その日、彼は半分二日酔いになりかけた身体を引きずって家に帰る途中だった。
駅前を通った時、それを見てしまった。
だから、彼は迷わず行動した。
「何?」
不審そうに見上げてくる彼女の腕を掴んで、引っ張る。
「何っ」
「いいから、来なさい」
「っ…」
真っ直ぐな視線に押されて彼女は大人しくなった。
何時間、あそこに居たのかわからない彼女にコートを着せ掛けて、タクシーを拾った彼は、自分の店へと急いでもらった。
「はい。これを飲んで」
差し出されたのは、ホットミルク。
「いらない」
「飲みなさい」
彼女に両手でしっかりと持たせて、飲み終わるまでじっと見つめた。
飲み終わると、空になったそれにふっと微笑が零れる。
「顔色も少し良くなった」
「変な人」
「変なとは酷いですね。泣いている子供を放っておけるほど、無関心な大人にはなれなかっただけです」
マグカップを下げた彼は、熱々のホットサンドを持ってきた。
「次はこれ」
「いら…」
「食べなさい」
聖は圧力に負けてそれを口に運んだ。
「よしよし、いい子ですね」
くしゃりと頭を撫でてくれた手はとても大きくて暖かい。
「後は、少し眠りなさい」
「ん……」
毛布を掛けられて、ゆっくりと目を閉じた。
きっと、今日は悪夢を見ない。
「どこから突っ込めばいいのかしら」
話を聞き終わった蓉子は額に手を当てた。
「勿論最初からでしょ。同い年のさん?」
「誰と飲んでたの?」
「聖、追及するのはそこじゃないでしょ?」
「え?だって気になるし」
「そうね」
「江利子まで……それで誰なんです?未成年に飲酒させた方は」
「え?保護者達ですけど?」
彼はニッコリと笑って、テーブルにおつまみを広げていく。
「ああ、納得」
彼の保護者を思い出して、聖は小さく噴出した。あの人達なら、クリスマスだからとにワインなんかを勧めそうだ。
「安心しました?」
「安心、してもいいのかしら」
「保護者公認じゃあねぇ」
「どちらかといえば、問題なのは、聖さんを拉致したところだと思うんですけれど」
飲み物を配りながら、は小さく笑った。
「ああ、そうか。私って、拉致られたんだ」
「叫ばれたら、『彼氏です』とヌケヌケとほざくつもりでしたが」
「……叫べばよかった」
「あの時の貴方にそんな元気はなかったでしょうに」
呆れたように言うの腕を引っ張って、隣に座らせてその膝の上に猫のように乗ってやる。
「聖っ」
親友二人の叫びなんて無視してやる。
「甘えたがりなのは昔から変わりませんね」
本人だけが気にした様子もなく、それはそれで不機嫌になりそうだけれど、優しく頭を撫でてくれた。
この手と腕の中の暖かさを知ったら、どんな猫だって懐くと思っている。
なんせ、この自分が懐いてしまったんだから。
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聖さんとの出会い編。ダイジェスト版。
もう少し書き足して、直してみたい。