魔法遣いは自重しない。30

彼は実に甘い。優しいというレベルはとうの昔に通り越して、でろっでろに甘い。
というのが、鬼殺隊の上層部の共通認識だった。
「本当に甘いよね」
蝶屋敷に来て上弦の参ゴーレムと対戦した無一郎は、おやつのプリンアラモードを食べながら、他の皆にも甲斐甲斐しく世話しているを見ていた。
「ん?今日の生クリームは甘いか?」
無一郎の呟きに、は小さく首を傾げる。
「美味しいよ」
「それなら良かった。無一郎はまだまだ成長期だからな。しっかり栄養を取って大きくなりなさい」
「……成長期、って何?」
「子供から大人になる過程で、最もカラダが成長する時期のことだよ。二回あって、無一郎はその二回目真っ只中なんだ。その時期に栄養と睡眠をきっちり取ると、大きくなれるよ」
視界の端で、蛇柱様と蟲柱様が衝撃を受けているようにも見えるが、とりあえず置いておこう。
「行冥さんみたいになれる?」
「遺伝的な要因などもあるから、絶対じゃないんだけどね。きちんと食べて寝たら、俺くらいにはなれると思うよ」
「それは楽しみ」
「ああ。俺も楽しみにしてる」
そう言って優しく笑って撫でてくれるの手が嬉しい。
「無一郎も鬼退治が終わったら何をしたいか考えておいてくれよ?可能な限り、希望を聞く予定だからね」
「鬼退治が終わったら……」
「おう。放浪の旅がしたいとかでもいいぞ?ただし、寝太郎生活は三年までな。働かざる者食うべからず、だからな」
三年も寝太郎生活してもいいとか、本当には甘いなぁと無一郎は思う。
「今日は晩御飯食べていくか?」
「うん。家の人にもそう言ってきた。の作る料理は別格」
「そうか。じゃあ、腕を振るわないとな」
「楽しみにしてる。……ご馳走様。晩御飯前までもう一回挑戦してくる」
「おう。気をつけてな。キング、見守りは頼むな」
声を掛けられた一際大きいスライムがポヨンと跳ねた。
全員が食べ終わったおやつのお皿を抱えて、台所へ向かう彼の背中を見ながら、無一郎はもう一度呟いた。
「本当、甘いよねぇ」
「そうだな。だが、甘過ぎはしない。よい男だ」
無一郎の呟きに行冥が答え、蜜璃が大きく頷いた。
「ですよね!今日のお昼も皆の好物がたくさん用意されてましたし」
「そうだな」
出来れば同じように自分の屋敷でも蜜璃をもてなしたいと思っている小芭内は、に色んなものを頼んでいたりする。
彼が自分で言うのは何となく癪に障るので、鏑丸を仲介に挟んでいるあたりが、小芭内らしいなどとが笑っていたのを知る者は、この場ではしのぶだけだ。
「じゃあ、先に行くね」
無一郎が立ち上がると同時に、キングがポヨンと跳ねる。
一人と一匹が部屋を出ていくのを見送った大人組の元へ、が戻ってくる。
「無一郎はもう行ったの?」
「ええ。キングがついていきました」
「おやおや。食べてすぐの運動は、あんまり良くないんだけどなぁ。ま、そうも言っていられない場合もあるから、たまにはいいか。なんかあれば、キングが止めるだろ。で、どうだった?アレの相手」
しのぶの隣に、よいしょと胡坐をかいて座ったは、大人組に聞いてみる。
「うむ。近接戦闘だけなら全く問題ない」
「だが、血鬼術が混じると一人では対応が厳しい。離れて攻撃では色々足りないな」
行冥と小芭内の説明に、蜜璃としのぶも頷いた。
「二対一なら余裕?」
「いや、ギリギリといったところだ。連携攻撃が上手く繋がるようになれば余裕も生まれるだろうが」
「なるほど。……連携じゃなくて、合体攻撃ってのはどうだ?」
「は?」
また何か言い出しやがったとは誰も口にはしないが、視線が色々物語っている。
「繋げるんじゃなくて、一緒に攻撃するんだよ。小芭内と蜜璃の攻撃方法は似ているけど、系統が違うだろ?」
は小さな黒板を取り出して、説明を始める。目の見えない行冥にも伝わるように説明をしてはいるが、拙い絵でもあると想像がつきやすい。
「どうよ?」
「小芭内さんと一緒なんて、心強いわ!」
蜜璃がこう言ってしまえば、小芭内の返事など決まったも同然である。
