魔法遣いは自重しない。15

「そういえば、珠世って誰?」
今日も午前中は産屋敷で、耀哉と書類とにらめっこを行っていたは、思い出したとばかりに口にした。
「え?」
「ここに初めて来た時、炭治郎に珠世さんによろしくって言ってただろ?」
耀哉はちょうどいいとに説明をしたのだが、聞き終わったは畳の上でorz状態である
「おまっ!そういう事は先に言えっ!無惨から逃げてる鬼だと!?ってことは、色々知識もあるってことだろ!」
「わ、悪かった。その、居場所も転々としていて、血鬼術のせいか、非常に居場所も特定しづらくて。鎹鴉達にお願いして探してもらっているんだ」
「最近で確認された場所は!?」
耀哉が示した場所を中心に検索範囲を広げていく。
「二人組か!?」
「あ、ああ。珠世という女性と、青年が一人」
「……是非、お会いして、土下座してでも協力を取り付けよう。何か好きなものがわかればいいんだが」
「鴉達の言う事には、紅茶を買い求める姿が時々見られると」
「よし。手土産は紅茶に決まりだな!」
異世界もこみこみで最高級の紅茶から、がぶ飲みできる紅茶まで各種取り揃えて見せようではないか。
「……あれ?鬼って普通のもの食えんの?」
以前、禰豆子にも栄養たっぷりのご飯を食べさせたいと、は考えたのだが【鑑定】の結果で食べられないとわかって、しょんぼりとしたのを思い出した。
「いや、その辺りも支配下を抜けたら大丈夫なのか、聞いてみたいと思ってるよ」
「それもそうだな。あれの生態って色々わかんないもんな。で、何をお願いするつもりなんだ?無惨を一緒に倒しましょうか?弱点の研究とか」
「そう。どうやら、お医者さんらしくてね。それで無惨の追跡も解除できたみたいなんだ」
「ちょっと、まて。それって、こっちから出す人手って、まさか、あの子……他に居ないなっ!」
自分で口にしたことで、理解したの顔色は真っ青だ。
「あの子に、鬼と協力して、無惨を倒す毒を作りましょうって提案する。……俺、今度こそ死ぬんじゃないか?」
少なくとも【脇腹の惨劇、再び】は確実である。
脇腹に刺さるのが日輪刀ではないことを祈る次第だ。
「私から頼むから大丈夫だと思うんだけれど」
「馬鹿言え。そんなことしたら、俺が二回死ぬ事になる。その告知する時に、絶対に俺は側にいるんだ。ここで視線で殺されて、蝶屋敷に帰って問い詰められて、そのまま死ぬ」
うーんうーんとは耀哉の前で頭を抱えた。
組織なのだから、命令してしまえば終わりなのだが、彼があんまりそれを『よし』としていないことを耀哉は知っている。
「とりあえず、繋ぎを取って、うちの地下研究所にお招きする。それが出来たら折を見て、あの子に土下座してお願いしよう」
結局、先延ばしという手段をとることにしただった。
この判断が吉と出るか凶と出るかは、神のみぞ知るというやつである。
「私からもしのぶにお願いしよう。手紙を書いておくから持っておくかい?」
「俺の助命嘆願、それだけは頼む……」
耀哉がしのぶに宛てた手紙を大切にしまったが蝶屋敷へ帰っていくのを、産屋敷家当主様は苦笑しながら見送るのだった。

夕食が終わり、食後のお茶を飲んでいる時に、がしのぶに話しかけた。
「今日、この後、出掛けることになったから」
「え?これからですか?」
一緒にご飯を食べていた全員が驚くのも無理はない。
「もう遅い時間ですよ?明日ではダメなんですか?」
アオイが言う通り、既に日は落ちていた。
明るいことは明るいが、既に【鬼】の時間である。
「仕方ないんだ。耀哉に頼まれた『お使い』があって」
「御館様のお使い」
そう言われてしまうと、鬼殺隊の面々には何も言えなくなってしまう。
「うん。なので、たぶん早くても明日のお昼過ぎになるかな、帰ってくるの」
「案内、スル!」
艶がの肩に乗って胸を張っている。
「実に頼もしいです」
「艶。さんをよろしくお願いしますね。迷子になったりしないように」
「マカセル!」
「お土産楽しみにしててくださいね」
はそう笑って、艶の案内で出掛けて行った。

