[Macross/F] -初詣。ClapSSより加筆あり。

昨年末、銀河を震撼させるニュースが流れた。
『銀河の妖精シェリル・ノームの左薬指に指輪!』
年越しライブでそれを披露した本人は、現在指輪の製作者の腕の中で、温もりを享受している。
「ん~♪」
鼻歌を歌いつつ、指輪を触ったり、じっと見つめたりと実にご満悦の様子だ。
テレビでは、そんな彼女の話題で大盛り上がりの最中である。シェリルを抱えて、コタツに入っている青年は、彼女の影響力を改めて思い知っていた。
今日はゆっくりと休養を取り、明日は早乙女家に出向いてから初詣に行く予定なのだが、どうしようかと思ってしまう。
「明日は楽しみね」
「ん。ああ、そうだな」
だが、ここまで楽しそうに言われると、断りの言葉が出ようはずもない。
は微笑んで、見上げてくるシェリルの額に口付けを落とした。
「君の仕事に支障が出たりはしないかな?これ」
テレビの中では、様々な憶測が飛び交っており、とても自分達が当事者とは思えない。
笑えばいいのか、怒ればいいのか、反応に困ってしまうこともしばしばである。
「社長さんやスタッフは皆祝福してくれたもの。だから、大丈夫よ」
「そうか。なら、いい」
「私は貴方に迷惑が掛からないか、それだけは心配。ただでさえ、前から噂になってたし」
シェリル御愛用のアクセサリー。それが噂になっていたのは、バジュラ戦役の前からで、世の中には類似品が山ほど出回っている。
シェリル本人がどこかのブランドではなく、一品物のオリジナルだと雑誌のインタビューに答えたこともあり、誰が制作者なのかと話題になったこともある。
誰それだと名前が出る度に、シェリルは笑って否定しなくてはならないので、迷惑になったかと思っていたのだが杞憂だったようだ。
「大丈夫。何かあれば相談するよ」
「ごめんなさい」
「シェリルが謝ることはない。俺が君を好きで、このポジションは誰にも譲りたくないだけだからな」
シェリルを真っ直ぐに見つめて、は笑う。
「それに何かあれば、頼りになる知り合いは大勢いるしね」
変な奴らが出てこないことを、心の底から願おう。何よりも彼らのために。

「アルト、これでいいかな?」
「ええ、大丈夫ですよ」
何度か和服を着ていた経験が、役に立ったようだ。
「矢三郎さんに感謝しておこう」
実はアルトの心配をしていた嵐蔵に頼まれ、矢三郎を通じて、近況を報告をしていたは彼らからの信頼も高い。
「ほら、ミシェルとルカも急げよ」
「わかってるんですが」
自分の用意をすませたは、初めて着る和服に四苦八苦の後輩を手伝い始めた。
「俺らがこうだと、女性陣はきっと凄いことになってるんだろうなぁ」
「ですね」
女性四名のうち、着たことがあるのは、バジュラ戦役中にここで世話になっていたシェリルくらいだ。
「用意が出来るまで、こちらでゆっくりとお待ち下さい」
着替え終わって矢三郎に案内された部屋には、コタツとみかんが用意されていた。
「ありがとうございます。今のうちに嵐蔵さんにご挨拶を申し上げたいのですが、お忙しいですか?」
「すみません。やはり年末年始は……」
の申し出に矢三郎は眉を下げた。
「いえ、いつもお忙しいのは存じ上げておりますので。嵐蔵さんによろしくお伝えください」
「はい。承りました」

