全力で神様を呪え。[壱]

しばらく歩いて、人影らしきものが見えたと思った途端、その出会いを後悔したくなった。
「おう、にいちゃん。珍しいもの持ってるな」
男三人に取り囲まれ、銀色に輝く刃物を突きつけられれば、ため息のひとつも吐きたくなる。
どうやら東洋系の顔立ちだが、その格好は現代東京で普通に街中を歩いたら、顔をしかめたくなる格好だ。
黄色が目に痛いくらい使われている。服装はどことなく中国風だなと、青年は考えていた。
「人にナイフを向けた以上、正当防衛が成立するのは理解できるよな」
「ああ?ないふ?そんな事はどうでもいいんだよ。さっさと、金を渡しな!ついでに、その珍しい服もな」
あまり頭は良くなさそうだとも思った。
「兄貴がこう言ってんだ。その服をさっさとこっちに渡すんだよ!」
「残念だが、こいつは俺のお気に入りなんで渡す気は全くない」
魔法を使う事も出来るが、あくまでそれは最終手段だ。
「待てぃ!」
三人から距離をとった所で、間に長槍を構えた女性が飛び込んできた。
「誰だっ!」
「たった一人を相手に、三人がかりで襲い掛かるなどと、その所業、言語道断!」
まるで正義の味方の口上だ。聞いていた青年は呆然と間に入った女性の背中を見つめた。
「そんな外道の貴様らに名乗る名前など、ない!」
声が響いた次の瞬間には、槍の一閃で男が一人地面に崩れ落ちている。
「ぐっ!」
続けて二人目。
彼女の槍の煌きは目で追うのが精一杯だ。
「なんだなんだ。所詮は弱者をいたぶることしか能のない三下か?」
「くっ……おい、お前ら!逃げるぞ!」
勝ち目がないと見てリーダー格の男は、地面に倒れた男たちに声を掛けて身を翻した。
「逃がすものか!」
彼らを追いかけていく女性を止める暇もなかった。
「……誰でもいい、俺に状況の説明を頼む」
「大丈夫ですかー?」
半ば呆然と見送っていた青年の背後から、おっとりと間延びした女の子の声が掛かる。
「怪我はしてないな」
「ああ、それは問題ない」
もう一人、しっかりした感じの女の子が青年の様子を確かめてきた。
しかし、この二人も随分と個性的な格好をしている。そろそろ『中国風』から『中国風?』へと変化しそうだ。
目の前の二人も見慣れない格好をしている青年を、どうしたものかとひそひそと相談している。
「やれやれ。すまん、逃げられた」
しばらくどうしたものかと考えていたら、さきほどの女の子が戻ってきた。
「お帰りなさい。星さんが逃げられるなんて……盗賊さんたち、馬でも使ってたんですか??」
「うむ。同じ二本足なら負ける気はせんが、倍の数で挑まれてはな」
「まあ、追い払えただけでも十分ですよー」
「それにしても災難でしたね。このあたりは盗賊は比較的少ない地域なんですが……」
「盗賊」
突っ込みどころはそこと『比較的』だろう。
青年は小さくため息を吐いた。
ここは日本じゃない。当確という文字と、リボンの花を付けてもいい。
「俺はです。失礼ですが、お名前を聞かせていただけますか?」
助けてもらったこともあり、は可能な限り丁寧に最敬礼を行う。
「これはご丁寧に。程立と呼んでくださいー」
「今は戯志才と名乗っております」
聞いたことのある名前に、は小さく首を傾げる。
「えっと、お互いに呼び合っていたのは…渾名か何かですか?」
「真名をご存じない?」
「真名?」
ここは魔術師がいたりする世界ですか。とも思ったが、どうやらそういった意味合いはないらしい。
この土地は初めてでと困ったように笑うと、三人は親切にも『真名』というものを説明してくれた。
例え知っていても本人の許可無く呼んだりすれば、殺されても文句は言えない。
どちらかと言えば、金色狼と黒い天使の間に交された名前のようだ。
「字とはまた違う、最も重要な名前という事ですね。迂闊に呼んだりしないように、肝に銘じます」
うっかり名前を呼んで、首がとんだら笑えない。
「しかし、やはり、ここは中国?」
姓・名・字もあるとなれば、可能性は高まる。
「ちゅうごく?この辺りに、そういう地名ってあるんですかー?」
「いや、中国は地名じゃなくて……」
国の名前なんだが、と言おうとしたところで、槍の女の子が青年を一瞥し、尋ねてきた。
「そういえば、お主、見慣れぬ格好をしているが、どこの出身だ?」
「出身?生まれは日本の広島だが…」
「にほんのひろしま?稟、そのような地名に心当たりはあるか?」
「無いわね…。南方の国かもしれないけど」
青年は言葉を無くした。
