彼らが潜入して数日が経過していたが、上弦は巧妙に隠れている様子だった。
「善逸と連絡が取れない?」
その日、夕方になって合流場所にやってきてみれば、弟分のような一人が現れないと言う。
「捕まったと思うか?」
「相手が上弦だからな。間違いないだろう」
「……よし。天元、炭治郎、伊之助。それに禰豆子も聞いてくれ」
が話し出した作戦に、天元は顔がニヤケテいく。
「本当に少しは自重をしろよ、魔法遣い」
「はっ!そんなもんは、この間の無限列車に捨てて来た。お前の嫁さん達と、善逸を取り返して、あいつらの頸を持って、この鼻が曲がりそうな匂いの場所から帰るぞ」
炭治郎は世話になった鯉夏に挨拶に行くと言う。嫌な予感しかしないので、も同行する。
天元は切見世にいるという雛鶴の元へ向かう。
伊之助には荻本屋にあるという隠し通路から鬼の隠れ家を探して貰う手筈だ。可能であれば行方不明になっている人たちを早めに助けておきたいのだと、に頼まれた伊之助は張り切って、店に戻っていった。
場所自体は地下にあることは分かっていたが、この時間から爆薬で地面を吹っ飛ばす訳にもいかない。
「完全に日が落ちる前に行動開始するぞ」
「よし、派手に行くかっ!」
四人は三方に分かれて行動を開始した。
炭治郎が挨拶している間、は屋根の上で街を見回す。
「吉原遊廓、男と女の見栄と欲望、愛憎渦巻く夜の街……ねぇ。資料で見てるだけが良かったなぁ」
花魁道中を見れたのは資料的な意味で価値はあったように思うが、炭治郎でなくてもわかる、この街に充満する甘ったるく胸焼けしそうな濁った匂いに、気分が良くなることはない。
「…ああ、やっと動くか」
そんな中、一際、どす黒い気分の悪くなる気配が感じられた。
「炭治郎、陽が落ちた。来るぞ」
窓の外から声をかけると、そこへそれは来た。
「鬼狩りの連中?これから鯉夏を食べるのよ。邪魔しないで?」
いつの間にか部屋の中に入り込んだソイツは、鯉夏花魁に帯を巻きつけ取り込もうとしているように見える。
「柱じゃないやつは要らないわ。私は汚い年寄りと不細工を喰べないし」
「その人を放せ!」
「誰に向かって口を利いてんだ。お前は」
炭治郎の声に、軽く切れたらしいソレは、帯を使って攻撃を放つ。
「……全く、どいつもこいつも。美人を殺すとか、物理的に食べるとか。美人の死は社会の損失って知らないのか?」
だが、炭治郎への攻撃は、さらりと赤原礼装をまとった男に相殺される。
「何?あんた、柱……じゃないわね。強そうに全く見えないし」
「まあ、俺はごく普通の一般人だからね。柱と一緒にされるのは、困るな」
今ここに柱の面々の誰かがいたら、完全にツッコミを入れていたことは疑いない。彼を兄のように思っている炭治郎でさえ、の背中を見ながら、呆れた表情を隠さない。
「それで?ただの人間に、攻撃を捌かれた気分は如何で?」
「ただの人間風情が、まぐれで助かったくらいでいい気にならないことね」
「おお、怖い。……炭治郎。禰豆子を外に出して、一緒に戦いなさい」
「はい!」
「補助はするから。まずは君の全力をぶつけて、成長を見せてくれるか?」
そう。この男は、上弦の鬼を若者の踏み台にする気満々だった。
「禰豆子は炭治郎と連携をとってね。あと、他に被害が行かないように注意すること」
「ん!」
「あんた……鬼を舐めてんの!?」
「いいや?舐めてもないし、油断もしない。お前らは唯の人間の踏み台になって滅びろ」
「それを舐めてるってっ!」
「お前の相手は俺達だっ!」
に襲い掛かろうとする上弦の前に、炭治郎が立ちふさがる。
「むー!」
「炭治郎、禰豆子。今はまだ『コレ』は本調子じゃないからね」
「だれが、コレよ!堕姫っていう名前があんのよ!」
「そう。ということなので、いきなり全力で行こうとしないように」
「はい!」
とは言っても、炭治郎の力では、全力で行ってもまだまだいい勝負というところだろう。
「炭治郎、禰豆子。それはよろしく。俺はこの人の怪我を治して避難させてくる」
「え!?」
堕姫はの腕の中にいる鯉夏に目を丸くした。
先ほどまで自分の帯で捕えていた彼女は、既に解放されて怪我を治すためか、水薬を渡されている。
「無理だけはしないように。今までの訓練の成果を楽しみにしてるから」
「ほざけっ!その女を返しなっ!」
「それは無理」
帯の攻撃をスルリと避けて、は鯉夏を抱えて部屋の外へと飛び降りる。
「店の裏から逃げてください。お店の人と、可能なら近隣のお店にも声を掛けてもらえると助かる。アレの相手は俺たちがする」
「大丈夫なのですか?」
飲み薬を飲んだ後、体の痛みがすっと消えた鯉夏は、男の顔を見上げる。
「ああ、問題ない。ただ、他人を庇って戦う余裕はないから、是非ともこの近辺からは逃げてもらえると助かる。……明日ここを出て行って、是非とも幸せになってください」
「……はい。ありがとうございます」
頭を下げる鯉夏に、護衛のためにスライムを一匹召喚してコッソリつけておく。街を出るまでの臨時護衛である。
「さてさて、大丈夫かな?」
屋根の上を見れば、炭治郎と禰豆子の連携で、堕姫を抑え込んでいる。
「んー」
炭治郎の攻撃を見ていて思う。『水』との相性があまりよくない。というより彼がヒノカミ神楽と呼ぶ『日』との相性の方がいいんだろう。ただあの地獄のような鍛錬を行っても、まだ成長途中の彼の身体では反動の方が多いという難点がある。
出会った当初は腑抜けていた杏寿郎の父親は、ぶっ飛ばして語り合って、今ではいい酒飲み友達である。彼の家に伝わっていた書物がボロボロになっていたのを見て、その原因をもう一回殴ったのもいい思い出だ。【修復】で元通りに戻したが、達筆すぎてには全く読めなかった。【鑑定】や【解析】で読むことも可能だったが、普通に読める槇寿郎と千寿朗に任せてある。
杏寿郎は元柱の彼に再度稽古をつけてもらっている。やはり、本気の師範は違うなっ!と楽し気に笑っていたのを思い出す。
そんなことを思い出している間に、地面を伝って揺れが足元から感じられた。
「お、あちらでも始まったか。嫁さんを助け出した天元は、容赦ないだろうなぁ」
本格的な鬼退治が始まろうとしていた―――
次回、吉原編完結(予定)
あの子が出てこないのが、めちゃくちゃ辛い。
描いてる原稿では既に帰っているので、幸せ。
そして、お盆というなの夏休みが、お仕事のせいで全く取れなかったので、原稿は進んでません。
吉原編が終わったら、温泉かー。温泉。いいですよね。
こんなご時世が過ぎ去ったら、また温泉行くんだ。旅行先でも仕事が入ったことあるんで油断はできないですけどね!
コメント by くろすけ。 — 2021/08/21 @ 21:45