「はい。おはようございます。今日は朝早くから訓練です」
まだ目が空ききっていないが寝癖を付けたまま、集まった皆を前に手を挙げた。
「さん、寝ぼけてます?」
しのぶは呆れた声で彼を見る。
「あー、ちょっと頭痛くて、すっごい眠い」
「あれから飲んだんですね」
「刀談議で長老たちと盛り上がっちゃったんだよね。刀の改造方法とか、あと鬼に効くっていう赫刀について。それで、ついつい。出してもらった山菜の天ぷらも美味しくて、これがまたビールに合うんだよ」
「自業自得だ。愚か者め」
そう言う小芭内の肩で、鏑丸も呆れたようにシャーっと鳴く。
「明日明後日が終わったら、君たちの刀の強化に入るから、少し大目に見て」
「先に刀の強化はできないの?」
無一郎は呆れながらも、目の前の魔法遣いが無駄なことはしないと知っていた。
「明日の夜、上弦二人が来るから、その後ね」
「……はぁ!?」
しれっとが告げた言葉に、その場にいた全員から、正気か!?という視線を彼に向けた。
カナヲや炭治郎も例外ではない。
「俺の直感と耀哉の予感が合致してる。だから、柱を四人を派遣してもらって、若手有望株と甲十人を連れてきたんです。明日の夜には里の中心部に結界を張って職人には被害が出ないように、長たちと話を通してありますよ。伊之助と善逸を連れてこれなかったのは残念だけど、今回はカナヲと玄弥に参加してもらいました」
甲の隊員達は、里に常駐している隊士達と共に、現在上弦の参ゴーレムと組手訓練中である。彼らには基本的に里の人を守ることをお願いする予定だ。
「言っておくけど、君らなら余裕って思ってるから。無惨の前哨戦として、肩慣らしってとこだね」
最早上弦すら前座扱い。
新技と新兵器のテストをしておきたい、自重をしない魔法遣いは、本気で容赦ない。
「で、こちらが今日の相手です」
が示した先にあったのは、一部壊れかけた腕が六本あるカラクリ人形だった。
「あ、も知ってたんだ」
「勿論。産屋敷の資料を全部読み切ったからな。血を継いだ無一郎と、技を継いだ炭治郎に、是非とも会ってもらいたかった。日の呼吸の使い手、始まりの人、無惨を追い詰めた人、などなど逸話には事欠かないお人を元に作られたのが、このカラクリです」
動き再現するのに六本腕が必要だったとか、どんな人外だよと思わないではない。
「さっき、動作確認をしたところ。まあ、よく動いてるよね!って感じです。しかも、こんなのが入っているし」
ボロボロの古い刀を手にはため息をつく。
「さっき?」
ギリギリまで寝ていたと思っていた魔法遣いの言葉に、しのぶはピクリと眉を上げた。
「え?あ、うん。あ、こちら、このカラクリを継承してきた小鉄君」
からくりのそばに立つ少年を示すと、ペコリと彼は頭を下げる。
「そのまま使うと壊れそうなので、【鑑定】して、【複製】【修復】したんだ。本物の修復は手引書をまとめたので、彼に頑張ってもらう予定。三体ほどあるから、休憩を挟みながら、まずは一人ずつ手合わせしていこう。その後、数人ずつ連携込みで対戦ね。今日は一日そんな感じで」
準備を始めた炭治郎達を見ていたの後ろから、しのぶが近付いて声をかけた。
「さん」
「はい」
振り返ったの表情が幾分強張って見えるのは、どうしてだろう?とカナヲは首を傾げる。
「昨日、どのくらい寝たか教えてもらえます?隠し事があるなら早く吐いた方が身の為だと思いますが」
「……すみません、俺が全面的に悪かったです。後で、きっちり昼寝するから、許してください」
つまり、長老達と飲み明かした後、そのままカラクリを見に行って夜を明かしたということだ。
「いつも極一般人だと主張されるのに、またですか」
眉をへちょっと下げて謝ってくるに、しのぶは盛大にわざとらしくため息をつく。
「今ここでダメになるやつを出して、せめて横になって見学してください」
「……はい」
「全く、自分のことになると、本当に無頓着になるんですから」
縁側にごろりと横になったの隣に、しのぶとカナヲが並んで座る。炭治郎と玄弥も初めに対戦する三人の柱の戦いを並んで見つめる。
「今日は鍛錬、明日は日が落ちるまで休息ということで良いですか?」
激闘の音が響き始めた山林を見つめながら、しのぶは準備している薬の確認を始めた。
怪我や疲れは強制的に回復させて、一日みっちり『ぱわーれべりんぐ』とやらになる予定だ。時々、目の前の魔法遣いは笑顔で鬼のような訓練を課してくる。
「うん。今日はみっちり訓練に費やします。俺も一眠りしたら、一度あれとやり合っておきたいし。その代わり、明日はしっかり休養をとって迎撃します。……奇襲をかけたつもりのところを、待ち伏せされるって、どんな気分だろうねぇ」
ちろりと黒いモノが覗いている魔法遣いに、鬼を哀れに思う時が来るとは、想像もしなかったしのぶだった。
ちょっと短め。
次回、刀鍛冶の里篇終了。(予定)
負ける要素など、カケラもないあたり、魔法遣いは自重してません。
なので、戦闘は原作沿いで、しれっと終わるはずです。はず。
終わるといいなぁ。
コメント by くろすけ。 — 2021/11/13 @ 21:23