彼の生まれた場所は世界でも有名な場所だ。
「ふむ。まあ、後は陳留の刺史殿に任せるとしようか」
「しし?」
漢字が思い浮かばない。ぱっと出てくるのは、食いしん坊騎士王のシンボルだが、それは違うだろう。
「ほら。あれに曹の旗が」
戯志才の指差す先には土煙が上がっている。
しばらくすると、騎馬武者の群れと彼らの上で翻る大きな旗が見えてきた。
いっそ、ドッキリとか映画の撮影とかだったら、謝り倒して家に帰るのに。
「君たちはもう行くの?」
「面倒ごとは楽しいが、官が絡むと途端に面白みがなくなるのでな」
「なるほど。納得だ」
彼女の言葉には苦笑するしかない。
「それでは、ごめん!」
「縁があれば、また」
歩き出す彼女たちを見送って、青年は改めて徐々に近づいてくる騎馬軍団を眺めた。
「よりによって、『曹』の旗……」
映画の撮影じゃなかったら、嘘だろうと叫びたいくらいだ。
どうせ逃げられないんだからとのんびりと待っていた青年を、整然とした動きで取り囲んだ兵士たちは、あからさまに不審そうな視線を向けてくる。
最悪、壊れた幻想を叩きつけて、舞空術で逃げ出そう。そんな事を考えていると、目立つ三人が彼の前までやってきた。
三人とも街を歩けば十人が十人、振り向くような美人だ。一人はまだ美少女といった年齢だが。
「華琳様!こやつは……」
赤い服を着た黒髪の女性がキツい目で睨みつけてきた。妙な動きをしたら、即刻手にした剣で一刀両断にされそうだ。
「どうやら違うわね。連中はもっと年かさの、中年男だと聞いたわ」
華琳と呼ばれた少女は、青年を見定めている。
「どうしましょう。連中の一味の可能性もありますし、引っ立てましょうか」
青い服を纏った女性は冷静だが、彼女も青年が逃げ出したりすれば、その手にした弓を迷うことなく使うだろう。
「そうね……。けれど、逃げる様子も無いということは、連中とは関係ないのかしら」
「我々に怯えているのでしょう。そうに決まっています!」
「怯えているというよりは、面食らっているようにも見えるのだけれど……」
「ご明察。実は事情がさっぱりわからないんで、どうしようかと思っています」
リーダーらしい少女に、は両手を挙げて害意のない事を示す。通じるかどうかは置いておいて。
「とりあえず、お名前を聞いても?」
「それはこちらの台詞よ。あなたこそ、何者?名を尋ねる前に、自分の名を名乗りなさい」
「これは失礼」
腕を下ろして一礼すると、まっすぐに彼女を見つめて名乗った。
。日本という国の広島という場所で生まれた」
「……はぁ?」
彼女たちの反応に、やはり『日本』が通じないのかとは内心ため息を吐く。
「貴様、華琳様の質問に答えんかっ!生国を名乗れと言っておるだろうが!」
「だから、日本の広島だと。ちゃんと答えただろう?」
まるで吼えるが如くの詰問に、はやれやれと言いたそうな声で答える。
「姉者。そう威圧しては、答えられる者も答えられんぞ」
「ぐぅぅ……。しかし、秋蘭!こ奴が、盗賊の一味という可能性もあるのだぞ!そうですよね、華琳様」
「そう?私には、殺気の一つも感じさせないほどの手練れには見えないのだけれど。春蘭はどう?」
殺気に手練れなどという物騒な言葉に、青年の中で疑惑が確証に変わりつつあった。
「それはまあ、確かに」
黒髪の女性、春蘭はを一瞥して、華琳の言葉に頷いた。
さりげなく馬鹿にされている気がする。は少し眉をしかめた。
……と言ったかしら?」
「ああ」
「ここは陳留。そして私は、陳留で刺史をしている者」
「しし?」
少女の言葉にまた出てきた。志士でもないんだろう。きっと。
「刺史も知らないの?」
「残念ながら、この国の人間じゃないもので」
「……呆れた。秋蘭」
説明するのが面倒になった華琳は、隣に立つ女性の名を呼んだ。
「刺史というのは、街の政事を行い、治安維持に従事し、不審者や狼藉者を捕らえ、処罰する務めのことだ。これなら意味はわかるか?」
「理解した。立法・行政・司法の三権を司るという訳か」
「また訳のわからん事を……」
「要するに、法律を決めて、税金を集めて、政事を行い、治安を守るのが仕事……」
ここまで言って、青年はもう一度、華琳に向かって両手を挙げた。
「ああ、なるほど。大人しく付いて行くから、手荒なマネは勘弁してくれるととても嬉しい」
「理解が早くて助かるわ。まだ連中の手がかりもあるかもしれないわ。半数は辺りを捜索。残りは一時帰還するわよ」
の態度に、華琳は笑った。それはとても楽しそうに。

