魔法遣いは自重しない。21

さん、お帰りなさい!炎柱様もお怪我ありませんか?」
蝶屋敷に【ルーラ】で帰還した彼らを出迎えたのは、ちょうど中庭を通りかかったアオイだった。
「ただいま、アオイ。これ、お土産」
行きの途中にあった甘味屋さんで買い込んでおいたみたらし団子と豆大福を、アオイへ差し出して、杏寿郎と彼に担がれた炭治郎に声をかける。
「君らは先に医療院の風呂に入って、汗と汚れを流しておいで。炭治郎も温泉に浸かって、その身体を解してから横になった方がいい。善逸、伊之助、悪いが手伝ってやってくれ」
一緒に帰ってきた善逸と伊之助も、やっと現状を把握したようだ。
はどうする?」
「俺はこのまま産屋敷に一報を入れに行く」
「では、俺も……」
「一報を入れるだけだから、俺一人でいい。……出来れば、簡単な説明をよろしく頼む」
は軽く頭を振って、再び【ルーラ】を唱える。
さん!」
そこに現れた蟲柱を見た全員が、逃げたなと心の中で思った。
「おお、胡蝶。は今し方、お館様に報告へ行った。悪いが、風呂を貸してもらえるか?」
「……仕方ありません。医療棟の風呂を使ってください。着替えの方は、用意させておきます」
深呼吸したしのぶは、杏寿郎たち四人の状態を目視して許可を出した。
「本当は先に怪我の確認をしたいですが、さんが何も言ってないということは、先にお風呂に入っても問題ないんでしょう。上がったらご飯を用意しておきますね」
「頼む!流石に腹が減った」
炭治郎を担いだまま、杏寿郎は医療院へ向かった。伊之助と善逸もついていくのを見送って、しのぶはアオイに声をかける。
「アオイ、悪いけれど、食事や着替えの指示をお願いします」
「はい。……あの、少しお疲れのようでしたが、怪我は見当たりませんでした」
「そう。帰ってきたら、是非お話を聞かせてもらわないといけませんね。ええ、是非とも」
が消えた箇所を見つめて笑うしのぶに、アオイは心の中でに向けて合掌した。

小一時間程度で蝶屋敷に戻ってきたを待っていたのは、満面の笑みを浮かべたしのぶだった。
「お帰りなさい。お館様は何かおっしゃっていましたか?」
中庭から縁側に上がったは、赤原礼装を解除すると同時にじっと彼女を見つめる。
「どうかしましたか?」
彼の様子に首を傾げて、身長差で自然と上目遣いになるしのぶが可愛い。
「なっ!?」
温かいなとか、いい匂いだなとか、は徹夜明けで半分くらい寝ぼけた頭で彼女を抱き寄せていた。
「ただいま」
帰宅の挨拶をしながら、彼女の身体の調子を確認する。
離れていた間に特に悪化したということはなさそうだ。
『いつも通り』、ホイミやケアルで毒を消さないように体力を回復させる。
「! また治しましたね!」
ポカポカする身体に気付いたしのぶは、の腕の中から彼を睨みつけた。
「ん?ああ、この位だったら大したことな……ひふぁひ」
両頬を引っ張られると話せないんだけど、とは目で訴えてみるが、眉間に皺を寄せたしのぶはぎゅーっと引っ張った後、パチンと彼の両頬を挟み込んだ。
「何をしてるんですか。貴方のお呪いは、代償を必要とするんでしょう!?」
「耀哉を治した時は、千年分以上の呪いだったから、時間がかかっていたんだ。君の体調を整えるくらいなら、二日酔いの方がよっぽど酷い。だから、安心して回復されていなさい」
の身体を心配して、眦を吊り上げる彼女の背中を宥めるように軽く叩く。
「本当ですか?」
「勿論。俺は君に嘘はつかない」
そう言って笑うに、大きくため息を吐いたしのぶは、彼の頬に添えていた手を下ろして、肩口のシャツをぎゅっと握った。
「……言ってもらってないことも、山ほどありますけど」
「それはちゃんと時期が来たら伝えるよ」
はもう一度、ポンポンと彼女の背中を軽く叩いて、彼女を抱きしめていた腕を解いた。
実はぼけていた頭がすっきりして、彼女を抱きしめていることに気付いた時点で、内心めちゃくちゃ焦っていた。
でも、しのぶが振りほどいたりしなかったので、役得と思ってそのままでいたのは絶対に秘密にしておこうと思う。
「色々話しておくこともあるので、少し時間貰える?」
「お風呂とか入らなくて大丈夫ですか?」
「ああ、つい癖で【クリーン】を掛けました。お風呂に入ってないのに、君を抱っこしたりできないでしょ?」
彼女にオジサン臭いなどと言われたりしたら、心が即死する。
「くりーん?掃除、ですか?」
「うん。お風呂に入らなくても、汚れを綺麗に出来る便利魔法。……本当はお風呂に入った方が、血行が良くなったり、身体のコリが取れたりするのでお勧めなので、きちんとお風呂に入りましょうね」
こう言っておかないと、ご飯すら適当に済ませてしまいそうな彼女が、この魔法頼みになってしまうかもしれない。
「そんな目で見てもダメ。君の身体のためにも、一日一回はお風呂に入って、一日三食きっちり食べましょう。おやつも忘れずにね」
は基本的に甘いのだが、ただ闇雲に言う事を聞いてくれる訳ではない。
「……仕方ないですね。じゃあ、さんのお部屋でお話ししましょうか」
むーっと見上げていたしのぶだったが、小さくため息を吐いて、の部屋へと足を向けた。
「またしばらくは、ものづくりの日々ですか?」
「ああ、そうだね。君にもとてもいいものがあるよ」
ものすごくいい笑顔の彼に、しのぶが一抹の不安を覚えたのは、決して間違いではない。
今まで無意識のうちに自重していたオジサンが、この日を境に能動的に行動を開始したのだ―――

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後書&コメント

  1. 帰ってきたー!
    しばらくはイチャコラしていたい。
    遊郭篇はその後で。

    またお仕事忙しくなってきたので、更新停滞するかもです。

    もしよろしければ、アンケートにもお答えいただけますと、舞い上がって喜びます。
    http://mutuki-h.x0.com/limitbreak/?page_id=1199

    コメント by くろすけ。 — 2021/06/19 @ 12:30

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Posted: 2021.06.19 鬼滅の刃. / PageTOP