こうなったら、藁に縋れ

その日も特製のミルクレープを紅茶と共に楽しみながら、薔薇様と呼ばれる三人とその妹達は、穏やかな午後を過ごしていた。……と書けば、実に優雅な話なのだが、本当のところはぽっかりと空いた暇な時間を多少持て余していた。
「暇ね」
「暇よね」
「何か面白い話ない?」
どうしてそこで、自分に視線が集中するのか、青年は声を大にして訴えた。……心の中で。
ここで何か言っても勝てそうに無いので、は右手を上げた。
「三択です」
ゆっくりと指を折り曲げていく。
「ひとつ。私の保護者に連れて行かれたパーティでの、祥子さんとの出会い」
聞いていた祥子のカップがガチャンと大きな音を立てて受け皿に落ちた。
「ふたつ。遊びに行った近所の道場での、令さんとの初対面」
タイミングよく紅茶を飲んでしまった令がむせ返る。
「みっつ。将棋の対戦をしに出掛けた小萬寺での、志摩子さんとの再会」
ガタンと音を立てて立ち上がる志摩子を初めて見た。
「さあ、どれにします?選べるのはひとつだけですよ」
優しい微笑と共に告げられた彼の言葉で、静かだった室内にゴングの音が響いた気がする。

「蓉子さんはともかく、江利子さんや聖さんがここまで本気で討論する姿なんて滅多に見られない光景ですね」
この学園の生徒をまとめるはずの3人が喧々諤々討論をする光景を、黒髪の青年は淹れなおした紅茶を手にのんびりと眺めていた。
確かに。確かに、そうなのだが。
原因を作った本人が言う台詞だろうか。
「まあ、なんにせよ。これで暇ではなくなりましたよね」
当初の目的を完遂しましたと言わんばかりの彼の満足そうな笑みに、妹達は揃ってため息を吐いた。

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Posted: 2009.01.03 マリア様がみてる. / PageTOP