「基本が漢字で良かったというべきか」
書類を片付けている秋蘭の隣で、児童用の絵本を読んでいた青年は、しみじみとため息を吐いた。
「は子供用の本を薦められても怒らぬのだな」
「俺の国ではこういう言葉がある。【外国語は子供と話すと上達する】」
絵本のページを捲りながら、は笑う。
「いきなり専門書を読んだって理解できる訳がないんだ。自分のレベル…水準に合わせなくては。それを理解して行動するのは、恥ではないだろう?」
「ふふふ。そう考えられる者は少ないのだがな」
「まあ、一応漢文は勉強した覚えがあるから、少しは楽なんだが」
ついうっかり、返り点とかルビとか振りたくなってくる。っていうか、絵本がある時点で色々突っ込みを入れたかったりするのだが。
「では、早めに覚えてくれると助かる。の能力であれば、この程度の処理は容易いはずだからな」
書簡が山と積まれた秋蘭の机の上を見て、は苦笑するしかない。
「冗談。俺は自分の仕事で手が一杯だぞ?」
「それだけでも私に回ってくる仕事は減るな」
「おいおい。勘弁してくれ。文字を覚えるのが遅くなりそうだ」
軽口を叩きながらも、が本を捲る手は止まらない。
「仕官したいって奴は一杯いるんだろ?」
「うむ。だが、武官と違って姉者に手合わせをしてもらう訳にもいかぬ。こればかりはな」
「春蘭が文官の試験なんてしたら、相手が死ぬだろ」
正面に立って覇気を食らっただけで倒れそうだ。簡単に想像できて、はため息を吐いた。
「ならば、どうする?」
「文官の試験か?まずは分野別に募集をかけるな」
「ほう?」
秋蘭は書類を読んでいた手を止める。
彼が持つ知識は役立つ物が多い。
「とりあえず財政と政務と軍務の三種類くらいにわける。で、三段階にわけて必要な試験を執り行う」
いつも持ち歩いているメッセンジャーバックから、は愛用の万年筆とメモ帳を取り出す。
白紙だったページに呟きながら考えをまとめてゆく。
それが常に彼の国の言葉で書かれるため、秋蘭には内容がわからない。漢字はともかく、何かがのたくったような文字など訳が分からない。
「まず一般教養。常識的な問題だな。こいつは三種類をまとめてやってもいい。次に専門試験。財政官なら計算式とかな。政務官なら法律。軍師なら将棋もありだな。で、最後に面接」
「なるほど。まず篩にかける訳だな」
「そう、人柄云々もあるが最低ライン…基準をクリア…超えた者が面接を受けられる。少しは楽になるんじゃないか」
「ふむ。いい案なのだが、それだけの人間が集まるとなると、用紙なども膨大になる」
「そうだな。まあ、現状では仕官したいという人間を数人ずつ見てゆくのが妥当だろう。だが、華琳が領土を広げれば……」
育成機関。
はメモ帳にそう書き込んで、ふむと腕を組んだ。
「?」
秋蘭の声に、青年は一つ首を振った。
「いや、やめておこう。とらぬ狸の皮算用になりかねん。必要になれば改めて、提案させてもらう」
時間がかかり過ぎる上に、現在の状況を考えても安定した運用は程遠い。
「……そうか。では、提案書を書くその時のために、早く文字を覚えてくれ。是非とも」
「はいはい。わかりました。秋蘭みたいな美人に頼まれては断れないな」
は肩をすくめて、再び絵本に視線を落とした。
秋蘭がやられたとばかりに口元を手で覆い、頬を染めているのに気付きもせずに……
秋蘭と文字講座。ちょっと短め。
ちなみに二人っきりではありませんので、あしからず。
きっと、周囲では文官さんたちが聞き耳をウサギのようにたてているはず(笑)
そのうち、女の子の口説き方を教えてくださいっ!とか、若い文官さんが押しかけてきたりしたら、面白いのに。
コメント by くろすけ。 — 2010/07/12 @ 16:33
秋蘭の照れにご馳走様です。
恋姫のクールビューティー担当?の彼女の表情を一言で破壊する主人公…
彼に群がる男性職員が想像されます!
コメント by 蒼空 — 2010/07/31 @ 21:56
>蒼空様
コメントありがとうございますー。
実は秋蘭が好きなくろすけ。です。
あの夏侯淵様をっ!?とか、周囲のザワメキ聞こえそうです。
メインキャラの出てこない男共の話とか書いてみたいですなー。むさくるしそうだけれど。
コメント by くろすけ。 — 2010/07/31 @ 22:19