「はい。今日はお疲れさまでした。明日は夕方まではお休みにするから、ゆっくり休養を取ること。あんまり温泉に入りすぎて、逆に疲れたなんてことのないようにね」
「はい!」
炭治郎と玄弥がボロボロになりながらも、元気に返事をする。
「明日が終わったら、あのカラクリの動きを再現するゴーレム作るかなぁ。カラクリのままだと、小鉄君か俺が居ないと動きの再現が出来ないし……」
ブツブツと言いながら温泉に向かうの眉間には皺が寄っている。
だが、すでに鬼退治が終わった後のことを話す彼に、最早全員が突っ込まない。
小芭内ですら、呆れたようにため息を吐くだけである。
次の日、お昼過ぎには、職人の全員を長の屋敷に集合させていた。
そこには、鬼殺隊の隊員や隠も全員が集まっている。
「よーし。全員揃ったな。今回の計画の責任者のだ。本日これから上弦の襲撃がある。この屋敷を中心に結界を張るので、職人さんと隠は、よほどの理由がない場合は、そこからは出ないように。大した理由もなしに外に出た場合、後から俺の説教を本気で受ける事になるから、要注意」
里長の隣に立った魔法遣いは、風による拡声魔法を使いながら、全員に説明していく。
「明日の昼飯は、焼肉大会だ。俺が全力でうまいものを用意している。無理して食べられなくなっても、俺は知らんからな」
あちこちで歓声が聞こえる。
「よし、解散!太陽が落ちる前に行動開始!」
両手を叩いて、は行動を促され、力強い返事と共に、各々の場所へ動き出した。
それは、するりと里の裏手へと姿を現した。
「おや。唐突に来たな。せめて方向が分かるかと十キロ圏内を索敵していたのに。……空間移動系の能力者がいるな」
索敵範囲に唐突に表れた、ソレらには立ち上がった。
「さてと。二体来たみたいなんで、手分けして対処しよう。小芭内と蜜璃、炭治郎と禰豆子、玄弥であっちから来る奴の相手をお願い」
「おい」
「蜜璃に禰豆子が懐いてるんだ。諦めてくれ」
「……ちっ」
「小芭内が納得してくれたところで、俺達はそっちから来る奴の相手をしましょう。イチとサンも頑張ろうな!」
しのぶとカナヲの肩で、ポヨポヨと水まんじゅうがやる気になっていた。
「端的に言えば、変態だな。まあ、だいたいの鬼が変態だが」
上弦の鬼を視界に入れたの第一声がそれだった。
「さん?」
しのぶの声が冷たいのは、とりあえず置いておこう。
「見てわかるように増殖系。毒と水攻撃。水に取り囲まれないように、気を付けて。イチ、サン、万が一の時はフォローよろしく」
ポコポコと奇妙な生き物を生み出すソレから、簡単に読み取った鑑定結果を伝えておく。
呼吸の使い手は、弱点が肺と喉で、呼吸が出来なくなるとただの剣豪レベルになってしまうのが致命的だ。どこの波紋の使い手だとツッコミを入れたくなったのは、ここへやってきた当初の話だ。
「じゃあ、僕は行くから」
「油断しないようにね」
それさえなければ、ここにいる面々がアレ程度に遅れはとらないと、知っている。
「うん。の薬も持ったし。……やっと霞が晴れる気がする」
「そうか。楽しみにしてる」
の声を背に受けて、無一郎は駆けだした。
「さて、俺達も……雷……?」
その後に続こうとしたが、山に響きわたる轟音にが足を止めて、音のした方を振り返る。
「さん?」
彼が足を止めたのに気づいたしのぶが声を掛けた。
は、いつもの笑みの消えた、ともすれば怒りを耐えているような表情をしている。
「しのぶ、カナヲ。こちらは任せます」
「承知しました。さんもお気をつけて」
その彼の言葉にしのぶが即答し、カナヲも力強く頷きを返す。
「イチ、サン。全力でサポート」
イチとサンが、二人の肩の上で、フルンと揺れた。
【瞬歩】
「ふふっ」
「師範?」
一瞬で姿が見えなくなったを見送ったしのぶが小さく笑った事に、カナヲは首を傾げる。
