「それで今回は、お子様になられたと」
「血鬼術ってこんなんばっかかっ!?」
両腕を振り上げて声をあげるお子様のに、蝶屋敷の面々は微笑ましい視線を向けるばかりである。
経緯は以前ケモ耳が生えた時と大して変わらない。
しのぶをかばって、術を受けた。以上。
そう簡単に説明したら、耀哉に生温い視線をもらってしまった。
「そうか。また可愛らしくなったね、」
「いっそ、致死性の術だった方が一瞬で終わってよかった……」
八歳前後の大きさになってしまったが、産屋敷にやってきて今日もお仕事である。
「治るまでどこかに雲隠れしておきたい……」
「しのぶに地の果てまで追いかけられて、お説教されると思うよ?鎹鴉達も心配してるし、包囲網は分厚いからね」
中庭の見える鴉達の羽数が多いのは見間違えではなかったようである。
「それに、今ならもれなくカナヲと柱は全員参加だな」
うっかり両手を組んでゲンドウポーズを取ってしまうくらい、彼は疲れているらしい。
「何がそんなに嫌なんだい?」
「女性陣に可愛がられる。抱きしめられる。……勘弁してくれ」
中身は大人のままなのである。マジで恥ずか死ぬ。
ふんわりといい匂いとか、ふよんとした柔らかさとか。既に理性が死にそうだった。
「カナヲが心配して一緒に風呂入るとか言い出すんだぞ?風呂と脱衣場に鉄壁を錬成した俺は天才だった。風呂上がりに拗ねまくったカナヲを、宥めるくらいなんてことない。うん」
「ああ、初『弟』って事かな」
「みたいだな。あの子もニッコニコで俺を抱っこしようとするし。逃げると回り込まれるし。大魔王かよ……」
ぶつぶつと文句を言いながら仕事を再開するに、耀哉は苦笑いを浮かべる。
「愛されているね」
「……おう。十八の女の子に抱きしめられるとか、心が張り裂けそうだぜ」
今だっていつもの和室で仕事しようとしたら高さが合わず、座布団を数枚重ねて資料を読んでいる始末である。
「よし。ここまで順調に進んでるな。キリもいいし、今日はここまででいいだろ」
「それで非常に言いにくいんだけど」
「ああ……視線は感じてた。出来ればこのまま帰りたかったんだけどなぁ……」
六対の視線がふすまの向こう側から感じられる。
「耀哉、だいぶ食べられるようになったって聞いたけど、甘さ控えめロールケーキならイケそう?」
「ああ。食べられなかったら、が食べてくれるだろう?」
「日頃の減量を台無しにしようとする発言、ありがとう」
は笑いながら、いつものように人数分のケーキを用意し始める。
「仕事は終わったから、入っておいで。あまね様も、一緒に食べましょう?」
その日、産屋敷では六人の子供がケーキをもぐもぐする光景を、耀哉とあまねが幸せそうに眺めていたという。
「ただいま……」
今日もいつも通り中庭からひょいと蝶屋敷に戻ってきたの声が、いつもよりは声は抑え気味なのは、お察しである。
「お帰りなさい。さん」
だからと言って見逃してもらえるほど甘くもないのだが。
「きりのいいところまで終わりました?」
縁側から部屋へ向かおうとしていた彼に、しのぶが声をかける。
「ああ。鬼殺隊の隊士用装備品はひと段落かな。この後もまだまだやることは山積みなんだけどね」
日輪刀の廃刀を現在かき集めてもらっていた。勿論、遺品もあるので、無理にとは言わないが、折れたり欠けたりの刀もあった。ちょっとだけもらった欠片を【鑑定】して、色々楽しんでいるところである。
縁側に立ったまま考え込み始めたに、しのぶは小さく笑ってしまう。
「ん?どうした?」
「なんでもないです。それより、はい」
にっこにこで両手を広げられては、に退路などない。
「誰だよ。ただいまの挨拶はハグにするなんて決めた奴は」
「始めたのは姉さんですね。広めたのは、間違いなくさんですね。本人に自覚がないのは問題ですよ?」
「一生自覚したくなかった…」
その後の夕餉の席で、えらく機嫌のよい蟲柱様がいたとかいないとか。
回復するまでの二日間。
抱っこされたり、膝の上に載せられたり、しのぶとカナヲに散々弄ばれたは、次から血鬼術はリフレク対象にすることを魂に誓った―――
閑話休題編。久しぶりのご都合血鬼術。
抱っこやら、撫でられるやら、オジサンの心は張り裂けそうだw
さて、次回は覚悟を決めていただく回になる予定。
コメント by くろすけ。 — 2021/07/17 @ 19:35