まぁ、これが妥当な結果だよね

と祥子が戻り、飲み物と彼特製のケーキが配られたところで、漸く青年も席に着いた。
早速、質問を始めようとする三奈子よりも早く、が蔦子の名前を呼ぶ。
「今日は何か御用があるとか。先日撮られた写真の件ですか?」
「はい。その、他にもあって、見ていただけますか?」
蔦子は持ってきた茶封筒を差し出した。
それを受け取ったは写真を取り出して、微苦笑を浮かべた。
校内で隠し撮りに近い撮影をしているのだろう、彼女の撮りたい物を理解してしまったから。
そこには自然に笑っている自分の姿があって、その写真全てに山百合会の面々が写っている。
「……なるほど、いい腕をされていますね」
「ありがとうございます。それを写真部の展示コーナーに飾りたいと思いまして」
「それが本日のご用件ですか……しかし、これは……」
そう言って、優雅に紅茶を手にしている紅薔薇様を困ったように見つめた。
「何か?」
「貴女の許可も必要かと」
は立ち上がって、蓉子の隣に立つとその写真を彼女の前に置いた。
「あら、私も写っていたのね」
横から覗き込んだ江利子と聖が一瞬羨ましそうな悔しそうな複雑な表情を見せたから、いい写真なのは理解できた。
「……ふむ、少しお時間をいただいてもよろしいですか?学校行事に関連してくると、関係者の方にも許可を取る必要がありますから」
「紅薔薇様以外にですか?」
首を傾げる蔦子に、は大きく頷いた。
「私がこの学園に来るのを許可してくださっている方々に。特に学園長と理事長のお二人にご迷惑をかける訳にはいきませんから」
彼がそういうと蔦子も納得したように頷く。
「そういう事でしたら、お待ちします」
「ありがとうございます。でも、本当にいい写真ですね。これ、いただいても?」
これを保護者達に送ったら喜ぶのではないか。は最近の写真を送れと訴える彼らを思い出した。
「あ、どうぞ。ネガはまだ持ってますから。後でお渡ししますけど」
「では、これはフィルムと現像代です」
は財布から数枚紙幣を抜き出し、蔦子の前まで歩いていって彼女に手渡す。
「あ、でも…」
「また、いい写真が撮れたら教えてください。私は撮られると思うと、つい構えてしまうので」
ポムポムと頭を優しく叩かれて、蔦子は小さく頷いた。
改めて椅子に座ったは、写真を茶封筒に戻して、真正面から今か今かと待ち構えている三奈子を見つめた。
「さて、それではお待たせしました。可能な限り、ご質問にお答えしましょう」

待たされた分勢いこんだ三奈子から30分ほど質問攻めにあっただろうか。
「ああ、そうでした」
満足げな様子でメモを見直している新聞部の部長に、さも今思い出したと言わんばかりの口調で声を掛けた。
「今日のことを記事にされる際には、是非こちらのお三方の許可を得てくださいね?」
そう言っては薔薇様と呼ばれる人達を示す。
「え?」
何を言い出すのかと、三奈子は手を止めて彼を見つめてしまった。
「先ほども言いました通り、関係者の方々にご迷惑をかける訳にはいきません。最悪の場合、私はこの学園に出入り禁止になってしまいます。そして、それはとても困ります」
微笑んでカップを手にする姿は優雅にさえ感じるのに、圧力すら感じてしまう。
「学園長と理事長のお二人に許可を貰うよりは簡単だと思いますけれど、どちらがよろしいですか?」
まるでそれ以外は認めないと、宣言するように笑う彼に勝てる訳はなく。