「あの人に『任せる』と言われるのは、少し心地がいいですね。では、行きましょうか、カナヲ」
「……はい!」
無一郎の援護に二人が動いたことで、最早勝ち目などなかった。
「無事かっ!?」
駆けつけたの目の前で、蜜璃が雷を斬って捨てた。
「……おおっ、マジスゲー」
「。どうした」
「いや、雷様の音が聞こえたから、念のため確認に……。何、アレ?」
風神雷神を混ぜたような鬼を指さして首を傾げる。
「俺としても、に見てもらえるなら助かる。さっきから何度か分割して、頚を落としたが、塵になる気配もない。竈門兄妹と不死川弟には、本体らしき奴を追わせている」
「了解」
面倒くさくて仕方ないと言いたそうな小芭内の言葉に、は蜜璃が分割しては復活している奴を【鑑定】する。
「くくくっ……」
「どうした?」
急に笑い出したに、小芭内は不審そうな目を向ける。
「あれ、鬼の特性を持ってる。でも、鬼本体じゃないから、首を斬っても死なない」
「なっ!」
小芭内が驚きの声をあげる横で、はガッツポーズを決めた。
「つまり、何度壊しても自動で回復するサンドバックだっ!」
「は?」
呆れる小芭内を他所に、は若手に指示を飛ばす。
「炭治郎、禰豆子、玄弥。鬼の本体を探せ!急ぐとか考えなくていい。確実に追い詰めて、潰せ!」
「はい!」
今まで蜜璃と小芭内のためにと、気の急いていた三人は、これ以上ない援軍の登場に落ち着きを取り戻す。
「小芭内!蜜璃!こっちは、あれで訓練の続きするぞ!雷だけは何かあると困るから、これ!薬指以外にはめておいて!」
さんごの指輪を二人に投げる。自身は全属性吸収・無効化の英雄の盾をコッソリ装備しているので、基本的に属性攻撃を受けてもノーダメージである。
「わかったわ!」
「……あれを的にしろという事だな」
「そう。俺の修理すら不要だなんて最高じゃないかっ!思う存分壊すぞっ!あ、単独攻撃のみで、よろしく。小芭内と蜜璃の連携が強いのは知ってるから」
「頑張るわ!」
「ふん。お前に言われるまでもない」
無限再生と対するは、魔法遣いと柱二人。
雷対策さえ終われば、圧倒的である。
「お前が擦り切れるのが先か、お前の大元の頚が落ちるのが先か。いざ尋常に勝負と行こうかっ!」
ここで自分たちが負けるなどと思っていない辺りが、魔法遣いらしいと蜜璃は笑った。
そして、サンドバックと化したソレを、最早何度目か数えるのも面倒になってきたほどに、地べたに叩きつけた時。
「!そろそろ太陽が昇る。あの箱を持っていけ!」
小芭内が白み始めた空に気付き、少し後ろにいるを促す。
「禰豆子は大丈夫」
「さん!」
蜜璃も声をあげるが、は軽く首を振った。
「あの子は太陽を克服してる。無惨より鬼の資質が高かったってことかな。全く嬉しくないだろうけど」
は数日前から気づいていたが、無理に外に出そうとも思っていなかった。
「そろそろ終わらせよう。もう一体の上弦も終わったみたいだしね」
【直死の魔眼】を発動させて、ソレを細切れにしてしまう。
何度も再生を繰り返していたのに、の攻撃では全く再生しなくなる。
「こいつの視界を通して見ているだろう?そのうち、会いに行ってやるから、部屋のスミでガタガタ震えて命ごいをする心の準備をしておけ」
昇ってくる太陽を背に告げる青年と、太陽の日差しの中を歩く禰豆子に、ソレは心の底からの恐怖と歓喜を覚えていた―――
あっさりと戦闘は終了。
任せる。のシーンが書きたくて書いてたら、仕事で死にそうになっててすみません。
年内もう一回くらい更新できるといいなぁと思ってますが、年末行進+スタッフの病気休養により、引き続き仕事はデスマーチを続行中なので、わかりません。
とりあえず年末年始休暇を取れることを祈りつつ、頑張ります。
コメント by くろすけ。 — 2021/12/11 @ 19:54