コタツでみかんを食べつつ待つこと、しばし。
「皆様、ご用意が整いました」
彼女達の着付けを手伝っていた女性の言葉に、男性陣は腰を上げた。
「では、お姫様たちの元に馳せ参じるとしましょうか」
その女性の案内で、彼女達の待つ一室へ向かう。
「あ、みんな、待たせてゴメンね」
足音に気付いたのか、ランカが顔を出した。
「いや、そんなに待ってないよ。俺達もアルト以外は初心者だしね」
「それにこういう時間も楽しみのひとつさ」
とミシェルの言葉に、ランカは安心したように微笑を浮かべた。
「中へ入っても?」
「はい!」
「では、お邪魔します」
ぞろぞろと室内に入れば、男性陣の口からは感嘆の声が零れた。
シェリル、クラン、ナナセ、ランカの四人が振り袖に身を包んでるのだ。
「うわぁ、皆さんお綺麗です!」
「ああ、そうだな」
満面の笑顔で誉めるルカの言葉に、後ろに立ったアルトも頷いている。
「では、そんな君達に俺から贈り物」
が広げたのは、彼お手製の櫛やかんざしといった和風の小物だった。
「うわぁ……」
持ってきていた彼愛用の鞄から取り出されたそれらに、女性陣は目を輝かせる。
「アルトに聞いて、こういう時に使いそうなものを作ってみたんだ。どうかな?」
聞いてはみたものの、女性陣がそれらに釘付けなのを見て、は嬉しそうに笑う。
答えを聞く必要もない。
畳の上に広げれば、たちまち品評会が始まった。
「アルト、ちょっといいかな」
「はい?」
兄のようにも慕うの声に、アルトは覗き込んでいた顔を上げて、歩み寄ってきた。
「これ、作ってみたんだけど……。どうすればいいかな?」
「あ~、まずは……本人、呼びましょうか」
「ああ、それもそうだね。シェリル?」
その表情だけで全てが分かる。小さく首を傾げた彼女は、彼の手にある簪に気付いて目を輝かせて立ち上がる。
「新作?」
「そう。後ろを向いてくれる?」
シェリルはの言葉に従って、くるりと背を向けた。
その様子に、後輩一同は感動するしかない。
普通の女の子ならともかく、相手は女王様とも言われる『あの』シェリルなのである。
「こうかな?」
「もう少し角度をつけた方がいいです」
アルトの指導の下、シェリルの髪に簪をセッティングしてゆく。
「ねえ、まだ?」
シェリルはもう鏡の前に移動したくて仕方ない。
「もう少し待って。よし、これでどうだ?」
「上出来です」
「もういい?」
アルトの返事を待っていたとばかりに、シェリルは振り返る。
「ああ、どうぞ」
お許しを得たシェリルは、姿見の前で自分の姿を確認して、満面の笑顔を浮かべる。
「ありがとう、!」
シェリルのお気に入りに新しい一品が加わった瞬間だった。

