その朝、教室に現れたカレンはとても嬉しそうで、ルルーシュは当然のように兄の顔を見た。
「何か約束を?」
「うん。放課後デートの予定」
「デートッ!?」
だが、大声を上げたのは、リヴァルだった。
一瞬で静まり返る教室。
「ええ。そうですが……何か?」
「いつの間に彼女作ったんだっ!?」
「いつの間にって…いつの間にか?」
「なんだよ、それ!?」
頭を抱えているリヴァルに、はルルーシュに尋ねる。
「あの、なんで、彼はこんなに反応してるんですか?」
「何かを賭けてたんじゃないですか?リヴァルですし」
「あー、なるほど」
「そこ、納得してんなよっ!」
「まあ、とにかく。今日は放課後は生徒会には行けないので、そう会長にお伝えください」
彼はにこやかに笑顔を見せて、この話題はこれで終わりと告げた。
昼食後、生徒会役員たちを呼び出すようにルルーシュに頼んでおいて、は一度部屋に戻ってこの日のために作ったものを持ち出してきた。
「お待たせしまして、すみません」
「兄上、珈琲と紅茶を淹れておきました」
「ありがとう、ルルーシュ」
弟へ礼を言いながら、彼は妹をテーブルの近くへ呼び寄せた。
「ナナリー、私と一緒に開けよう」
「え?でも、私では…」
「大丈夫。このケーキはナナリーの為に作ったんだから」
目が見えない自分ではと遠慮する彼女に、は優しく促す。
「いくよ…?」
「はい」
箱を開いた瞬間、部屋中に甘い香りが立ち込める。
「兄様…これ、キンモクセイ?」
「ああ、去年のうちに蜂蜜につけておいたからね。いい香りでしょう?…楽しんでもらえましたか?」
彼は盲目の妹のために、このケーキを用意した。
目だけで楽しむものではない。嗅覚でも楽しめるようにと。
「ええ、とても。ありがとう、兄様」
その心遣いが何よりの贈り物だと、ナナリーは思う。最近、再会することが出来た兄は、そういう心遣いのできる優しい人だった。
「味も結構いけると思いますよ?」
はケーキを切り分け、女性陣へと配っていく。
「イチゴのショートケーキ?」
「ええ。お口に合えばよいのですが」
「兄様のケーキは、いつも美味しいですから、きっと皆さんも喜ばれますわ」
「そうだといいね」
「……えっと。これ、の手作りなの?」
シャーリーは思わずケーキにホークを突き刺したまま固定してしまった。
「ええ。……お口に合いませんでしたか?」
手を止めた彼女に、は寂しそうな笑顔を見せる。
きっと耳があったら、へたりと垂れ下がったに違いない。
「そんな事ないっ!とっても美味しいから、ちょっと驚いたの」
シャーリーの言葉に、少し照れくさそうに、は笑顔を見せた。
(その笑顔は反則だからっ)
カレンは美味しいケーキを頂きながら、内心で叫んでいた。
「予想はしていましたが…」
放課後、帰ろうとする彼らの背後に感じる気配には大きくため息をついた。
「兄上、私から言ってきましょうか?」
「いや、いいよ。ルルーシュ。売られた喧嘩なら買わなくては」
「え?」
「そして買う以上は勝たなくては。――そうでしょう?」
ニコヤカに笑う兄に、ルルーシュは心の中で合掌した。