「コノアタリ!」
「艶、ありがとう。先に帰っていてください。帰りは自分で帰りますから」
「ワカッタ!」
艶が蝶屋敷に帰っていくのを見送って、は【マップ】を展開する。
「手土産、よし。方向、よし。武器は無し。さて、行きますか」
は認識できるようで、認識しにくい洋館へまっすぐと向かっていく。
その建物の前で、更に詳細に【鑑定】と【マップ】を利用して目的の人がいる場所を確認して、建物の裏に回る。
「こんばんわ。初めてお目にかかります。と申します。貴女が炭治郎の言っていた『珠世さん』で合ってますか?」
夜になって窓を開けていた彼女に、実に気楽には声をかけた。
「!」
「ああ。この周囲にかけられている認識阻害は、実に素晴らしいですね。三回くらい屋敷への道を間違えそうになりました」
「珠世様!」
「お、君がもう一人の青年か。初めましてー」
どう見ても丸腰の人間にしか見えない目の前の彼は、彼女らを鬼と知って恐れることもない様子だった。
「……怖くはないのですか?」
「話が出来てるのに、武器を振り上げる意味って何です?問答無用に殺されそうにも見えませんし」
「騙しているとか、急に裏切るとか」
「そんな事を考えている人は、そういう事を言いません」
「……愈史郎、客間の用意を。どうぞ、玄関から入っていただけますか?」
まっすぐに見つめてくる彼に根負けした珠世は、愈史郎に声をかけて、玄関を指さした。
「やった。美人のお招き」
「珠世様!」
彼女の背後から悲鳴のような声が聞こえるが、はスキップを踏みたい気分で玄関へ向かうのだった。

「改めまして、と申します」
応接間に案内されたは、ぺこりと頭を下げる。
「珠世と申します。こちらは愈史郎と言います」
「へえ。凄いな。無惨以外で鬼を生み出せるなんて」
「!」
警戒する二人に対して、は目をキラキラさせて愈史郎と珠世を見ている。
「あ、話の前にこちら紅茶の茶葉と茶器セットです。美味しいから是非どうぞ。お茶菓子は……食べれるようになったら、イングリッシュアフタヌーンティを作るからね」
話しながら二人の表情で察したは、未来の約束と共に紙袋を手渡すのだった。

