今日もは産屋敷と各柱の屋敷をルーラで飛び回り、柱の面々を集めていた。
「おはようございます!さん」
「はい、おはよう。今日も元気でいい子だね、蜜璃」
「今日は私が最後ですか?」
「うん。朝まで鬼退治してたんでしょう?少しでもゆっくりがいいって」
そこで移動用の箱の中からこちらを睨んでいる小芭内へちらりと視線を走らせる。
「小芭内が言うものだから」
「なっ!」
「そうなんだ。ありがとう、伊黒さん」
立ち上がって声をあげようとした小芭内も、蜜璃に笑顔でお礼を言われてはそれ以上何もできない。
「……御館様を待たせているんだろう。いつまでニヤニヤしている」
「はいはい。全員座った?じゃあ、産屋敷に行きますか」
睨みつけてくる小芭内に、肩を竦めたは、ルーラを唱えた。
「お疲れ様、。皆もよく来てくれたね。さあ、上がっておくれ」
産屋敷に到着すれば、中庭に面した和室で耀哉とあまねが出迎えてくれる。
和室に案内され、が全員の希望を聞いて、飲み物を用意したところで本題に入った。
「下弦の一の首を落として、上弦の参を撃退した」
そこまでは全員が鎹鴉からの伝言で聞いていた。
「それなのに、が不機嫌なのは、逃がしちゃったから?」
「……ああ、そうだよ!なんだ、アレ。あんだけ人を見下しておいて逃げるとか何!?ふざけんな!太陽も出てない時間に警戒もしてなかったわっ!次は結界で囲んでボコボコにしてやる!」
無一郎の突っ込みに、は半分切れ気味だ。
反省は既にしていたので、後はそれを生かして、待て次回である。
「その状態に追い込めたってのがスゲーんだが……聞いてねぇな」
天元が呟いた言葉に全員が頷く。相手は上弦の参なのである。
大した怪我もなく圧倒しただけでも歴史上数回しかない偉業なのだが、目の前の彼は逃げ出した相手に呪詛を呟いている。
あれからしばらくが経過しているが、彼の中の恨みつらみは募るばかりのようだ。
「ということで、やけ食いに付き合え。年上の横暴に付き合うのも、年下の役目だ」
そう言ってが取り出した団子の山に、耀哉は屋敷の者にお茶のお代わりを頼む。
が手に取るのは、醤油味の焼き団子である。彼は甘いものも食べるが、お団子はしょっぱい系が好きだった。
「の攻撃から逃げるって、どうやったの?僕らだって、躱すの大変なのに」
無一郎の言葉に、実際に見ていた杏寿郎以外の全員が頷く。蝶屋敷の裏山で時折開催される大乱闘では、全員がの攻撃を受けて大地の味を堪能しているのだ。
口の中に残っていた団子を飲み込んだは、苦々し気に話し出した。
「なりふり構わず逃げられた。攻撃を受けてボロボロになっているのに、回復しながら逃げるんだぞ?あの能力を逃走に全て割り振られると、流石に追いつかなかった。さっさと結界張っておけば……本当、馬鹿か、俺」
言いながら凹んでいくとは対照的に、もう一人の当事者である杏寿郎は、うまいうまいとサツマイモ餡が塗られた団子を堪能している。
「今回、最大の反省点ではあるな!まさか上弦ともあろう鬼が逃げ出すなどとは、俺もも完全に考えていなかった。を『軟弱』と言った見る目の無い奴だった!」
「反省点は次に必ず生かす。それはそれとして、杏寿郎一人で余裕をもって相手できるのが、序列第三位ってのが分かったのはよかった。複数人で当たれば、まあ死ぬことはないだろう」
緑茶を飲みつつ、次の団子に手を伸ばしたは、これだけは言っておかねばと、柱の面々を見渡した。
「いいな、上弦が出て来た時は単体での対応は不許可。どうしてもという時は、時間稼ぎに徹してくれ。最低でも三人以上でぼっこぼこにすること。俺たちは正義の味方じゃない。卑怯不意打ち上等でよろしく」
