「さて、悪だくみを始めようか」
そう笑って魔法遣いは最後の戦いへの幕を開けた。
「まずは上弦の壱の情報を伝えておくな」
よいしょっと、黒板を取り出したは、【上弦の壱について】と書き出した。
「簡単に説明すると、縁壱のお兄さんに当たる。無一郎の遠い遠いご先祖さまだな」
「は?」
しれっと爆弾情報をぶち込んでくる彼に、全員が声を上げる。
「だからこそ、呼吸を使えても不思議はないということなのかなぁ。【月の呼吸】って言ってました。弟に対する拗らせっぷりがよくわかる呼吸ですね。【日の呼吸】への対抗心が溢れすぎ。その辺を弄ると冷静さは削れそうです。この国のお兄ちゃんは、どっか拗らせるのが基本なのか?」
「ちげーよ!」
から視線を向けられた実弥が声を上げる。
「僕のご先祖様……」
「後でもう少し詳しく教えてあげるけど、無一郎の方が断然強いぞ」
「そうなの?」
は笑って、弟枠にいる無一郎の頭を撫でる。
「ああ。アレはな、自分の足で歩くのをやめて、鬼の血に頼った。確かに人間は脆いよ?だからこそ、強いのだと、思い知らせてやろう」
「うん!」
「上弦の壱については、俺が見た情報を元に対策ゴーレム作るから、明日から順繰りで挑戦な。薬は山ほど用意してある。死ぬ気でやっても生き返らせてやるから、頑張れ」
「楽しみだな!」
杏寿郎の言葉に、他の面々も頷いた。戦力の底上げは、柱の面々も順調に行っている。
「さて、そろそろ本題に入るか。耀哉、そっちの準備は終わった?」
「うん。予備の屋敷の準備は終わった。後は荷物の運び出しだけだね」
ざっくり上弦の壱の説明を終えたは、耀哉の横に座って確認する。
「地下の物騒なものは、この後俺が回収して有効利用するからな」
「そうだね。君を騙せるなんて思ってないから、回収して使ってくれるなら嬉しいよ」
「あんな指向性もない爆弾を使うくらいなら、天元と相談して、ダイナマイト設置して、クレイモアぶちかますわ」
二人の話に、物騒なものが紛れ始めている気がする。
「お前には、よぼよぼになった俺が昼寝しながら死ぬまで、面倒見てもらう予定なんだからな」
「ふふふ。そうだったね。君がここに初めて来たときからの約束だった」
「あの時に言っただろう。息子に押し付けて、奥さん道連れにあの世に逃げようなんて、絶対にさせてやらないからな、耀哉」
「!」
柱全員が姿勢を正した。
「まったく。せっかく健康になったんだ。自爆なんて物騒なことを考えるのはやめてくれ」
「せめて窮鼠猫を噛むくらいはしたいと思ったんだよ」
「ははは。たかが鬼の首魁相手に、窮鼠猫を噛む?泣きっ面に蜂の巣をぶつけるくらいは、やってくれ。できればオオスズメバチ希望」
「。御館様は、何をなさるつもりだったのだ?」
「無惨がここに来るから、その時に地下に埋蔵した爆薬で自爆」
行冥の問いかけに、相談役はさらっと答えながら、隣で苦笑しているお御館様をどうしようかこいつっていう目で見る。
「に呪いを払ってもらう前に用意していたものだからね。今はそんなことをするつもりはないよ」
様々な感情を浮かべた柱たちに、耀哉は微笑んで告げた。
「本題からズレたな。その、無惨を罠にはめる」
の言葉に柱全員が改めて背筋を伸ばす。
「アレの望みは、太陽の克服。そのために、禰豆子を狙ってる。食って太陽への抵抗を手に入れようって目論見だな」
姿勢を正す柱たちに比べて、既に正座が辛いは足を崩して胡坐である。
「で、鬼殺隊の本拠地、つまりこの屋敷を探してる。なので、発見させて、ここへ無惨を誘き寄せる」
「アレが、ここへ来るのか?」
「来る。絶対来る。人間を下等と見下ろしているアレは、絶対に耀哉を見に来る。その上で、こちらを憐れむような発言をするに決まっている」
小芭内の問いに、は自信満々に答える。