「単刀直入に言いますね。無惨を消滅させたいので、手を貸してください」
出された紅茶を美味しそうに飲み干して、は笑顔であっけらかんと告げた。
「……私たちは鬼、ですよ?」
「知ってますよ?」
だから何?って言いたそうな彼に、珠世は思わず愈史郎と目を合わせる。
「お前、鬼って知ってるか?」
愈史郎がそう問いかけたのも無理はないだろう。
警戒心が全く感じられない。紅茶すら、率先して飲んでしまった。毒とかそういう心配してないのかと、彼らの方が首を傾げたい。
「知ってるよ。炭治郎の知り合いって言ったろ?今、鬼殺隊の端っこに所属しているんだ。で、禰豆子を人間に戻すのと、無惨を消滅させたいので、お手伝いいただけないでしょうか?」
座っていた椅子から降りて、正座すると同時に床に頭を付けた。
「っ!」
鬼殺隊の人間が、鬼である自分たちに土下座している。
「あ、あの、きちんとお話をしたいので……」
「珠世様を困らせるな。椅子に座れ!俺はお茶のお代わりを入れてくる。珠世様に何かしたら容赦しないからな!」
「愈史郎!?」
とりあえず、は顔をあげて愈史郎を見送った。
「……椅子に座っていただけますか?」
珠世も愈史郎を見送って、未だ床の上に正座しているに声をかける。
「貴方は鬼を怖がらないのですね」
「鬼だって、人間だって、話が通じない生き物は怖い。貴女達はそうじゃない。話が出来るのに、怖がる必要はないでしょう?」
「私が、人間を殺したことがあると言っても、ですか?」
「俺も、鬼を殺したよ?それに、牛も豚も鶏も美味しいよね?」
命に差はない。という彼に、珠世は言葉に詰まってしまう。
「戻りました。……珠世様?おい!貴様、何を言った!」
「『牛も豚も鶏も美味しいよね?』って。愈史郎は、なんで固まったかわかる?あ、ちなみに刺身も大好物です」
愈史郎に詰め寄られるも、にも原因がわからないのである。
「大丈夫よ、愈史郎。さんから手を放して」
再起動した珠世に言われて、愈史郎はしぶしぶと手を放す。
「貴方は、鬼だから、人間だからと言わないのですね」
「それね。鬼殺隊の連中にも滾々と言ってるんだけど、人間の方が鬼より人間を殺してると思うよ?」
愈史郎に淹れてもらったお代わりを手にしながら、はちょっとため息を吐く。
「それに成り立てで人間を殺したなら、心神耗弱による責任能力の無さを訴えてもいいくらいだ。殺された人も、無惨を恨んでも、貴女を恨むのは筋が違う気がする」
紅茶を飲みながら、は優しく笑う。
「貴女の人生は、あのロクデナシに歪められた。全てを自分の責任だと思うのは、自虐がすぎると、俺は思うけどね」
思い悩む二人に、は勧誘をかける。
「衣食住を保障するので、手伝ってくれませんか?今なら、温泉もつけるよ」
「食、もですか?」
「現在、献血事業をうちの医療機関で行っているんです。東京にだって貧民がいるように、全国各地に金に困って子供を売らないといけない親がいる。毎月一回、血液を提供してもらう代わりに食料を提供する。そして、残念なことに、有効な血液が保存できる期間は短い。ダメになって廃棄するくらいなら、浴びるように飲んでもらって構わない」
「金じゃないのか?」
「金にすると、酒や女に変わる可能性もあるからな。食料品で提供する方が、安心。血を抜いたら、ご飯をしっかりとらないと死んでしまう」
彼らが血を手に入れるために何をしているかは、このご時世から何となく想像できる。
「それに君たちが来てくれると、炭治郎と禰豆子が喜ぶ」
「無惨を倒す手伝いをする他には?」
「医術は勿論教えて欲しいんだけど、歴史!江戸時代とか幕末の混乱時期の話とか、色々聞きたいです!」
珠世に聞かれたは、キラキラと目を輝かせて話し出す。
「あとね、人間に戻ったらでいいんだけど、医療部門の取りまとめとかしてほしい。俺、知識はあるけど、手術とか無理だから」
「人間に戻ったら……?」
「ああ。無惨が消えたら、鬼も居なくなる。つまり、鬼殺隊も不要になる。で、働く場所をせっせと構築中なんだ。知らない人より、一緒に働いて気心の知れてる人の方がいいだろ?」
不審そうに言う愈史郎に、真面目な顔で告げる。
珠世と愈史郎は顔を見合わせた。
目の前の気の抜けた男は、二人の事を『人』と呼んで、既に無惨が居なくなった後の事を考えている。
たぶん、手を差し出したら、笑顔で握手をしてきそうだ。
「……しばらくお時間をいただけますか?」
とりあえず、現在の困惑を何とかしたい。珠世がそう思って口にした言葉にも、は嬉しそうに答える。
「勿論。どちらだとしても決心がついたら、炭治郎に連絡入れるか、蝶屋敷にネコさんを寄こしてくれるかな。じゃあ、またね。紅茶、美味しかった。今度は別の紅茶を持ってくるよ」
そう笑って彼が帰って行ってしばらく。
蝶屋敷にやってきた三毛猫を、は大歓迎して、撫でくりまわした。

こうして、太陽光を完全に遮断した研究施設の地下で、珠世と愈史郎は無惨に対抗する薬物を作成に力を貸してくれる事になった。

この事実をしのぶに告げられるのは、そう遠くない未来の話―――

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後書&コメント

  1. 珠世さんに会いに行くの巻。
    脇腹の惨劇再びは確実に起きる予感しかない。
    後数話を挟んで無限列車編になる予定。
    その辺りまでは毎週更新頑張ります。

    コメント by くろすけ。 — 2021/05/08 @ 13:20

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Posted: 2021.05.08 鬼滅の刃. / PageTOP