部室へ戻るという二人が薔薇の館から離れていくのを二階の窓から確認した青年は、心底疲れたと深い深いため息を吐いた。
「お疲れ様」
隣に立った江利子の言葉に、は苦笑いを浮かべた。
「なんというかエネルギーの塊のような人達ですね。まるで興味があることを見つけた貴女のようです」
言い得て妙の言葉に笑ったのは、やっと彼の背中の定位置に納まった聖と彼を挟んで江利子の反対側に立った蓉子だ。
「ああ、でも少し羨ましいですね。それだけ情熱を傾けることが出来るというのは」
漸く肩の力が抜けたのか、いつもの優しい微笑みを自分だけに向けられて江利子は微かに頬を染めた。
一瞬、不機嫌になりかけた他の面々も、次の瞬間頬を染めることになる。
「やはり、ここでは肩の力を抜きたいですね」
そう言って上まで止めていたシャツのボタンを外し、軽くまとめていた髪をくしゃりとかき乱して振り向いたからだ。
「……男の人なのに、この色気ってどうなのかしら?」
「……反則だね」
祥子のしみじみとした言葉に、令は苦笑しながら答えた。
お願いだから、そのままの格好でソファで寛がないで欲しい。
今ここに蔦子がいれば写真を撮りまくったであろう光景を前に、祥子は小さくため息を吐いた。

それからしばらく。
さん、はい。これ」
「ああ、この間の。漸く記事になったんですね……うわ」
一面に大きく書かれた文字にガックリと肩を落とす。
「Rosen Ritter……ドイツ語で薔薇の騎士でしょ?」
「わかっていたなら否定してください」
江利子の言葉にため息を吐きながら、ざっと記事に目を通していく青年の頬は少し赤く染まっている。
「あれ?ダメだった?」
「正直、かなり恥ずかしいです。まあ、自分から名乗った訳ではないのが、せめてもの救いですね」
新聞を読み終わり、思い出したように蓉子に声を掛けた。
「あの写真ですが、こちらは許可が出ました。あとは貴女次第ですので、もしよければ蔦子さんにお伝え願えますか?」
「ああ、あの写真ね。勿論、構わないわ。祐巳ちゃん、蔦子ちゃんに伝えてもらえる?」
蓉子は孫であり蔦子と同じクラスの祐巳に頼む。
「はい、任せてください」
笑顔で答える祐巳に、はもう一つお願いを付け加えた。
「蔦子さんの都合のいい時で構いません。この面々で一枚写真を撮っていただけないか聞いておいていただけませんか?」
「この面々って薔薇の館の?」
「ええ。是非皆さんの写真が欲しくなって。……よければ撮っていただけませんか?」
そのお願いは全員一致で可決され、蔦子に伝えられた。

撮影会では、全員一緒の写真と共に青年とのツーショットも当然のように撮られ、彼女達の宝物になったことは言うまでもない。

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後書&コメント

  1. 永らくお待たせしました。
    新聞部部長さん撤退(笑)
    撮影会はきっとすごい事になったんでしょうなー。

    コメント by くろすけ。 — 2009/07/26 @ 18:12

  2. マリみてと短編二つ読みましたー。いやーなごみますね。マリみての主人公は、なんか友達にほしくなる人ですね。人脈云々より性格とかでも退屈はしなさそうですからw
    ARIAの感想は風邪がテーマ(?)だったのでニヤリとしてたら思いっきり騙されましたw悔しいよりも先にこっちか!という驚きのほうが強かったですが。
    風邪のお題が終わって次はなんだろうなと楽しみに待ってます!

    コメント by 露須斗 — 2009/07/28 @ 17:39

  3. 新作3本をよんでいただき、ありがとうございます。
    マリみての主人公は見てて飽きない人ですから!無自覚で色気を振りまいて薔薇様たちを篭絡したりしてますが、本人全く気付いてませんから!
    ARIAの話はそう思っていただけたなら、本望です。タイトルが漢字じゃなかったので、捻くれてみました(笑)
    現在、新しいお題を探しています。今後も本シリーズと平行して、短めの話を書いていきたいと思ってますので、どうぞよろしくです。

    コメント by くろすけ。 — 2009/07/29 @ 00:55

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Posted: 2009.07.26 マリア様がみてる. / PageTOP