魔法遣いは自重しない。12

夕方になっても部屋から出てこない二人に、アオイとカナヲはしのぶの部屋へやってきた。
「……アオイ、カナヲ。そこにいるんだろう?ちょっといいかな?」
の声に、二人は顔を見合わせ、そっと障子を開けた。
「この子が眠ってしまったんだ。悪いんだけど、晩御飯はみんなで食べてもらえるかな。この子の分は、俺が用意するから」
の膝の上で丸くなっているしのぶの顔は伺えないが、なんとなく大丈夫な気がする。
「わかりました。……さんにお任せします。屋敷の事はこちらで片付けておきます。カナヲも手伝って」
「ありがとう。よろしくお願いするね。……君達のお姉さんは、本当に凄いし、頑張ってる。だから、ちょっとだけ、休ませてあげたいと思っているんだ」
「……ん。師範は、凄い。でも時々休んで欲しい」
「私たちが言っても中々聞いていただけないので、さんにお願いします」
「そこは任せておいてください。俺、甘やかすの得意なんで」
「それは知ってます。では、私たちはこれで」
「うん。また明日」
アオイとカナヲがへ頭を下げて帰っていくのを、手を振って見送る。
「……だそうですよ?妹達も公認で甘やかしていいそうです」
そんな二人が部屋から離れていったのを確認して、膝の上で抱きかかえていたしのぶに声をかけた。
「うう……」
実は起きていたしのぶは、アオイとカナヲの言葉に、顔を赤く染めている。
「いい妹さん達ですねぇ」
「……私の妹達だもの」
次の日、アオイとカナヲだけでなく、三人娘たちも心配していましたと、しのぶに話しかける姿が見ることが出来た。
その様子を見ていたに、しのぶが脇腹攻撃を加えたのは仕方がないことである。

それから数日して、とある山へしのぶとは鬼退治にやってきていた。
情報によれば、そこそこ年季の入った鬼らしい。元々山賊が出るという噂の山で、急ぐために山に入った旅人や商人が消えるという話がある。
「なるほど。確かにいるな」
「その索敵方法も広められないんですか?」
鬼狩りの時は、蟲柱様仕様らしいしのぶは、隣を歩くに訊ねる。
「今、それを実験中。支援基地を研究都市の地下に作って、隠の人と支援ゴーレムで連携取ってみている真っ最中」
医療施設を作成すると同時に、敷地内へ電波塔を立てて、通信エリアをひっそりしっかり拡大中である。
「まあ、俺は自前で【探索】が出来るので、支援必要ないんですが……あっちです」
最短距離で山賊と鬼のいる場所へと向かっていく。
「へえ、えらい美人を連れているなぁ」
「そっちの女を置いていけば、兄ちゃんは楽に殺してやるぜ?」
ニヤニヤしながらしのぶを見る男どもの視線を遮ったの機嫌は、マイナスに突入中である。
「この子がえらい美人なのは間違いないが、寝言は寝て言え。その不潔さと臭いで、女性を口説くとか……。鏡見て、せめて顔ぐらい洗って出直して来い」
鼻で笑う彼に、山賊たちは激怒して声をあげるが、は冷めた目でぼそりと呟いた。
「実弥の方がよほど迫力あるな」
「ぷっ……」
の後ろで肩を震わせて笑うしのぶが、決定的だったようだ。
「男は死ね!」
「女は殺すなよ!」
武器を掲げてかかってくる山賊たちは、残念ながら二人の敵にはなりえない。
「俺の心の師匠は、こう言った!『悪人に人権はない!』」
そう言いつつ、は賊達の意識を刈り取っていく。
その彼の背中を守りつつ、しのぶは麻痺毒を使って、動けないようにする。流れるような連携作業であった。
「さて、御大のご登場かな」
「そうですね」
人間を全員叩きのめしたところで、やっと鬼の気配が動いた。
「では、俺は支援に回ります」
「はい」
しのぶは少し後ろに下がったを確認して、腰に佩いた刀に手を添える。
「ああ!?女かっ!」
姿を見せた瞬間だった。

鬼の、頚が落ちた―――

だが、鬼を細切れにしても、彼女は刀を振るう手を止めない。
一番危惧していた出来事に、は駆けだした。
「そこまで!」
それ以上、刃を振り下ろせないように、後ろから羽交い絞めにする。
「これは、人を喰った、鬼なの!」
「しのぶっ!」
の叫びに、しのぶは身体を硬直させた。
「……もう死んでいるから、刃を収めなさい」
その言葉に、しのぶはのろのろと身体を動かす。
「次は鬼にはならぬ人生を」
彼女が刀を収め終わるまでに、はいつも通り南無南無と手を合わせて、隠にいつも通りの手続きをお願いする。
そして、振り返った彼は、叱られた子供のように俯いているしのぶを、ひょいと抱き上げた。
「今日はちょっと歩いて帰ろうか」
困惑するしのぶを両腕で抱っこしたまま、はゆっくりと歩き出す。
さん?あの、降ろして」
「君は軽いなぁ。というか、俺がこれだけ頑張って肉をつけようとしているのに、端から消費していく、君らの鍛錬が恐ろしい。普通の人が食べたら、一ヶ月で豚さんになれるのに」
降ろすつもりがないことがわかったので、しのぶは諦めての肩口に顔を埋めた。
「あの鬼だって、なりたくてなった訳じゃないかもしれない。無理やり替えられた人もいるだろうし、生きるためにそれしかなかったのかもしれない。だから、『敵』への憎しみを『鬼』への憎しみに変えちゃだめだ」
そんな彼女に言い聞かせるように、は話し始める。
「人を殺すのは、鬼だけじゃない。人も、獣も、誰かの大切な人を殺すことがある。だから、その刃を向ける相手を間違えてはいけない。誰かの心に影を投げかける『敵』にだけ向けるんだ」
「できるかな?」
先ほど、我を忘れてしまった自分が、そう、なれるだろうか?
「出来る。大丈夫。屋敷の皆も、それに、まあ、俺もいる。だから、大丈夫」
「……うん」
「それで、どうです?自分を少しでも好きになれそうですか?」
「!……本当にズルい」
するりと隙をついて、人の心に入り込むのが彼はうまい。
「そこは、ほら、『大人』ですから」
「……努力したことで、貴方の目に留まったなら、それは無駄ではなかった、と思う」
「ん。それなら良かった」
姉が死んで四年間、殺し続けてきた『自分』を、また好きになれるかもしれない。
抱き着いている彼には、絶対に素直には言ってやらないけど―――

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後書&コメント

  1. 頸も落とせて、毒も使えるなんて、最強じゃないかな?
    そして、初○○。詳しくは次の話で。
    オジサンは蟲柱様も素の方も可愛がる所存。
    しばらくは、週一更新予定です。

    コメント by くろすけ。 — 2021/04/17 @ 19:10

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Posted: 2021.04.17 鬼滅の刃. / PageTOP