「今回はベースが青なんですね」
そんなに遠くないということで、皆で歩いて神社へ向かう途中、ランカは隣を歩くを見上げた。
「ああ。シェリルの髪は、白ベースだと合わせにくいと思ってね。あと何本か作って合わせて使うのもいいかも」
シェリルはアルトと何かを話しながら彼らの前を歩いており、はそんな彼女を優しい目で見つめている。
「気が向いたら作る程度のアクセサリーを気に入ってくれて嬉しいよ」
「でも、凄く人気なんですよね?」
「どうなんだろう?そんなに数を作ってないから、すぐに売り切れているだけじゃないかな」
そんなことありません、と周囲で聞いていた全員が心の中で思った台詞だった。
「そちらを本職にしようとは思わなかったんですか?」
「ん~。業者に追いかけられたのが決定的だったかな。あれさえなければ、アクセサリーメーカーとして細々と生活してたかもしれないね。運よくS.M.Sに入社できて、それはそれで楽しい日々だよ」
そう言って笑うは後悔してない。
「そうだな。もう少し歳をとって、シェリルが俺を専属で雇ってくれるなら、主夫兼アクセサリーメーカーってのも悪くない……」
「本当!?」
「駄目です!」
恐らく仲良く話す振りをしながら、後ろの会話に聞き耳を立てていたらしい二人が勢いよく振り返った。
「……かもね。と言おうとしたんだけど……」
目をキラキラと輝かせるシェリルと、眦を吊り上げて抗議の声を上げるアルトを見つめて、は目を丸くしている。
「先輩がS.M.Sを辞めるなんて!まだ一度も勝てていないのに!」
「そんな事言ってたら、一生は辞められ無いじゃない!だいたい、は私のなんだから!」
「俺は認めてない!」
「アルトの意見なんて関係ないもの!」
道の真ん中で大喧嘩を始めてしまった二人に、他の面々は大半があきれ顔だ。
「先輩……」
ミシェルとルカが見上げてみれば、唯一呆れ顔をしていなかった人は嬉しいやら困ったやらといった様子だ。
「頑張るよ」
そう言っては、ゆっくりと二人の側に歩み寄る。
「ほら、二人とも落ち着きなさい」
睨み合ってる二人の頭に手を乗せて、声をかければ、シェリルもアルトも少し気まずそうな顔で、青年を見上げてくる。
「すぐに辞めるとは言ってないよ、アルト」
「そ、それはそうだけど……」
の言葉にも、アルトの納得いかないといった表情は消えない。
「それに辞めたからと言って、縁が切れる訳じゃない。そうだろ?」
「そ、それもそうですけど…」
「俺はいつだって、どこにいたって君の兄貴分のつもりだぞ?都合さえ合えば、君の頼みを断ったりはしないさ」
「……はい!」
の笑顔に、アルトは表情を一変させた。
彼がミシェルやルカの所へ行くのを見届けて、彼の大切なお姫様に目を向ける。
見れば、彼女は少し口を尖らせてむくれているようだった。
は、いっつもアルトを優先するんだから」
そんな風に言いつつも手を振り解く事無く、大人しく撫でられていたシェリルに、青年は微笑みを浮かべる。
「ありがとう。シェリルは優しいな」
「! べ、別にそういう訳じゃ……」
頬を染めて視線を逸らせる彼女が、黒髪の青年には可愛くて仕方ない。
「シェリル」
名前を呼んで手を差し出せば、ちらりとその手に視線を向けて、どうしようかと悩んでいる彼女を本当は抱きしめてしまいたい。
「一緒に行こう」
「……の都合は?」
そろりと手を重ねながら、シェリルは彼を伺うように見上げてみる。
「君が相手なら、都合の方を君に合わせるよ」
乗せられた手を優しく握り返しながら、が優しく笑ってくれるから。
「……どこまで?」
シェリルは自分の口元が緩むのを感じていた。
彼はいつだって彼女の望む答えを返してくれる。だから、今も期待している。
「君が嫌だと言うまで、どこまでも」
笑顔を抑えられず、シェリルはの左腕に抱きついた。
「さあ、初詣に行こう。神社にお参りを済ませたら、お正月特有の遊びを教えてくれるらしいし、餅つきも待ってる」
「モチツキ?お餅を作るの?」
「ああ。普通のお餅も美味しいが、つきたては格別だぞ?」
初めての事に興味津々の様子で見上げてくるシェリルの手を引きながら、は歩き出す。
少し前で笑いながら待ってくれている仲間たちの元へ。
「今年もよろしく、シェリル」
「こちらこそ、

早乙女家で行われた餅つきと羽根つき大会が凄まじい事になったのは、言わずもがな。

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後書&コメント

  1. さらりと、アルトよりシェリルを優先している主人公。まあ、仕方ないですよね(笑)
    WebClapにお礼SSとして載せたものに加筆してあります。初詣、直前まで。

    コメント by くろすけ。 — 2011/03/14 @ 00:13

  2. シェリル嬢の頼み事は最優先事項!
    闇?に「シェリルは俺んだ!」と全世界の男性陣にマーキングするキースさんも何気に…
    そう邪推する小生はどうなんでしょう??

    コメント by 蒼空 — 2011/03/14 @ 05:05

  3. >蒼空様
    さりげなく、シェリル至上主義な主人公ですから。
    やつは矢三郎並にブラックですよ?(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/03/14 @ 11:04

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Posted: 2011.03.14 WebClapSS. / PageTOP