「……やってみる価値はありそうだな」
「他の面々との攻撃方法も考えるのアリか。行冥の攻撃を天元の爆破で後押しするとか……色々吹っ飛びそうだな」
小芭内が蜜璃と話始めるのを見ながら、がボソリと呟いた言葉に、行冥が手を合わせる。
「威力が上がるのであれば、一考の余地はあるか……」
「近接戦闘系は、やはり基本は連撃になるんだろうなぁ」
「ふむ。手数が倍になると考えるだけでも悪くはないな」
「そうだなぁ。風と炎とか相性よさそうだし。あの二人だと、突撃しかしなさそうだけど。ま、俺の援護の中、突貫かな。俺の魔法は自動識別ついてて、味方を傷つけたりしないから」
「なんと、便利なものだな」
「行冥の攻撃は範囲が広いから巻き込まれる確率高いものなぁ」
「ふむ。次はその辺りを考えながら、ごーれむを倒してみるとしよう」
「気をつけてな」
「うむ。今度、うちの方にも来てくれ。皆、楽しみにしている」
「猫まんま抱えていくよ」
行冥が裏山へ向かうのと同時に、小芭内と蜜璃も立ち上がる。
「俺達も早速試してみるか」
「ええ!頑張るわ!」
「二人も気を付けてな。適度に休憩と水分は摂取してくれ」
の言葉に、二人は頷きと笑顔で答えた。
「やれやれ。この国の人間は、適度に休むとか知ってるのかね」
さんがそれを言いますか」
子守歌と羽織を貸して寝かしつけたのはつい先日だったのだけれどと、しのぶからジトっと目で見られるが、むしろ彼女の方が色々根を詰めている事が多い。
「俺はどうしようもない時しか無理しないし。その後、しっかり休むし」
机の上にぐでーっと身体を寄りかからせるに、しのぶは眉を顰める。
「行儀が悪いですよ」
「……気持ちいいよ?」
ぐっと身体を伸ばした彼は、しのぶを見上げてヘラリと笑う。
「全く。時々子供っぽいんですよね」
「……君はもっと子供っぽくなってもいいんだけどね」
身体を起こして困ったなぁと笑う彼を、見つめてしまう。
「まだ十八歳なんだって忘れないで」
そう言って撫でてくる彼の手はとても優しい。
「ズルいんですから」
「そうかなぁ。ちょっとイチにお願いして、君に危険が迫ったら、緊急通報してくださいってお願いしてるとか。ちょっと試作品に力入れて、君を依怙贔屓してるとかくらいなんだけど」
「……本当に、何をしているんですか」
「俺は君を甘やかすというモットーを全力で頑張ってるだけです」
ジト目で見つめても、はしのぶの頭を撫でる手を止めない。
「甘やかし過ぎです。頼ってしまいますよ?」
「俺にとっては本望ですね」
「本当にさんはズルい」
しのぶはにもたれ掛かって、目を閉じた。

……キング?」
しばらくして、ゴーレム撃退に成功した無一郎が部屋から出てきたを呼び止めようとしたが、キングのにゅっと伸ばした手に止められる。
「ああ、無一郎。この子がちょっと寝ちゃったから、小声で頼むよ」
「寝ちゃった?」
「うん。昨日、遅くまで研究してたみたいでね。このまま、俺の部屋に連れて行こうと思って」
しのぶを大切そうに両腕で抱きかかえたは、小声で話しかける。
「本当に、甘いよね」
無一郎の呟きに、は内緒なと小さく笑った―――

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後書&コメント

  1. 残りの四人とVSゴーレム編。
    と見せかけておいて、ただの甘やかし話です。
    オジサンは女の子を甘やかすのを命題に掲げているので、頑張ってます。
    イチはいつもは羽織の袂に潜んだりして、何があっても決して離れないようにしてたりします。緊急通報があった場合、他の全てを放り出して、魔法使いが助けに向かいます。
    本当に鬼が気の毒なレベルです。

    コメント by くろすけ。 — 2021/09/18 @ 21:05

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Posted: 2021.09.18 鬼滅の刃. / PageTOP