「あれが、汜水関か~。さすがに大きいな」
鼻歌混じりで馬の上に座る魔法使いの青年には、すでに攻撃対象である汜水関が見えていた。
角度を調節して俯瞰図で調整済みだ。
「相変わらずの千里眼なの~」
「双眼鏡より見えるって、どんな眼しとんや。ほんま」
後ろから聞こえてくる二人の言葉は右から左に流しておく。
「あの二つが公孫賛と劉備……」
取り出した手帳に簡単な地形と軍の配置を書き始める。
「隊長なら、どう攻めますか?」
その手帳を覗き込みながら、凪は敬愛する隊長へ問いかける。
「相手の対応にもよるけど、あれをただ無闇に攻めるのは阿呆のやる事だろうな」
「しかし、内側に回るにも道がありません」
「そうかな?」
は既に上空からの視界で、細い獣道程度ではあるが山に道があるのを発見していた。
大軍での運用は難しいが、精鋭の小部隊でなら踏破できると思う。
「まあ、内側から開かせるってのも一つの手だが、その場合は華雄将軍の性格が問題だな」
「性格…ですか?」
「ああ、挑発に乗りやすいなら、門の前で一声罵れば終わりだろう。……おいおい、何考えてるんだか」
「どうかしましたか?」
突然、呆れた声を上げたに、凪は表情を引き締めた。
「凪、悪いんだが、華琳へ報告。袁術の陣地に動きあり。孫策が動きそうだから、偵察よろしくって伝えてくれ」
「はっ」
凪が駆けてゆくのを見送り、は改めて陣形を確認した。
「……全く。今回は敵からの被害より、味方っぽい相手からの損害が大きくなりそうだな」
「ただいま戻りました」
凪はすぐに戻ってきた。
「お帰り、凪。華琳は何か言ってた?」
「恐らく、功を焦ったか、袁紹軍に張り合ったかのどちらかではないかと」
「袁家の連中って、本当にろくでもないな。孫策も大変だ」
凪からの報告に、は軽く首を振ってため息を零した。
「春蘭が出陣するって言い出したりしてなかった?」
「ええ。ですが、華琳様の言葉に今回は見送られる様子です。後、送って損のない情報については、出し惜しみせず共有せよとの事でした」
「了解した。だが、この後は伏竜のお手並み拝見。俺達はしばらくは見学組だ」
後退する孫策軍の様子を眺めながら、は両手をあげて身体を大きく伸ばした。
「いいんでしょうか。ここで見ているだけで」
「ああ、構わない。俺たちは別命あるまで待機」
凪、真桜、沙和を連れたは、見晴らしの良い場所に陣を張って、公孫賛と劉備の連合軍を眺めていた。
「へぇ、急拵えにしては中々」
この茶番劇のような同盟の中では、比較的連携がとれていた。感心する彼の隣では、三人が交互に双眼鏡をのぞき込んでいる。
「だが、戦力比から言って篭城されては……ああ!?何考えてんだ!?」
は自分の目を疑ってしまった。
門が開いて敵の部隊が突撃してきたのだ。
「……一応、ここにも篭城戦ってあるよな?」
そうが尋ねたくなるほどの勢いで、砦から打って出てきた相手を眺める。
「勿論あるぞ。相手の武将はかなりの猪のようだな」
「秋蘭、それは随分と失礼だぞ。猪に」
篭城していれば出なかったはずの損害に、は苦々しい表情を隠そうともしない。
「それでどうしてここへ?」
「暇だったのでな。伝令をかって出た」
黒髪の青年は思わず笑ってしまった。確かに準備は整っているが、まさか夏候淵将軍が伝令とは。
楽進将軍を報告に使った自分の行動は棚の上に上げておく。
「追撃命令か?」
ここで命令するなら、彼でもそうする。あの出てきた部隊が退却する時に合わせて、部隊をねじ込む。
これから篭城戦に持ち込まれるのは馬鹿馬鹿しい。
「うむ。姉者が先鋒を務める。お主等もそれに続け」
「秋蘭も一緒に行くか?」
「そのように言われてきた」
「わかった。総員、攻撃態勢へ移行!合図したら、一気に駆け下りるぞ!」
青年の号令で、今まで休めの姿勢をとっていた部隊全体が一瞬で引き締まる。
そんな彼らの眼下では一騎打ちが始まっていた。
「ん?また綺麗な黒髪だな」
「劉備のところの将で、関羽というそうだ」
「なるほど……」
数合、武器を合わせただけで格の違いがわかる。
彼女が動く度に、ふわりとその黒髪が流れる様は、確かに美しい。
「女の子には髭はないものなぁ」
美髭公と呼ばれたはずが、まさかポニーテールとは。
「どうした?」
「いや、もうすぐ決着がつく。各員、騎乗せよ!」
千里眼の命に、従わない者はこの部隊にはいない。