街に連れて来られるなり、は荷物を取り上げられて彼女たちから尋問を受ける羽目になった。
「なら、もう一度聞く。名前は?」

秋蘭の言葉に淡々と答える。
「では、おぬしの生国は?」
「日本の広島」
「……この国に来た目的は?」
「俺が聞きたい」
たぶん、とても重要なんだろうけれど、他に答えようがない。
「……ここまで、どうやって来た?」
「それも、俺が聞きたい。気がついたら、あの荒野に立っていたんだ」
「……華琳様」
秋蘭はため息混じりに主を振り返る。
「埒があかないわね。春蘭」
「はっ!拷問にでも掛けましょうか?」
「痛いのは嫌だな。だいたい、何されても今言った以上の事は判らないから、答えようがない」
嬉々とした春蘭の言葉に、は困ったように肩を竦める。
「本当に埒があかないわね」
「後は、こやつの持ち物ですが……」
通勤用の鞄を机の上に置かれた。
「そろそろ返してくれないか。仕事道具なんだ」
「何を仕事にしているの?」
「書類作成。学校の先生に頼まれて、会議用の資料を作ったりするのが仕事。で、返してもらえるか?」
「中を確認するのが先よ。……何、これ?どうやって開けるの?」
メッセンジャーバックを開ける所から戸惑っていては、話にならない。
「返してもらえたら、中を確認するけど?」
「変なことをしたら、即刻首を刎ねるわよ」
「しない。するつもりなら、騎馬隊に囲まれる前に逃げだす方が幾らかマシ。それより、そろそろ名前を教えてくれないか。今のままだとウッカリ真名を口にして首と胴が泣き別れしそうだ」
後ろの二人が剣と弓に手を伸ばすのを見て、の口からまたため息が零れた。
「あら、この国が初めてなのに、真名は知っているのね」
「俺の国には無いよ。だが、先ほども話したが、盗賊を追い払ってくれた人たちが教えてくれたんだ。で?」
「いいわ。私の名は曹孟徳。それから彼女たちは夏候惇と夏候淵よ」
「は?」
目が点になるとは正にこの事。
はマジマジと目の前の少女を見つめた。
「聞こえなかった?」
「いや、聞こえた。聞こえたから、混乱してる」
マジか、マジですか。この二言がの脳内で、エンドレスループを始めている。
「本名、だよな?」
「何を馬鹿なことを。それとも貴様、わたしが父母からいただいた大切な名前を愚弄するつもりか?」
確認するような彼の言葉に、春蘭は剣を握る手に力がこもるのを感じた。
「そんなつもりはない。しかし、それは親が三国志が大好きだったから付けたってわけでもないよな?」
「三国志?なんだそれは」
「三国志っていうのは、魏の曹操とか、蜀の劉備、呉の孫権とか」
「はぁ?」
曹孟徳だけならまだしも、夏候惇と夏候淵のセットとくれば、は他には知らない。
三国志の英雄。悪人と書かれることも多い曹操だが、は現実主義者としての彼を敬愛している。
だから、両親が三国志ファンでその名をつけたのかと考えたのだ。
「どういうこと?」
の言葉に反応したのは、華琳だった。声に不審な色が滲んでいる。
「何が」
「どうして、あなたが魏という名前を知っているの?」
「どうしてもなにも、曹操って言えば、魏の曹操っていうのが定番だろ」
「貴様、華琳様の名を呼び捨てにするでない!しかも、魏だのなんだの、意味不明なことばかり言いおって」
「春蘭、少し黙っていなさい」
曹孟徳と名乗った少女は、夏候惇を制して、をまっすぐに睨みつける。
「魏というのは、私が作ろうとしている国の名前の候補の一つ。まだ誰にも話していないわ。それを何故、知っているの!」
「ああ、なるほど。本当にあなたが、曹孟徳なんだな」
怒りを露わにする華琳とは対照的に、は冷静に現実を受け入れていた。表面上は。
「答えになっていないわっ!」
「少し待ってくれないか。俺だって混乱しているんだ」
は眉間を揉み解しながら、頼み込んだ。
家に帰ったら、三国無双とか横山三国志とか全部封印しよう。三国志研究家とかが聞いたら、発狂しそうな事実だな、おい。こちとら、魔法を使えるチートな存在な訳で、曹操が女であるという並行世界もきっとあるだろう。考えて見ればオカマさんとかじゃなくて良かった。むしろ、美少女万歳などと数秒の猶予をもらって自分の気持ちに、はあっさりとけりをつけた。
「とりあえず、怒らずに最後まで聞いてくれ。特に夏候惇」
は椅子に座りなおすと、自分が未来から来た人間であることの説明を始めた。

