カレンが彼を見つけたのは学園中庭の茂みの中で、思わず目を丸くして聞いていた。
「そんなところで何をしているのか、聞いてもいいかしら」
「えっと……」
彼は困ったように笑っていたが、聞こえてきた声に、はっと顔を上げるとカレンの腕を掴んで茂みの中へ引きずりこんだ。
「ちょっ…!?」
抗議の声をあげようとするカレンの口は、彼の手によって塞がれてしまう。
「すみません。後で、説明しますから」
耳元でささやかれて、彼女は身動き取れなくなってしまった。
(この声、反則よ……)
「こっちの方で声が聞こえたわよね!?」
「さっきまで近くにいたんだもの。絶対まだこの辺りにいるはずよっ!」
「絶対に受け取ってもらうんだからっ!」
「おー!」
(なるほど…)
カレンは聞こえた話に身体から力が抜けるのを感じた。
足音が通り過ぎてから、しばらくして彼の身体からも力が抜けるのを感じる。
「……ご迷惑をおかけしました」
「チョコレート大攻勢って事かしら、?」
「ご明察。休み時間ごとに大脱走の気分を味あわせてもらっています」
苦笑して立ち上がった彼は、カレンに手を差し出した。
「巻き込んでしまってすみませんでした。ああ、こんなところにも芝が…」
は申し訳なさそうに、彼女の髪についている芝をおとす。
「受け取ってあげないの?」
「甘いものは苦手なんです。それに1個受け取れば、全員分を受け取ることになってしまうでしょう?」
それでは私の胃が壊れてしまいますよ、と彼は苦笑いをこぼした。
「誰からも受け取らないの?」
「いえ。ナナリーと生徒会の方からは頂くつもりです。日頃のお礼をする良い口実になるでしょう?」
「ああ。そういう事ね」
カレンが頷いた時だった、また女の子たちの声が聞こえてきた。
「う……では、また後ほど」
「頑張って。私のは後で生徒会室で渡すわね」
その言葉に、彼は駆け出そうとしていた足を止めて、カレンを振り返った。
「義理でよければ」
そう付け加えたのに。
「ありがとう、カレン」
彼は満面の笑顔で、そう言って嬉しそうに走り出した。
「義理よ、義理。義理ですから、」
思わず呪文のようにつぶやいていた。
結局、放課後まで逃げ切った彼は、大切な妹と生徒会メンバーからの贈り物を喜んで受け取った。
「本当に甘いもの苦手なのかしら…」
「ああ。兄上は全く駄目だな。だが、安心しろ。大切な者たちからの贈り物を捨てるような方ではない」
「ルルーシュ君」
いつの間にかルルーシュが隣に来ていた。
「例え、どんな味でもな」
「どういう意味?」
「どうもこうもない。昔の話だ」
「?」
「昔々、兄思いの妹たちが、一生懸命に作ってくれたチョコレートはあまり美味しくなかったという話だ。だが、兄上は笑顔で『美味しいよ』と言っていた。『とても嬉しい』ともな」
「あなたは言えなかったの?」
「無理を言うな。と、俺が言いたくなるほどの……そんな味だったんだ」
苦笑するルルーシュに、再度に視線を向ければ、丁度受け取り終わったところらしく、彼と視線が合ってしまった。
目が合うと、彼は本当に嬉しそうに微笑む。
「あなたのお兄さんの笑顔って……反則に近いわよね」
「無自覚だからな」
「本当に性質が悪いわ」
そんな会話をかわしているとは思ってないらしい彼は、笑顔のまま二人の方へ近づいてきた。
「二人とも何を楽しそうに話しているんですか?」
「兄上の笑顔についての考察を」
「? 何かついてましたか?」
「いえ…。兄上らしいと言っていたんです」
苦笑するルルーシュに、は首を傾げるばかりだ。
「。これも貰ってくれる?」
そんな彼にカレンも苦笑しながら、小箱を差し出した。
「勿論です。……ありがとう、カレン。来月を楽しみにしててくださいね」
「……だから、その笑顔は反則」
カレンは小さく呟いた。