「……決まってるのか?」
義勇のつぶやきに答えるものはいない。しのぶは呆れたように首を振っただけだ。
「そういう奴の足元を払って地面に這いつくばらせるのって、最高だよね!」
「お前の方がよっぽど悪役だろ……」
実弥が呆れるのも無理はないほどに、の笑顔は真っ黒だ。
「いつになりそうなのだ?」
「あと、数か月ってところかな。あいつらが此処を発見した後に、徐々に結界を緩めていく。近くなれば、明確にわかる」
「それで、君たちにお願いがあるんだ」
耀哉は九人そろった柱を前に、微笑んで頼みごとを口にした。
「おお、頑張ってるなー」
『柱稽古』
柱達による容赦のない隊士達への鍛錬が開始されてから、は毎日修行場を回っては、参加人数の確認と食糧補給を行っていた。
「様!」
彼が顔を出せば、裏方を管理している隠がやってきて細かな報告をしてくれる。
「薬など不足はない?」
「はい。食料も不足ありません」
「よし、君たちもキチンと交代して休むように。じゃないと、俺が休めないからな!」
そんなことを言って去っていく魔法遣いに、隠の面々は顔を見合わせて笑いあう。
「あの人が少しでも休めるように、頑張るとしますか」
「おー!」
隠たちは両手を挙げて、隊士達の支援に戻っていく。
蝶屋敷に戻ったは、ひと休憩しようと部屋でお茶にすることにした。
そこへ彼が帰ってきたのに気づいたしのぶが顔をだす。
「さんが柱を中心によく見て回っていたのは、【痣】が発現をしてないか確認していたんですね」
上弦の壱の説明と同時に、痣と赫刀についても柱の面々には話してあった。
「あまねさんから詳しい話を聞いた後からな。あんなもんに頼らなくても君たちは強い。二十五歳で死ぬとか、そんな勿体ないことさせません」
はははと笑いながら、しのぶの前に焙じ茶とみたらし団子を置いておく。
「日輪刀にあの改造をしたのも、戦力の底上げですね」
赫刀について説明をしながら、は柱全員の刀に炎属性の剣を錬成している。その際に、ちょっと両掌に怪我をしてしまったので、しのぶには滾々と説教をされた。
ただ、試し切りだと実弥が刀で切りつけた藁束が燃え上がったのには、耀哉が大喜びしていた。
「さすがに隊士全員分はできないんだけど、切り札は一個でも多い方がいいでしょ?」
「その割に、先日カナヲの刀に何かしてましたよね?」
「俺の身贔屓に関しては、誰にも文句は言わせません」
「つまり、炭治郎君たちの刀もさん特製になった訳ですね」
実に堂々とした依怙贔屓宣言にしのぶはコメカミを軽く押さえた。
「後は、ここまでたどり着いた早い者勝ち」
「柱稽古の最後は裏山のゴーレム相手にパワーレベリングですか」
「複製で数も増やしておいたから、気合入れて頑張ってもらおう」
「そんな訓練にさんは不参加、と」
「あんなの俺がやったら死ぬ」
毎日稽古風景を見ているとしては、真顔で訴えておきたい。
「で、それは?」
彼女がやってきた時から、テーブルの上に置かれている【睡眠薬】に首を傾げる。
「今日、カナヲが帰ってきたら、上弦の弐の倒し方を話して……さん、落ち着いてください」
から滲み出てくる圧力に、しのぶはため息を吐く。
この程度を話していて、これなら本格的な話をしたら、想像するだけで眉間に皺が寄ってしまう。
「さんが本気で【威圧】すると、屋敷内だけでなく、街の人にも迷惑かかってしまいますから」
「むぅ……」
「飲んでいただけますよね?」
そう言ってにっこりと笑うしのぶに、はがっくりと肩を落とした―――
やっと体調が戻ってきました。。。
さて、本格的に最終決戦に向けて悪だくみ中の主人公。
そして、覚悟の蟲柱様。可愛い。
まて次回。…早めに更新できるよう頑張ります。
コメント by くろすけ。 — 2022/08/21 @ 20:42