それは、魔法遣いが蝶屋敷に居候を始めてまだ一月も経たない頃の事。
「調理まで始めたんですか?」
炭治郎とアオイに、が縁側で何か楽しそうに準備をしていると聞いて、やってきてみれば、抱えられそうな大きさの金属で出来た箱を前に火を起こしている。
「移動用竈の研究中って言って欲しいなぁ。七輪は素晴らしいけど、携帯するには重いんだよ、あれ」
そう言いながら、成型炭に火入れをしている魔法遣いの隣には、串焼きが十本ほど用意されている。
「美味しそうですね」
「焼きたての串焼きと、キンキンに冷えたビール。優勝間違いなしです」
特製調味料もあるしね、と笑う彼に、しのぶも思わず笑ってしまった。
「さんのお陰で、遠征の食糧事情が良くなりましたね」
「……あれはダメ。何も食べないよりはいいけど、アレはダメ」
試しにと一口食べた彼が浮かべた表情を思い出して、しのぶはクスクスと笑う。
「カロリーは少なくて、腹が膨れるなんて、君たちには最悪なんだよ?」
「カロリー…熱量でしたっけ?」
の隣に座りながら、ジリジリといい色になっていく串焼きを見つめる。
「ああ、うん。人間は何もしなくても身体にある栄養を使用しているんだ。働き者の君たちは、きっちり食べないとダメ。……超絶に不味いし」
最後に付け加えた一言が、本気で改良を始めた一番の理由である。
「今日もお疲れさまでした」
そう言って、銀色の缶を開けた彼は、串焼きから一つ肉を飲み込んで、缶を傾ける。
「くはー。……そんな恨めしい目で見られても、未成年にはあげられません」
「本当に二十歳を楽しみにしてますからね?」
ジト目で彼を見ながら、渡された柑橘系の炭酸水を口に含む。
「……ああ、とっておきの秘蔵っ子を用意しましょう」
彼女が未来の約束をしてくれるのを毎日聞きたくてしかたない魔法遣いは、上機嫌でホタテの貝柱串を焼き台から持ち上げる。
「はい、あーん」
差し出された貝柱を口に含めば、程よい塩味でとても美味しい。
「海老も食べる?」
「いただきます」
が焼いている海老串はぷりぷりで美味しそうだ。
最近、餌付けされているというのは、しのぶも自覚していた。
少しでも食べる量が増えて欲しいと思っているアオイやカナヲも止める様子はない。
「美味しい?」
「ええ。さんのご飯は美味しいです」
「まあ、俺の場合、素材自体が反則技ですからね。ここへ来て確認した中で、蝶屋敷の子達が一番栄養状態が良かった。君が頑張ってきた証だ。胸を張って、誇っていい」
そう言って、頭を撫でてくるの手を大人しく受け入れてしまうくらいには、彼が認めてくれることが嬉しい。
「よく頑張りましたね。後は任せておきなさい」
「……さんは本当にズルい」
そんなことを言われたら、寄りかかってしまいたくなる。
姉が死んでから、この屋敷と子供たちを守らなくてはと、必死で踏ん張っていたのに。
「大人に甘えていいのは子供の特権だよ。今までの分を取り戻すくらい、俺に甘えなさい」
そう言って、彼が優しく笑うものだから。
「本当、まだ十八だって自覚してほしいなぁ」
腕の中で眠ってしまったしのぶの意外と幼い寝顔に、は苦笑する。
彼女が寒くないように毛布で包み込んで、背中を優しくぽんぽんと叩いた―――
短いけど、今日はアップしたかった。
誕生日おめでとう。
コメント by くろすけ。 — 2022/02/24 @ 19:50