「そうだね。私も君たちが怪我するのは嫌だから、気を付けておくれ」
耀哉の言葉に、全員が深く頷く。
「それと、上弦の参を想定したゴーレム作るから、次回の大乱闘は、そいつの相手な」
「そんなことも出来るのか!準備が出来たら、連絡をくれ。是非とも都合をつけて、相手をしておきたい」
「そうだな。実際に戦った杏寿郎が再現性を確認してくれると、俺も助かる」
と言いつつ、しのぶに渡した鞄と同じようなものを取り出す。
「それと、改めて宣言しておく。俺は自重を止めるぞ」
「してたのかよっ!?」
思わず天元と実弥が声をあげた。
しのぶと耀哉以外の他の面々も、何を言っているのだろうと言わんばかりの表情を浮かべている。
「ああ、無意識にある程度自重していたらしい。今回のことで思い知らされたので、意識的に自重を止める。もう裏で動き出してるから」
「あーあー。俺は何も聞いてねーぞ。止めねーのか?」
天元は不穏な発言をしているを置いて、彼の隣に座るしのぶに声をかけた。
「もう無理かな、と思いまして」
「おいおい。唯一の歯止めが……」
「大丈夫だよ、天元」
しのぶの言葉に焦った声をあげる天元に、耀哉が笑う。
「社会的なものに関しては、私としのぶには確認をとっているから」
「それなら安心ですね」
無一郎もそれを聞いて安心して頷いている。
「そういうこと言う奴には、これをやらんぞ?」
渋面を見せながら、はゴソゴソと革の小さな鞄を取り出す。既にしのぶに渡してある例のアレである。
「なんだぁ?それ」
実弥は小さくて何かが入りそうには見えないソレを見る。
「俺の無限収納の廉価版だな。容量的にはこの部屋くらいかな」
「……は?」
ちなみに今居る和室は二十畳はある。
それだけでも全員が呆れていたのに、しのぶが続けた言葉が致命傷だった。
「ちなみに、私に渡してきた試作品は、蝶屋敷が裏山ごと入るそうですよ?」
「本当に自重してたんだな……」
しみじみと告げる天元に、は文句を言う。
「いいじゃないか。お前らが持ってる荷物全部入れて、おつりが来る程度に抑えたんだぞ?」
「それ、抑えてねぇから」
実弥すら頭痛がすると言わんばかりに額を押さえている。
「中に入れたものは時間が停止するから、ご飯腐ったりしないし。刀も入れられるし。良い事尽くめだろ?あ、天元の奴にはニトログリセリンを安全なダイナマイト状態にして百本ほど入れてあるから」
「本気で自重しろや!この野郎!」
思わず頭を抱えた天元に、しのぶだけが、ですよね?という顔で頷いていた。
だが、結局、刀の持ち運びや食料の確保などなどの見地から、柱全員が鞄を受け取ることになる。
そして、鞄の中に入っている自分たちの好物に気付いた時、再び全員がを生温い目で見つめたのだ―――
今回は、産屋敷での一幕。
人間やめてる柱の面々に自重を求められる魔法遣い。通常営業ですね。
天元さん大活躍。ツッコミ役重要。
あ、行冥さんと義勇さんは喋ってませんが居ますw
好物を入れてくれてありがとうと、主人公にそっとお礼を言ってます。
今年があっという間に半分終わってしまいましたね。
2月から更新を初めてあっという間でした。
そろそろ遊郭篇の準備をしていきたいと思います。
因みに主人公は天元のお嫁さんずとも仲良しで、雛鶴さんとはアオイも交えて料理談義を良くしていますという設定。
あ、まだまだアンケート募集してますので、お時間ある人は是非ご一報くださいませ!
アンケート(2021.08.05まで)
コメント by くろすけ。 — 2021/07/03 @ 15:29