どうすべきか、青年は非常に困惑していた。
「ねぇ、君はこういうのつくったりしないの?」
といって、クラスメイトに差し出されたものには、微笑んだシェリルが大写しにされている。
銀河の妖精特集と銘打たれたファッション雑誌だった。
「知ってる?最近、シェリルがお気に入りでつけてるのよ、このアクセサリー」
テレビや雑誌のインタビューで、彼女が身につけるようになったそれらが大々的に取り上げられている。
さすが銀河の妖精というところだろう。
「あー」
自分が作りましたとは言えない。
言ったが最後、寄越せコールが起きるか、笑われるかのどちらかだろう。
「君なら似たのをつくれるかなって」
「街に行けば幾らでも似たのを売ってるぞ」
「だって、高いんだもの」
は雑誌を捲りながら、全く人を何だと思っているのかと内心ため息を吐いた。
デビュー以来、彼女がずっと身につけていたイヤリング以外では初めての事だと書かれている。
噂になっているとは聞いたが、これだけで記事になってしまうのが凄い。
帰りに本屋に寄ってみるかとは雑誌を置くと立ち上がる。本屋に寄る時間を考えると、そろそろでないと仕事に遅れてしまう。
「あ、ちょっと」
「悪い。これから仕事なんで」
「ねえ、作ってくれない?」
「パス。今は仕事が忙しいから」
シェリル以外にアレを作る気は全くない彼としては、断る以外の選択肢が存在しない。
「じゃあ、お先に」
後ろで騒ぐ連中のことは頭の中から追い出してしまう。
今日はルカの機体調整や何やと忙しいのだ。
見た目は人の良さそうな青年は、興味の無いことには、記憶容量を割り振るのも勿体無いと思っていたりする。
S.M.Sに向かう途中の本屋で、は先ほど見せられた雑誌は店頭で山積みになっていた。
なるほど、初めて会った時の事を思い出して、彼は苦笑する。
辺りを見回しただけで、彼女の写真だらけだ。それも本屋だけではない。街の至る所に彼女のイメージが貼り付けられていた。
昔の自分がいかに希少な存在だったか思い知らされて、は改めて口元に苦笑を浮かべた。
とりあえず数冊、彼女が表紙だった雑誌があったので、教室で見せられた本と一緒に買い込んだ。
全ての写真に、あのアクセサリーが写っている事に、の頬も緩む。
「ありがとうございましたー」
本屋の店員の声を聞きながら、雑誌の入った袋を抱えて外へ出れば、ポケットの中の携帯が震えて着信を知らせてきた。
「ん?」
携帯端末に浮かんだ名前に、は優しく微笑んだ。
「シェリル?」
【そのまま右見て】
電話に出てみれば、唐突にそれだけを告げられた。
「……なるほど。今行く」
言われるままに振り返れば、黒い大きな車から彼女が手を振っていた。
その彼女には少し早足で駆け寄る。
「これから仕事?」
「ああ。シェリルは?」
運転席に座っているグレイスに軽く会釈すれば、彼女も笑い返してくれる。
「雑誌の表紙の撮影」
「そうか」
「それ、何?も飛行機の本とか買うの?」
シェリルはアルトが読んでいた雑誌を思い出した。本屋から楽しげに出てきた彼も、きっとそういう雑誌を買い込んでいるのだと思っていたのに。
「これか?君が表紙の雑誌だよ」
「え?」
だから、一瞬、彼が何を言ったのか、シェリルには理解できなかった。
「アクセサリーの特集と書いてあったので買ってみた。感想はまた今度な」
そう言って彼が取り出したのは、全てシェリルが表紙を飾っているものだ。
「なんで!?」
彼が女性誌を持っているのが信じられなくて、シェリルは窓から顔を出してしまうところだった。
「今日、学校でこれが欲しいと、同級生に言われてね」
雑誌には彼から貰ったアクセサリーの特集が載っている。彼は同級生のために作るのだろうかと、シェリルは少し考えた。
「俺は君以外に作るつもりが全くないので、丁寧に断らせて貰ったけど。ただ話を聞いて、ちょっと読みたくなったから」
