魔法遣いは自重しない。24

その日は、朝から炎柱、風柱、水柱、音柱が朝からやってきて、が作った仮想・上弦の参ゴーレムと戦っていた。本当は恋柱も参加予定だったが、蛇柱からねちねちと言われそうだったので、の権限で面子を決めていた。
迎えるべき屋敷の主様は、鑑定眼鏡の使える時間という事で、自室に籠っている。
「そういえば、が列車を助ける時に出した、あの水まんじゅうのような生き物は何だったのだ?」
一人一回ずつ戦って、問題点や対戦方法を話し合っていた時、杏寿郎が思い出したように尋ねてきた。
「あー。あいつか」
杏寿郎の言葉に、あれの説明はしてなかったなぁと、はアイスカフェオレをグビグビ飲む。
「ちょっと小さいのを呼び出すから、驚くなよ?」
【召喚・スライム】
の言葉と共に、ポヨンと水色のまんじゅうが現れた。
「……なんだ、これ?」
「スライムっていってな。俺が使役している、式神みたいなもんだ」
「すらいむ」
四対の視線を浴びたソレは、ふるふると身体を揺らして、挨拶しているかのようである。
「可愛いだろ。あの子の側にも緊急連絡用に一匹置いてあるんだ」
しれっと溺愛宣言をしている魔法遣いに、天元と実弥は呆れた視線を向ける。
義勇と杏寿郎は、そんなことより目の前のふるふるした生き物に釘付けだ。
「綺麗好きだから、汚れものの片付けとか掃除とか得意なんだ。あと賢い」
賢いのは、この魔法遣いの使い魔だけであるのだが、他に知らないのでいいだろう。
「危険なんかも察知してくれるから、便利だぞ?まあ、お前らには必要ないかもしれんが」
鬼の気配が分かる時点で、こいつら人間じゃないって思ってるだった。
「衝撃の吸収には、こいつの大親分が適任だったからな。列車を受け止めてもらった」
「うむ。技を連発せねばならぬかと思っていたところだったのでな、正直助かった」
「物理攻撃が、ほぼ効かないからな。下手したら、鬼殺隊の大半が負けるんじゃないかなぁ?」
まかせて!と言わんばかりに、ムニムニ動いているスライムを、はよしよしと撫でる。
「……笑えねえ」
「この子だと、君らには勝てないよ。キングが相手なら、君らに頑張れって声援を送るけど」
実弥の言葉に、は笑って答えた。
列車を受け止めるキングなら、上弦の参に余裕で勝てそうな気がする。
なんとなく、水まんじゅうに凄いねって目で見られている気がして、義勇は手のひらでぽんぽんと触ってみた。
「!」
触った途端、スライムがオレンジ色になったので、義勇はオロオロととスライムに視線を動かす。
「ああ。義勇、大丈夫だよ。あの子に付けているスライムから連絡が来たらしい。一時間ほど何も飲み物も食べ物も口にしてないらしいから、ちょっと小言がてら様子を見に行ってくる」
すぐに元の水色に戻ったソレに、義勇はホッと安堵の息を吐いた。
その様子に小さく笑ったは、彼の頭を軽く撫でて、和室を出て行った。
「あいつが味方で良かったなぁ」
「ああ、さすが御館様。慧眼だった」
天元の言葉に大きく頷く実弥に、杏寿郎は笑っている。
「まったくだ。あの時、御館様が招いておらねば、俺はこの度の件で死んでいたかもしれん」
「マジか」
「ああ。以前の俺では、よくて相打ちだったはずだ。には感謝だな」
「あの人形程度は余裕で打破できるようになってやらぁ」
そんな会話を男どもがしているなんて知らず、はしのぶの研究室に顔を出した。
「お邪魔しますね」
声掛けもノックも意味をなさないことを知っている魔法遣いは、それでも一声はかけて室内に入る。
入った途端、スライムがの元へピョコピョコとやってきて、しのぶに小まめに飲むようにと言っておいた水差しを示す。
出て行った時のままの水差しに、はスライムを掌に載せて落ち着かせるように撫でる。
「……お疲れ様。イチは頑張ってる。この子の集中力がおかしいだけだからね。そろそろお昼だから、ニイの部屋の面々を食堂に連れてってやってくれる?俺はこの子を確保して、お昼ご飯を取らせるから」
一番目に呼び出したスライムだから『イチ』というのセンスは、金魚に『ふぐ』とつける彼女といい勝負だと、アオイからは思われていたりする。
任せて!と彼の手のひらから飛び降りたイチは、ニイのいる部屋まで向かっていった。
あの二匹に案内されて食堂へ向かう今日来ている面々を思うと、そっと視線を反らせたくなるが、こちらはこちらで難題が目の前に座っているのだ。
「まったく。困ったものだね」
一心不乱に何かを書き込んでいる彼女の後ろに立ち、一瞬のスキを突く。
「ちょっとさん!」
筆をおいた瞬間にしのぶを後ろから抱え上げると、当然抗議の声が上がるが、は気にも留めず部屋を出ていく。
「はいはい。お昼だから、ご飯食べようね」
「いつもはさんが食べさせてくれるじゃないですか」
「少しは休憩を挟むように言って、イチを付けていたのに、ちっとも休まないので強硬手段をとることにしました」
「大丈夫ですよ。これでも体力はあるので」
「残念なことに、君の『大丈夫』に関しては、信用度がかなり減少傾向にありまして。君の妹達も、君を心配しているよ。今日は一緒に食べて、安心させてあげなさい」
こんなことを言われては、彼の腕の中で大人しくするしかないではないか。

に抱きかかえられて、ご機嫌斜めのしのぶの姿に、天元と実弥はやれやれと顔を見合わせた。
あれが自分たちだったら、蹴りを入れられて、さっさと飯を食えと部屋を追い出されていたに違いない。
今日もうちの相談役は、蟲柱様に滅茶苦茶甘い。

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評価

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後書&コメント

  1. 今回は蝶屋敷の一場面。そして、お供スライム誕生。
    そのうち、欲しいっていう面々の側には、水まんじゅうが……なんてこともあるかもしれません。
    名づけのセンスは、どっこいどっこいですね。
    魔法遣いの溺愛に関しては、もはや一般常識的に扱われています。

    来週、再来週までは何とか更新できそうです。
    それが終わったら遊郭篇に突入したいなぁ。

    コメント by くろすけ。 — 2021/07/10 @ 19:08

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Posted: 2021.07.10 鬼滅の刃. / PageTOP