「――という訳だ。こんな完成度の高い紙とかあるか?」
説明を終えて、は鞄の中からメモ用紙を取り出した。
「確かに、その通りね。この強度としなやかさ。初めて見るわ」
差し出された紙の束に、華琳は目を見張る。
「しかし、未来から来たとは。まるで南華老仙の話のようね」
「南華老仙……荘周……ああ、『胡蝶の夢』か?」
「あら、博識ね」
「自分が蝶になった夢を見ているのか、蝶が自分になった夢を見ているのか……。夢だったらよかったんだが」
は目の前にいる三人を改めて見つめた。
「何?」
「ここに美少女の曹操が居て、俺は徹夜明けで非常に眠い。それは動かしようの無い事実だからな」
欠伸をかみ殺して、軽く肩を回す。
「で、夏候惇将軍は理解できたか?」
「むう」
「……無理か」
の知っている夏候惇将軍は文武両道とも言える人だが、目の前の彼女はどちらかと言えば猪タイプらしい。
むしろ、猛将というイメージの強かった夏候淵の方が智将タイプにみえる。
「春蘭、難しいことを色々言ったけれど、この男は天からの遣いなのよ」
「この男がですか?」
「華琳様?」
突然の華琳の言葉に夏候姉妹も驚きの声をあげる中、だけは彼女の意図を把握した。
「天の遣いね。ま、そういうのがベスト、最良だろうな。行く先々で兵士に槍を突きつけられるのは勘弁して欲しいし」
「で、はこれからどうするつもり?」
「どうもこうも、手放すつもりがあるなら教えてくれないか」
未来から来たという自分の知識を、曹操とあろうものが手放すなどありえないとは知っていた。
「第一、どれだけ自分が楽しそうに笑っているか、鏡を見てくればいい」
「ふふふ。本当に拾い物ね」
「ただ、俺にも選ぶ権利はあると思わないか?」
鞄を肩に掛けて椅子から立ち上がる。
「あら、は私じゃ資格がないというわけ?」
余裕を見せる華琳とは対照的に、夏候惇などは今すぐにでも斬りかかって来そうだ。
「教えてくれるか?王になって君が何をしたいのか」
「乱世を終わらせ、民に平穏を。それが王の務めよ」
まっすぐに見つめてきたを、負けずに見つめ返す。
「理想だな。その理想に到達するのに、どれだけ血が流れるかわかっているのか?」
「無論。それでも、目指すものは変わらないわ。全てをのみこんで、覇道を行くわ」
「では、その責任をその身に背負い、それでも尚、茨の道を進むと?」
「私を誰だと思っているの?曹孟徳、覇王となる人間よ」
その小さな身体にどれだけの覇気が詰まっているのだろう。
彼の方が身長は高いはずなのに、見下ろされている感じがしてしまう。
「……さすが、というべきかな」
は見下ろしていた視線をふっと和らげた。
『王』という立場。
その重さを知ってなお、その道を歩むことの覚悟を決めたのだ。この少女は。
「いいだろう。君がその思いを持ち続ける限り、俺は君の味方でいよう。ただし、君の部下にはならない。俺が嫌だと思ったことには手を貸さない。それでも構わないなら」
どうして、ここに来ることになったのか、それはわからない。
だが、ここに居る間くらいは、この小さな覇王様の一助となるくらいはいいだろう。
「いいわ。では、客分という扱いにして、部屋を用意させましょう」
「最低限の衣食住が確保されればそれでいい。それ以上はこれからの働き次第で」
