「えー、あの、どうして、俺がここにいるのでしょうか……?」
道場に連れてこられたは、胴着に着替えたカナエとしのぶとカナヲを前に、及び腰である。
これに着替えてくださいねと差し出された胴着に着替えなくないと、何度思った事か。
「さんと、手合わせしてみたいなって」
最後通告をしてくるカナエの笑顔が恐ろしい。
あの何とかの呼吸とか躱せる自信が全くないのだが。
機能回復訓練とか言いつつ、やっていたことを確認したは、見なかったことにしたくらいだ。
「……誰か止めてよ」
「無理です」
ため息をついたしのぶと、ふるふると首を振るカナヲに、絶望を覚えてしまう。
「俺、何かしたかなぁ」
「だって、さんって強いのに、手合わせしてくれないんだもの」
「だものと言われましても、俺は一般人なのですよ。普通を逸脱している逸般人の君らと一緒にしないで」
「ああ、確かにさんの所業は、普通を逸脱していますよね」
「そこは、わが身振り返ってくれないかな!?」
「そんな感じで逃げられているので、もう問答無用で切りかかっちゃおうかと思ったんだけど、しのぶにせめて竹刀でって止められたのよ」
「しのぶ、後で何でも好きな食べたいものを言いなさい。俺が全身全霊で美味しいの作ってあげるから」
恐ろしい事をさらっと告げられたとしては、恩人に美味しいものを作るくらいしかできないのが心苦しい。
「本当ですか?!」
「他にして欲しい事があれば……うおぁっ!?」
降りかかってくる竹刀を、必死に躱す。
「せめて、始めの合図が欲しいっ!」
「しのぶだけ、ズルいです」
「いやいや!?ズルくないよ!?当然の権利でしょ…おぉぉっ!?」
カナエの一撃を躱したと思ったら、カナヲの斬撃をのけぞって避ける。
「二対一?!」
「いいえ、三対一ですよ?」
「あれぇ?」
避けにくい腹部を狙ってくるしのぶの突きを、間一髪で身体をずらして竹刀を掴む。
「……酷くねっ!?」
「不意打ちも躱しておいて、何をおっしゃるやら」
竹刀を片手で抑えられ取り戻せないしのぶは、実に不満そうである。彼女だけではない、攻撃を休めることなく続けてくるカナエとカナヲも、驚きつつも不満そうだ表情を隠そうともしない。
「……そんな顔も美人さんなのは全員ズルい」
泣きそうになりながらも、一撃も喰らわない青年に、三人の方がズルいと文句を言いたい。
「因みに、これは、いつまで?」
三人の同時攻撃も、時間差攻撃も、『直感』と『千里眼』で避けていく。
「誰かが一撃を入れるまで、かしら?」
「ですね。このままだといつになるのかわからないけど」
「……ご飯の準備はいつも後一刻くらい。アオイにお出迎え頼んだ」
「では、そこまでですね」
にっこりと笑う三人が怖い。
「そろそろ、さんの体も温まってきたでしょうから、本気で行きますね」
「結構です!」
とはいえ、あの剣の英霊は、魔法の域に突っ込んだ、同時三連撃を躱して見せたのだ。さらに上のスキルを持って、魔法の域に達していない剣を躱せなくては、色々顔向けが出来ない。
「行きます。【花の呼吸】」
「合わせます。【蟲の呼吸】」
「私も……【花の呼吸】」
「ふ、はははっ!」
「さん、うるさい!」
「笑わないとやってられない俺の気持ちを理解して!?」
「そう言いながら、呼吸も乱さないなんて、やっぱり逸般人ですよね?」
「さん、そろそろお昼の準備を……な、何かありましたか?」
アオイが顔を出したところで、追撃を掛けようとした三人の動きが止まった。
「YOU WIN!」
そう両手を掲げた後、攻撃を一撃も受ける事のなかった青年は、畳の上にへたり込んでしまったのだが。
「……信じられません。三人がかりで、柱とその継子が攻めたのに」
「やっぱり、凄いわねー。さん」
「ん……」
恐らく、鬼殺隊の中では最速と言っても良い三人が攻め立てたのに、ただの一撃も当てることが出来なかった。
その事実が伝えられると、手が空いたと言っては柱の名を冠する面々が蝶屋敷にやってくるのだが、男には実に容赦のない青年だったりするのだ。
続いてしまったカナエさん生存ルート。
蝶屋敷が書きたかったんだもの。後悔はしてない。
けれど、いつかどこかはわからない突発シーンのみでお送りされるので、更に次があるかは書き手にも不明。
この世界線では、カナヲはきちんとカナエさんに師事して教えてもらい始めている設定。
あー、女の子可愛いなぁ!
コメント by くろすけ。 — 2021/06/08 @ 14:02