魔法遣いは自重しない。19

黒塗りの蒸気機関を目の前に盛り上がる子供達を落ち着けて、は汽車に乗り込もうとする彼らに声をかける。
「さて、中に炎柱の煉獄杏寿郎がいる。俺はちょっと気になることがあるんで、別行動するが、君たちは彼に会いに行きなさい。炭治郎は聞きたいこともあるんだろ?」
「はい。わかりました」
!また後でな!」
さんも気を付けてくださいね!」
三人が汽車に乗り込んだところで、は炭治郎たちとは別行動に移った。
【バニシュ】
悪用厳禁、透明化の呪文となればすることは一つ。
「よいしょっと!……まさか、この年になって、箱乗りすることになるとは思わなかったよ」
手にした切符を【鑑定】すれば、色々情報が読み取れる。
オジサンは、年少者の成長を祈りつつ、彼らに怪我をさせるつもりもない。
「さてさて。下弦の一ってのは、どの程度の強さなのかな?」
は屋根の上に座って、煙を吐き出し始めた先頭車両を見つめた。

「ああ、なるほど。列車と同化する気なのか。八両分の乗客全員が腹の中ってわけだ。しかも、人の心に土足で踏み入ると。反吐が出そうな作戦だな」
「なっ!」
幸せな夢を対価に時間稼ぎを命じた魘夢は、背後から聞こえた声に振り返る。
そこには、真紅の上着をはためかせて、男が立っていた。
「人間を舐めるなよ?下弦の一。人の心は脆くて弱い。だが、それゆえに強靭なのだと、思い知れ」
そういうと同時に、直死の魔眼で見た線をなぞるように、干将・莫耶で鬼の頸を斬り飛ばそうと腕を動かす。
【血鬼術・強制昏倒催眠の囁き】
下弦の一の手に現れた口が眠れと囁くが、には全く効かない。
彼の左腕には一本の『リボン』が結ばれている。効果は【全状態異常無効】の、あのリボンだ。
「残念。俺には効かないんだ。それ」
「!」
「あー、ちょっと遅かったか。ま、後は若い連中のお仕事だ。残り少ない寿命を、指折り数えておくんだな」
頸は落としたが、汽車との同化は終わっていたらしい。
は少し残念そうだが、残った身体を回収して、頸だけになった鬼に笑いかけた。その笑みは、真っ黒でどちらが悪役なのかとツッコミを入れたくなる。
「事態を理解しているとは思えない発言だね。君は一人で、この汽車の端から端までいる二百人余りの人間全てを、助けられるかな?」
「余裕」
即答した男に、鬼である魘夢は怯んでしまった。
「それに、俺だけじゃないし」
鬼の残滓であるそれを無視して、は一足跳びで、杏寿郎たちが眠っている車両まで移動する。
「禰豆子!箱から出て!炭治郎たちを繋いでいる縄と切符を焼き尽くせ!」
「むー!」
屋根の上から聞こえてきたの指示に、箱から飛び出した禰豆子は疑うことなく、それに従う。
「炭治郎、伊之助、前へ走れ!鬼の頸を落としてこい!乗客は俺たちに任せろ!」
「了解!行くぞ、伊之助」
「ウオォ!猪突猛進!」
目を覚ました二人は、まだ眠っている乗客に目もくれず走り出す。
「杏寿郎、いい夢は見れたか?」
「ははは!面目ない!穴があったら入りたい!」
「後ろの五両を頼めるか?」
「任せておけ!」
ドンっと音を立て、列車か揺れるほどの踏み込みで、杏寿郎は後部の車両を守りに走った。
「禰豆子、この車両の人たちを守って。善逸、禰豆子の支援は頼む。前の二両は俺がやる」
「む!」
両手を突き上げる禰豆子と、まだ寝ぼけながらも禰豆子を守る善逸に今の車両は任せる。
その時、魘夢に協力していた者たちが意識を取り戻す。
「よくも……」
与えられた千枚通しのような凶器を構えている姿を、は鼻で笑った。
「人を殺してまで見たいほど、いい夢だったか?」
「うるさ……っ!」
反発しようとしたが、それ以上声が出ない。
「人の心に土足で踏み入る奴は、微塵切りにされて踏み潰されても文句は言わさない」
身内を傷つけられたは半分キレかかっていた。その圧力に一般市民が耐えられるはずもない。
【ラリホーマ】
「少し眠ってろ」
眠り込んだ四人を、手早く簀巻きして、床に転がしておく。
【同調開始】
魔法遣いが作り出したのは、二丁拳銃『干将・莫耶』
発動体を銃にして、それから魔法が射出されたように見せかける。
魔法なんて特殊技能ではなく、特殊な弾丸が連射されているようにも見えないことはないことがミソだ。無惨に渡る情報は少しでも攪乱しておきたい。
【アイスアロー】
の膨大な魔力を元に、射出された氷の矢は、的確に確実に前の車両の人間を守りながら、見えていないはずの先頭車両で戦う炭治郎と伊之助の支援も行っていく。
「列車と同化されたから、炎の攻撃魔法が使えないのが、残念無念だな!」
その頃、先頭車両では炭治郎と伊之助が、連結部分に鬼の首を見つけ出していた。
「伊之助!呼吸を合わせて連撃だ!どちらかが肉を斬り、すかさずどちらかが骨を断つ!」
「いい考えだ!褒めてやる!」
に鍛えられた二人は、連携攻撃も出来るようになってきていた。
「夢の邪魔をするな!」
そんな二人へ機関士が攻撃を仕掛けてくる。
鬼殺隊の弱点は、人を傷つけられない点にあるかもしれないと、はこの時を振り返って耀哉に話した。まあ、そこが君たちの良いところだなとも笑ったと言う。
「!」
伊之助を庇う位置に入った炭治郎が脇腹への攻撃を覚悟した瞬間。
一本の氷の矢が、運転手の手にした千枚通しを弾き飛ばす。
後ろの車両を振り返ると、銃を構えたと目が合った。
行け!と背中を押された気がする。
【ヒノカミ神楽 碧羅の天】

無限列車から断末魔が発せられたーーー

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後書&コメント

  1. 下弦の一、終了。
    次回、魔法遣いは自重しません。

    でも、もうおうちに帰りたい。
    ワンシーンも出てこないのは寂しい。
    来週も更新できるといいなぁ。

    コメント by くろすけ。 — 2021/06/05 @ 15:44

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Posted: 2021.06.05 鬼滅の刃. / PageTOP