だが、彼の否定の言葉とシェリルの写真もあるしと笑う彼に、シェリルは嬉しくなった。
「そう。じゃあ、次に会う時には感想を聞かせてね。仕事にいく途中に、呼び止めてごめんなさい」
「構わないよ。まだ時間に余裕はある。俺は君と話せて嬉しい。じゃあ、シェリルも仕事を楽しんでおいで」
「ええ。も頑張って」
車が走り出してシェリルは思う。
楽しんでと彼は言った。辛いことも大変な事もあるけど、それすらも楽しんで。きっと、彼もそう思って、仕事をしているのだ。
そう思うと、シェリルは笑顔になっていた。
「シェリルは彼がお気に入りなのね」
そう、グレイスがからかうように言う程度には。
「あれ、珍しいですね。先輩が雑誌なんて」
仕事が終わって帰ろうとしていたミシェルは、同じく帰ろうとしていたを見つけて声を掛けた。
「ああ、ミシェル。お疲れ様。君達も今帰りかい?」
「……ファッション紙ですか?」
ミシェルが手元を覗き込んで、驚いた様子を見せる。
「どうしたんですか?いつも作りたいものを作る先輩が、参考資料なんて」
そんな後輩に今日学園であった出来事を掻い摘んで説明すると、彼は納得したように頷いた。
「なるほど。これはアクセサリーじゃなくて、歌姫の参考資料ってことですね」
「まあ、そうなるのかな。クラスが同じじゃないから、学園でもそんなに会えないしね」
「で、作るんですか?新しいの」
「クラスの連中に強請られるのは嫌だけど、あの子が身に着けてくれるのは嬉しいんだよなぁ」
困ったなぁと笑うだったが、ミシェルには嬉しそうにしかとても見えなかった。
「でも、まさか先輩がシェリルにここまではまるとは思いませんでしたよ」
「……これははまっているというのか?」
好きなものを好きな時に。それがモットーのには、シェリルを優先しているという意識はない。
他の作品もボチボチ作っているからという事もある。
だが、後輩達に言わせれば、あの宝箱の物を渡して、尚且つ彼女専用の新作を作ったという事実だけでも驚きなのだ。
その彼の作ったものが、どの雑誌でも取り上げられている。
「しかし、どこの雑誌も大特集ですね」
「これはシェリルの特集。彼女が今まで常に身に着けていたのは、このイヤリングだけのようだから」
こちらを挑戦的に見つめているシェリルの写真には、彼女愛用のイヤリングが大写しになっている。
「大切なものなんだろうね」
「……先輩、シェリルが好きなんですか?」
あまりに優しい瞳をしているものだから、ミシェルは思わず訊ねていた。
「嫌いだったら、これをあげたりしないよ。どうしたんだ?ミシェル」
「いえ、そうですよね。すみません」
「?まあ、いいか。それより、ミシェルとクランにも何か作りたいんだが、どっちのサイズで作ればいい?」
「……ヒューマンサイズでお願いします」
調達する素材量が変わって来るんだがと、から真面目に問われたミシェルはガックリと肩を落とした。
数日後、シェリルがやってくると連絡をもらっていたは、手土産を持参で航宙科に顔を出す。
「!」
「っと……危ないよ、シェリル」
持っていた風呂敷包みを身体から離しながら、駆け寄ってきた歌姫を抱き止めた。
「今日のおやつ?」
「ああ、皆が頑張っていると聞いたからね。アルト、緑茶を持ってきたから、淹れてくれるかな」
少し離れた場所でミシェルとルカに抑えられている弟分に、は苦笑しながら声を掛けた。
「……え?」
「今日は草餅だよ。後、お萩ときな粉餅もある」
中身を聞いたアルトは、実に複雑そうな表情でお茶葉を受け取って行った。
「……どうしたんだ?」
いつもなら満面の笑顔で喜ぶのに。が首を傾げていると、ミシェルが笑いながら答えを教えてくれた。
「本当は嬉しいんですけど、大切な兄貴分を奪おうとしているシェリルの前では、素直に喜べないみたいですね」
「……それはまた」
困ったねとは、笑った。
シェリル猫が……。キタ~~!!
