人のケモ耳の方が、絶対に需要がある!という血の涙を流しそうな心の叫びは、理解されなかった。

治るまでの間、のケモ耳を楽しそうに弄ぶしのぶの姿があったとか。
「猫とか犬とかダメって聞いてたんだけど?」
さんは、猫でも犬でもないですよね?」
甘やかすと宣言をした以上、座っている彼の背中から抱き着いてくるしのぶを止めさせたりはしないのだが、そろそろ素数と友達になれそうな気がするなのだった―――

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評価

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後書&コメント

  1. 初予約投稿。後書きは予約できないので、公開後にちまちま記載。
    ご都合血鬼術。オジサンの獣耳でスミマセン。
    お友達になるのは、素数か般若心経か悩んだ結果、素数になりました。
    カナヲにもじーっと見つめられて落ち着かなかったらしいです。

    コメント by くろすけ。 — 2021/04/04 @ 14:08

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Posted: 2021.04.03 鬼滅の刃. / PageTOP