Limit Break.

「カレン」
その日、帰ろうとしていたカレンはに呼び止められた。
「はい。なんでしょうか？」
「明日は作戦が無い。放課後は暇か？」
「え？」
「時間があればでいいんだが。一月前のお礼がしたい」
はゆっくりとカレンの下へ歩み寄り、彼女の手をとった。
「一月前…あ…えっと」
「忙しいか？」
「い、いえ。勿論、大丈夫です」
「そうか。では、学校が終わったら連絡を」
「はいっ！」

放課後、カレンは授業が終わると同時に教室を出た。
廊下を歩くその彼女の横を、が全速で走り抜けていく。
朝、彼が放課後にデートだということで、教室内が騒がしかった。
「ああ、もう。病弱設定なんてしなければ、私も全速力で走れたのに」
その背中を見ながら、思わず苦々しく呟いてしまうのは、彼女もこの後に人を待たせているからだ。

校門を出たところで、カレンは教えてもらった番号に連絡を入れた。
『』
コールはすぐに繋がった。
［カレン？］
「はい。今、学校が終わったのでご連絡を」
［そうか。では、右を見てもらおうか］　
「え？」
言われて視線を動かせば、いつもとは違うスーツを纏った青年が立っていた。
いつもは無造作に流している髪を整え、サングラスも別のもの。
「…ッ」
名前を呼ぶ寸前、カレンは思い留まる事が出来た。
小走りに駆け寄って、彼を見上げる。
「どうして、ここに…？」
「その質問には後で答えよう。それより観客が集まりきる前に逃げ出すぞ」
彼女の手を握ると、少し早めの速度で歩き出す。

しばらく歩いて学園の生徒らしい人間が見えなくなってから、2人は歩く速度を落とした。
「さっきの質問の答えだが」
「はい」
何故、は学園の前に居たのだろう。
「女性を待たせる趣味はない。それと……」
彼は微かに笑みを浮かべると、カレンの髪をサラリと撫でた。
「似合っている」
「あ、ありがとうございます」
「いつもの姿も魅力的だが」
更に付け加えられたの一言に、カレンは真っ赤になって俯いた。

しばらく歩いたところで、は立ち止まり、大きく息を吐いた。
「……？」
「あそこにいる方々は君の知り合いか？」
ショーウィンドウを覗き込んでいる振りをしながら、は隠れているらしい人を指差した。
「え？　あ……会長…」
彼女たちから少し離れた場所に、特徴的な金の髪が見える。隣に見える青い髪は、きっとリヴァルだろう。
「生徒会長？」
「は、はい。こういう事が大好きな人で……」
カレンは困った顔で、を見上げた。
万が一、彼の正体が彼女達にばれたりしたら、大変なことになる。
「なるほど。では、適当なところで振り切ろう」
はどこか楽しそうな声で、カレンに告げた。
「はい。任せてください」
「カレンは病弱なのだろう？学校では」
はくすりと笑うと、カレンの腰に腕を回して抱き寄せる。
「！？」
「だから、私に任せておけ」
そう言って、ゆっくりと歩き出した。
「あ、あの……」
いまだ腰に手を回されたままのカレンが、を見上げる。
「少し見せつけておきたい……というのは、子供っぽいと思うか？」
彼が彼女を抱き寄せておきたかったのだという事に、カレンは少し目を丸くしたが、すぐに小さく肩を震わせて笑い出した。
「……カレン」
苦渋の色が声に滲み出ているのが、わかる。
「だって、がそんな子供みたいな事を言うなんて」
なんだか楽しそうなカレンに、はサングラスの奥で目を細めた。
「明日の学校が楽しみだな」
マフラーで隠れている口元に、ニヤリという笑みが刻まれているのが見えなくてもわかる。
「……あっ！」
そうだった。ここで撒いたとしても、きっと明日以降の学校は大騒ぎになる。
「……」
「学園前でも見られているしな。勿論、彼氏だと言ってくれるのだろう？」

次の日、結局学校で追及されるカレンを、は微笑んで見つめる。
そして、そんな彼をルルーシュはため息を吐いて見つめていた―――