「当然ね。そうだわ。そういえば、の真名を聞いていなかったわね。教えてくれるかしら」
「ん?俺の真名を呼んでくれるのか?」
「貴方の態度次第ね。呼ぶかどうかは、また決める事よ」
「それは嬉しいが、真名の無い国から来た人間だぞ?」
さっさと教えなさいという様子の華琳に、は微苦笑を浮かべて答えた。
「ん?どういう事だ?」
「だから、俺の国では真名がない。強いていえば、が真名にあたるんだろうな。まあ、好きに呼べばいい」
「……っ!」
「な、なんと……」
「……むぅ」
その言葉に目の前の彼女たちは目を丸くしている。
「どうした?」
「いや、少々予想外でな」
「貴様は初対面の我々に、いきなり真名を呼ばせることを許したと、そういう事か?」
「そちらの流儀に従うなら、そういうことになる……のか?」
彼には『真名』の習慣がない。それがどうしたと言わんばかりだ。
「そう。ならば、こちらも貴方に真名を預けないと不公平でしょうね」
華琳は知らぬ事とはいえ、自分が彼の真名を呼んでいたことを知った。
。私のことは華琳と呼んでいいわ」
「いいのか?」
「私がいいと言っているのよ。構わないわ」
「夏候惇に斬られたりしないか?」
彼女の後ろに立つ黒髪の女性をは指差す。
「蹴りくらいで勘弁してやる」
「名前を呼ぶたびにか?それも勘弁してほしいな」
「春蘭、そういう脅しは慎みなさい」
華琳はため息混じりに春蘭に告げる。
「いや、今のは脅しじゃなくて、本気だろ」
「黙れ!華琳様、神聖なる真名をこのような者にお許しになるなど」
の冷静な突っ込みに、春蘭は声を荒げて彼を怒鳴りつけると、主に再考を促す。
「春蘭、私はを客分にすると言ったのよ?」
「し、しかし……」
そんな二人の間に入ったのは、だった。
「俺はどちらでも構わない。でも、でも、好きに呼んでくれればいい」
「そう……秋蘭はどう?」
彼の言葉に落ち着いたのか、華琳はもう一人の女性、夏候淵に訊ねる。
「承知しましたと、お応えしましょう」
秋蘭は目を瞑って、小さく笑う。
「秋蘭、お前まで!」
妹の言葉に春蘭は眉を寄せた。
「私は華琳様の決めたことに従うまで。姉者は違うのか?」
「む、私だって……だが、こいつの名が本当に真名かなどわからぬではないか!」
春蘭の言葉に、さすがのもむっと眉を寄せる。
「俺を馬鹿にするのはいい。でも、俺の名前を馬鹿にするな。両親が付けてくれたものだ」
「そうよ、春蘭。あなたも先ほど父母からもらったものを愚弄するなと言っていたでしょう。第一、そんなつまらない嘘をついているなら、即刻首を刎ねるまでよ」
「首を刎ねるのが好きだな、君らは。だが、真名とはそれだけ重いという事か」
知識と知っていても、まだ理解しているとは言いがたい。
はまだまだだなとため息を吐いた。
「だから、もしその存在を偽っているのなら、今謝るなら、百叩きで許してあげるわ。どうする?」
「どうするも何も。俺が親からもらった名前は、『』。ただひとつだ」
その親にも簡単に会えなくなってしまったが。
「結構。なら、これから私のことは華琳と呼びなさい。良いわね?春蘭も」
「はぁ…」
「では、華琳。これからよろしく頼む」
こうして、魔法使いの青年は、華琳と呼ばれる覇王との生活を始めることとなった―――

