その日、産屋敷から戻ったは、機能回復訓練を終えた炭治郎たちの部屋に、様子を見に行くと言うしのぶと一緒に顔を出した。
「炭治郎も、もうすぐ鬼殺復帰だろう?」
「はい。次は怪我しないように、皆で帰ってきたいです」
「そうだな。鬼の頭領に気に入られてるから、俺も同行する。よろしくな」
「え?そうなんですか?」
炭治郎は、の後ろに立つしのぶに確認するような視線を送る。
「ええ。御館様からも、そう指示が来ています。この人がとんでもないことをしないよう、見張っていてくださいね」
「は呼吸使えないだろ?大丈夫なのか?しのぶ」
隣にいた伊之助が、会話に参加してきた。餌付けした以外で、この屋敷の主の名前だけは、ちゃんと呼べるようになっている辺り、色々とあったのだと察してほしい。
「そうですね。明日辺り、さんと手合わせをしてみましょうか」
「本当ですかっ!やった!」
「、強いのか?」
「いやいや、ちょっとまって」
しのぶの言葉に固まっていたが再起動するが、時は既に遅しである。
「カナヲも楽しみにしてると思いますよ?」
肩をぽんと叩くしのぶが浮かべる満面の笑みと、楽しみと見上げてくる炭治郎と伊之助の視線に、の敗北は確定したのだ。
「本当、君は容赦ない」
やる気の満ち溢れる三人を前に、はしのぶにジト目を向ける。
「私の突きを躱しておいて、弱いなんて、誰も信じてませんよ?」
「それは、躱すのと防御に割り振ってるから。俺、あんまり剣で攻撃したことないし」
「得意なのは、槍とか素手ですか?」
「どうしてそうなる。魔法遣いの攻撃手段は、魔法です」
首を傾げる彼女が可愛くてしかたないオジサンは、今日も彼女の頭を撫でる。
「まほう」
「あれ?俺、攻撃魔法って見せたことない?」
「ないですね」
「あ、うん。ごめん。これに関しては、既に言っている気になってました」
しのぶの笑顔の後ろに般若様が見えた気がする。
確かに、夜営時に火付けとか水出したりとかはしていたが、攻撃特化型の魔法は見せたことがないと思う。
「ごめん。心配させた」
優しい子だから、きっと鬼狩りの時に心配をかけたと思って、ちゃんと目を見て謝る。
「……そういうところがズルいんです」
他の面々には聞こえないように、しのぶは小さく呟いた。
「……本当、全集中の呼吸って反則だよな」
炭治郎、伊之助、カナヲと三連戦を終えたは、道場の縁側でぜーはーと呼吸を整えていた。
「私も、と思ってたのですが……残念です」
三人へ指導をしていたしのぶが、そんな彼に歩み寄って、隣に腰を下ろす。
「ありがとう。諦めてもらえて、本当に感謝しかないです」
三連戦の後に、柱である彼女とやり合ったら、間違いなく明日筋肉痛で動けない未来が見える。朝起きて即ケアルガとエスナセットは確実だ。
「今度、すべての装備品を付けた状態で、裏山でやりましょうか」
「え?」
呼吸を整えたの提案に、きょとんとした表情をしのぶが見せた。
「対鬼を想定して、全力で。どうです?あ、日輪刀と童子切・改はなしでお願いします」
おや、レアな表情。と思いながら、は提案とお願いを告げる。
「……いいんですか?」
「うん。魔法も見せてあげるよ。血鬼術って魔法に似てるのもあるんでしょ?お姉さんの仇の話も聞かせてくれるかな。実践想定で色々試すのは重要だから」
「はい」
頷くしのぶの頭をよしよしと撫でる。
「でも、どうしたんですか?さんから、そんなことを言いだすなんて」
「蝶屋敷に来た時に、言っただろう?『貴女が命を懸けても達成したいことに、俺は全力を挙げて協力することを誓おう』って。新しい刀に慣れようとしているんだったら、相手がいるだろう?」
しのぶは顔を赤くして俯いた。
彼に童子切・改をもらってから、彼女はそれに合わせた動きを試していた。
「俺に出来る範囲になるけど、手伝うから」
さっきまで、呼吸の使い手と鍛錬とか殺す気?と言っていたのに、こういう事を言うのだ。
「本当に、さんはズルい」
しのぶは、絆されている自分にため息を吐いた。
「あー、しのぶだけズルいぞ!俺も撫でろ!」
二人で話をしているのに気づいた伊之助が、に突撃してくる。
「はいはい。こっち、おいで」
しのぶと反対側に座った伊之助の頭を、は両手でわしわしと撫でていく。
「ふん!このくらいにしといてやるぜ!」
「そうだな。親分は子分に優しいものだからな」
十分ほわほわして満足したのか、伊之助は炭治郎に場所を譲る。
「長男でも、まだまだ子供なんだから、もっと甘えてもいいんだぞ?」
ひと回り下の炭治郎に言い聞かせるように、こちらもわしわしと頭を撫でる。
「その、嬉しいです。あの、禰豆子も嬉しそうでした……」
ちょっと羨ましかったんですと言う、炭治郎の素直さに本当に色々浄化されそうである。
「…… さん」
次は私と言わんばかりに、カナヲがの上着を引っ張った。
「カナヲも随分と自分を出せるようになったね」
男の子とは違い、ふんわり優しく撫でる手が嬉しくて、カナヲも笑みが浮かんでくるのを止められない。
「あらあら、大人気ですね」
「の手はほわほわするからな!しのぶも好きだろ?」
伊之助は無自覚に地雷を投げつける癖がある。カナヲと炭治郎が二人揃って固まっているのが実に可愛い。
「はいはい。そろそろ、晩御飯の時間だから。お風呂入って、汗を流しておいで。今日の晩御飯は、チーズ入りハンバーグだよ」
は笑って話題を逸らす。ハンバーグはお子様チームに大人気メニューでもある。
鍛錬で勝っても負けても元気になるように、彼は今日の晩御飯の献立をアオイと相談して変えていた。
わいわい言いながら、医療棟にある大風呂に向かう炭治郎と伊之助を見送り、カナヲとしのぶは屋敷のお風呂へ行きますかと腰を上げる。
「さんも一緒に入ります?」
「オジサンを揶揄うのも大概にしておきなさい。早く入っておいで」
軽く手を振ってくるにしのぶは小さく笑って、カナヲと笑い合いながら歩いていく。
実に平穏なこの光景が、いつまでも続く様に頑張ろう。は決意を新たにした―――
この時は、まさか柱全員を巻き込んだ大乱闘粉砕兄弟が始まるなんて、オジサンは想像もしてませんでした。がんばれ!
さて次回はやっと無限列車編突入です。
来週までは毎週更新が続きます。
コメント by くろすけ。 — 2021/05/22 @ 15:51
いつも読んでいただいてありがとうございます!
コメント by くろすけ。 — 2021/05/22 @ 15:51