今回はキース君にスポットを当てた?お話で猫率は低めですが、要所で可愛い反応を見せるシェリル&アルト(笑)が良いですねぇ~
シェリルを少しずつ理解していくキース。
そうしてシェリルを知っていった中、次はどんなイメージでアクセサリーを彼女に上げるのか楽しみです。
そんな事を妄想していると、「シェリル左薬指でひと騒動そして弟アルト誤解を解くため悪戦苦闘」を妄想してしまいました(笑
コメント by 蒼空 — 2011/09/25 @ 01:00
まあ、アルトはさぞや複雑な心境なんでしょうね。
今まで世話になってきた先輩がシェリルにとられてる状態なんだし、ミシェルの言ってることは大当たりでしょうね。
にしても、アクセサリーの人気は凄まじいですね。
本人かはわからずとも、似たものなら作れるだろうと女子が集ってる状態でしょうが、流石に同じのは作りたくないですよねぇ。
気分屋が積極的に動くのは歌姫限定ですし。
コメント by エクシア — 2011/09/25 @ 03:42
祝マクロスF更新!!(誰に対する?私にです)
ちょっと時間が飛んでいるのかな?かな?(違うと思いますが)
微妙な気分のアルト。ミシェルも慕っているのですね。
続きに期待しています。
コメント by 瑪瑙 — 2011/09/25 @ 16:46
久しぶりにMacross/F 更新キター!
相変わらずのずれた感覚の主人公と、シェリルの組み合わせが可愛いですね。
そして兄貴分を取られて拗ねちゃうアルト、男なのに可愛いとか思ってしまう私は駄目な人か。
恋姫も楽しみですが、Macross/Fの方も期待して待っています。
コメント by Eris — 2011/09/25 @ 22:29
>蒼空様
楽しんでいただけたようでよかったです。
少しずつ進展していくといいなぁと思いながら、書いていました。
微妙なトライアングルになっているのが、書いていて面白かったです。
また是非お越しくださいませ。
>エクシア様
ものすごく複雑な心境だと思います、アルト(笑)。
お兄ちゃんを取られた弟君。しかも、相手がー!みたいな感じでしょうか。
これからもアルトは大変です。でも、巻き込まれるミシェルとルカはもっと大変かもしれません(笑)
>瑪瑙様
楽しんでいただけたようで何よりです。
時間はあんまり進んでいるつもりはないんですけども。
後輩ズは主人公先輩を慕ってます、面倒見がいいですしね。
更新はぼちぼちですが、また良ければお越しください。
>Eris様
気に入ってくださって嬉しいです。
きっとこの後、お茶を飲みながら、雑誌の感想を話す主人公とかが居るんでしょうか。
今後もしばらくは恋姫がメインになるとは思いますが、良ければまたのお越しをお待ちしております。
コメント by くろすけ。 — 2011/09/26 @ 08:15
遅ればせながら更新お疲れ様です。一週間も遅れてしまった・・・・
シェリルが猫ならアルトは完全に犬ですねwwアルトがどうやってここまで懐いたのかww過去の話があったら見てみたいですねww
シェリルさんや、会った当初は自分を知らなかったことにがっかりしてたのに今は雑誌見られてると思うと恥ずかしがるというなんともカワイイ反応を示してくれますねぇwwやはり意識してる人に見られるのは恥ずかしいんですねぇww
コメント by ヨッシー喜三郎 — 2011/10/01 @ 13:00
>ヨッシー喜三郎様
いえいえ、いつもありがとうございます。
やっぱり、私もシェリルは猫で、アルトは犬のイメージです。二匹が主人公を挟んで威嚇しあっている感じでしょうか。アルトの過去話、考えてある部分もあるんですけど、問題があるんですよ。シェリルが全然出てこないっていう、大問題が!(笑)まあ、いつか機会があれば、書いてみたいです。
シェリルは歌姫さんですが、根っこの部分は女の子だよなぁと思うので、こんなイメージになりました。
そろそろ本格的に本編に絡ませようかと考え中です。特に、海&水着!テレビ版と劇場版の良いところを美味しいとこ取りして進められるといいなぁと思ってます。
よければまたお越しくださいませー。
コメント by くろすけ。 — 2011/10/01 @ 22:20