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後書&コメント

  1. 主人公、覇王様に拾われるの巻。
    最悪、魔法が使って不意を打って逃げ出せ、俺。と思っているので、意外と図太い人になってしまった。まあ、この辺りは原作とあんまり変わらないですな。
    さてさて。今後、どうなりますやら。

    コメント by くろすけ。 — 2010/03/04 @ 18:39

  2. 更新お疲れ様です。

    今回は出会い編と言う事で、第一印象的には問題ない感じでしょうか?
    主人公はこれからどんどん旗を立てていくんだろうなぁ……そして三国統一した後他の国の武将達を相手に三国一の種馬っぷりをげふんげふん

    何はともあれ、今後も更新楽しみに待ってます

    コメント by 連星 — 2010/03/08 @ 16:29

  3. コメントありがとうございます。
    まあ、少しは使えるかも程度に思われている様子なんですが。
    誰にフラグを立てるかは、覇王様以外はあんまり考えてないんです、実は。小さい子供に手は出せないっ!と思っているので、その辺りにカテゴリされる方々は、もれなく『妹』扱いを受けますし。
    私好みの女の子を落としに行くのが、このサイトのモットーですから(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2010/03/08 @ 18:03

  4. 覇王様が好み……つまりつるぺったn(ry
    くろすけさんとは旨い酒が呑めそうです><
    ちっちゃいのが大好きです。でもおっきいのも愛してます。あ、バランス型も大好物です^^^^^^^
    最近……男の娘にも目覚めt(ry

    これからも頑張って下さい!

    ……変態と言う名の紳士として!!w

    コメント by 連星 — 2010/03/08 @ 20:00

  5. いやいや、それは関係ないですから。
    覇王様が好きなのは、むしろ生き方の方でヨロシクお願いします。
    というか、男の娘って何でしょうか?女装?男装?
    変態と言う名の紳士でもないですし。つーか、変態の時点で紳士じゃないと思うんですが…。

    コメント by くろすけ。 — 2010/03/08 @ 20:29

  6. 自分が汚れてしまっている事を再認識致しました。
    うん、何と言うか、うん。
    正直生まれてきてごめんなさいorz

    変態紳士と男の娘については知らないままの方が良いです。知ったらヨゴレちゃいます。私の様にorz
    決して悪意が有って言った訳では有りませんが、不快な気持ちにさせてしまい、申し訳有りませんでした。

    コメント by 連星 — 2010/03/08 @ 20:59

  7. いえいえ、コメントをいただけるのは嬉しいですので、また良ければいらしてください。
    変態紳士と男の娘については、知らないままで生きていこうと思います。
    何となく、知らない方がいいような気がするので(苦笑)

    コメント by くろすけ。 — 2010/03/08 @ 21:08

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Posted: 2010.03.04 真・恋姫†無双. / PageTOP