Third Impact

S.M.Sでの仕事を終えて出口へと向かうの前に、最近見慣れてきたピンクブロンドの彼女が立っていた。
「シェリル?」
声をかけると目を輝かせて一目散にやってくる彼女に、は微笑みを浮かべていた。よほどの時間待たされていたらしい。
!」
「アルトならこれから機体テストがあるから、かなり待つことになるよ?」
彼の腕へと飛び込んできたシェリルを優しく抱きとめる。
「違うわ、今日待っていたのは、貴方よ」
「俺?」
彼女を床へ下ろしながら、は首を傾げる。
「そ。贈り物を貰うだけは嫌だったから、ご飯でも一緒にどうかなって」
シェリルは首元と手首をに輝くアクセサリーを嬉しそうに彼に見せる。
「ああ、そういうことか。先に言ってくれてたら、予定を組んだのに」
「それじゃ、サプライズにならないじゃない。だから、ここで待ってたの。アルトからだいたいの時間は聞いてたから、そんなに長い時間は待ってないのよ。ね、これから時間をもらっても大丈夫かしら?」
「シェリルの誘いを断るほど重要な用事はないな」
「じゃあ、行きましょう」
シェリルはの腕に自分のそれを絡めて街へと歩き出した。

はどんなことを考えてこれを作ったの?」
街を歩きながら、シェリルは首元のチョーカーを軽く手で押さえた。
「これを作った時は、私を知らなかったんでしょ?」
「面目ない」
そんなに昔のことではないので、は苦笑するしかない。
「それはもういいの。私だって知らないこと山ほどあるもの」
で?と上目遣いに見つめられて、青年は作った当時の事を思い出す。
「狐の嫁入り」
「キツネノヨメイリ?」
「そう。お天気雨とも言ってね。晴れているのに、何故か雨が降るんだそうだよ」
「そんな事があるの?」
シェリルは目を丸くして青年を見上げた。
「自然って不思議だね」
はそんな彼女に楽しそうに笑ってみせる。
「それで、いつだったか。雪が降ったんだよ」
「雪?」
「そう。空は凄く晴れてたんだけど、突然白いものが舞い始めてね」
その時を思い出すように夕闇が迫る空を見上げる。
「まあ、実はコンピュータの設定ミスだったらしいんだけれど。少し…そう、ワクワクしてね。それでソレを作った訳」
青年は笑いながら、シェリルの首元で輝くそれを指差した。
「でも、どうして私にくれたの?の作品だもの、他に欲しいっていう人も多かったんじゃない?」
「そうだね。でも、それは俺のお気に入りなんだ。だから、渡す相手は俺が選びたかった。欲しいっていう相手じゃなくて、あげたいって思う相手にね」
「それが、私?」
「そう。初めて会った時に、とても綺麗な空の色だと思ったんだ。だから、君にあげたかった。受取ってもらえて、更に気に入ってもらえたから、作り手としては最高だね」
がとても嬉しそうに笑うから。
「選んでもらえて嬉しいわ」
シェリルも誇らしげに答えた。

連れて行かれた和食のお店で、は勿論シェリルも初めて食べる料理の数々で目と胃を存分に満足させた後、二人は程近い公園へ足を向けた。
「ああ、美味しかった。でも、やっぱりお箸は使いにくいわ」
人気のない公園を歩きながら、シェリルは今日のメニューを振り返る。
「ああ、今日は塗り箸だったから特にね」
そんな彼女を見守るように一歩後ろを歩きながら、も思い出して苦笑する。
は上手なのね。和食が好きだから?」
「アルトに鍛えられたんだよ。あれは意外とスパルタだから、一日が終わった後は腕がツるかと思ったぞ?」
軽く右手を振って苦笑する彼に、初めて彼の家に遊びに行った時のことを思い出して、シェリルはクスリと笑う。
は、アルトに頭が上がらないのね」
「まあ、否定はできない。頼りない兄を見てるような感じかもしれないな」
はアルトに叱られた数々の出来事をシェリルに話して聞かせる。
「ふふふ……それはが悪いわ」
「まあ、昼寝して約束の日に風邪引いて熱を出せばね。それ以来、昼寝する時はどこでも毛布持参が約束だ」
「外で寝ないっていう選択肢は?」
の腕に自分のそれを絡めて、シェリルは彼を上目遣いで見上げる。
「気持ちいいんで止められない。アルトもそれは分かってるみたいで、呆れたようにため息を吐くだけだね」
「アルトの仏頂面が目に浮かぶわ」
笑いすぎてシェリルの眦には涙が浮かんでいた。
「また家の方へも遊びにくるといい。あのハンモックでする昼寝は格別だから」
「いいの?あの猫ちゃんにも会いたかったの」
優しく頭を撫でられながら、あの家で会った子猫を思う。
「先に連絡をしてくれると助かる。仕事で家にいない時もあるし、シェリルの好きなお菓子を用意できるぞ」
「この間のシュークリーム!本当に美味しかったの」
「了解した。必ず用意しよう」
二人の間にふんわりと柔らかい空気が流れた時だった。
人が走ってくる音と共に、聞きなれた声が聞こえてきた。
「先輩!シェリル!」
「アルト?」
は駆け寄ってくる後輩に目を丸くした。
彼の後ろには、ミシェルとルカの姿も見える。
「シェリル!何勝手に先輩とあの店に行ってんだよ!」
「何よ!私はにお礼をしたかったんだもの。二人で行くのが当然でしょ!」
「なんだとっ!」
喧々諤々と公園で言い争いを始める二人を、は微笑んで見つめている。
「相変わらず仲がいいね」
「あれを見た感想がそれとは……」
「……さすが先輩」
言い争う二人の様子へのの感想に、ミシェルとルカは感嘆とも諦めともとれるため息をこぼしたのだった――――

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後書&コメント

  1. 少しずつ仲良しさんになってます。
    やっぱりシェリルは可愛い……

    コメント by くろすけ。 — 2010/06/04 @ 00:25

  2. シェリルって、なんとなく、プライドの高い猫みたいなイメージがあります。気を許した人にしか触らせなさそうな、そんな感じ。
    なので、主人公にはけっこう最初っから無防備に触らせてるあたり、思わずニヨニヨしちゃったり。
    そして動じない主人公。

    うーーーん・・・・・・やきもき(笑)

    コメント by 凛音 — 2010/06/06 @ 00:32

  3. >凛音様
    シェリルは猫ですよねー。呼んでも素直には寄ってきてくれない。
    うちの主人公は猫マスターの称号を持ってますよ、きっと(笑)
    そして、あれは動じてないというより、まだ後輩と見ているところが大きいかと思われます。
    あと、プロとして仕事に誇りをもっている同志という感じ。
    早く認識を改めてくれーと私も思っているところです。

    コメント by くろすけ。 — 2010/06/06 @ 01:13

  4. 猫だー猫!!かわええ~猫がいる!シェリル嬢ですが・・・
    主人公もなんか猫っぽいですけど、外好きで自分理論がある所とか?
    しかし、自分の中のシェリル嬢のランキングがこちらのシェリル猫のせい?で不動化してきているんですがど~しましょ??

    コメント by 蒼空 — 2010/06/10 @ 00:10

  5. >蒼空様
    にゃんこですよー。主人公は一目見て、このにゃんこが気に入ったのですよ。
    綺麗な蒼い目だなーと。
    そろそろ愛でる時期に移行して欲しいと、私が心の底から願っています。

    コメント by くろすけ。 — 2010/06/10 @ 23:31

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