「よし!あいつらの背後へ食らいつくぞ!全軍突撃!」
相手の将軍が打ち払われる、それとほぼ同時にの号令が部隊を動かす。
距離的に先に春蘭が攻撃を仕掛けたが、それにあまり差をつけずの率いる部隊も攻撃を行う。
精強な曹操軍に左右からの挟撃を受けた董卓軍が、あっさりと関所を制圧されるのは既に決定事項だった。
その日の軍議には正直参加したくなかったので、は自分の天幕でゴロゴロとしながら会議が終わるのを待っていた。
「!」
そんな平穏な時間を終わらせたのは、華琳だった。
「おー、お帰り。次の虎牢関の攻略は奪い取って来たのか?」
天幕の入り口を跳ね上げるようにして入ってきた彼女に軽く手を振った。
「……このっ」
簡易寝台の上でくつろいでいる青年の姿に、華琳は愛用の鎌を取り出す。
「どうせ、袁紹辺りにキーキー言われたんだろ。だから、行きたくなかった訳だが……そこで『絶』を振り回す理由がわからん」
「私が嫌な気分を味わってきたというのに、のんびりと過ごしているなんて気に食わないからよ」
「うわー。初めて見たな。華琳のそういうところ」
落ちてきた『絶』を白羽取りしながら、は嬉しそうに笑う。
「……何?」
『絶』をしまって、の前に仁王立ちする華琳は、不機嫌そうに眉を寄せている。
「いや、華琳もたまには自分を出すというのかな。我侭を言うくらいがいいんじゃないかと思って」
「私は王よ?」
「知ってる。だけど、あまりに感情を見せない王様は、民衆にこう思われてしまうぞ。『王に我らの気持ちはわからない』とな」
肩を竦める青年が優しく笑っているから、華琳はじっと聞いてしまう。
「たまには我が儘を言ってくれて構わないぞ。甘えられる準備はいつだってしている」
「……私に言ってるの?」
彼の言葉に、思わずマジマジと見つめてしまう。
今まで彼女にそんな事を言った人間は1人もいない。
「この状況で、他の誰に言うんだ?」
「あ、甘え方なんて知らないわ……」
華琳は自分の顔が赤いことを自覚している。
「そうか。では、これから頑張って覚えてくれ。楽しみにしている。ああ、袁家の連中みたいに我侭放題ってのは困るけどな」
「……あれになれと言われても無理よ」
「今日は珍しい日だな。華琳に知らない事があったり、無理なことがあったり」
「う、うるさいわね。これから軍議を開くから、貴方も来なさい!」
「Yes,MyMaster.」
照れ隠しに声を上げた華琳に、は楽しげに答えて天幕を出て行った彼女の後に続く。
「いや、しかし、こんなに可愛い華琳を言いふらせないのは残念だ」
「そんな事をしたら、本気で『絶』を振り下ろすわ」
「仕方ないな。では、俺の記憶に留めて置く事にしよう」
彼らが楽しそうに笑いあう姿を、周囲の兵士達が微笑ましそうに見ていたなんて、二人は知らない――
今回は主人公傍観&いちゃつけ!の回でした。
やっぱり、遠隔地を覗けるって便利ですねー。
そして、もう本当に早くくっつけばいいよ。
さて、次回は恋と再会の巻ー……になる予定です。
コメント by くろすけ。 — 2011/04/17 @ 01:57
何と言うか、三国無双と違って、足の引っ張り合いが多いですよね。
袁家が完璧な無能に格下げされてるし、劉備は理想論者になってるしね。
まあ、呉以外の他勢力には興味ありませんがね。
余談ですが
第二次スパロボZを発売日に買いました。でもって、昨日クリアしました。
前編の破界編だけで50話あったので、後編も期待できそうです。
ギアスはルルーシュが意外と使えば強くなりましたね。
ガウェインがハイスペックなのもあるんでしょうが、なかなかよかった。
余談の余談
台詞のカッコいいグレンラガン、ちょっと興味が出たので、二周目で優遇してみようと思います。
コメント by エクシア — 2011/04/17 @ 13:52
>エクシア様
コメントありがとうございます。
まあ、演義とか歴史とも随分違いますから。その辺は、パラレルパラレルの呪文でカバー(笑)
えーっと、一応この話って魏ルートになるんですけれど……大丈夫でしょうか?
コメント by くろすけ。 — 2011/04/17 @ 22:56
あくまで他勢力ではのことなので、魏ルートは大歓迎ですよ。
でなきゃ、こんな常連にはなりませんって。
コメント by エクシア — 2011/04/18 @ 01:22
恋姫の袁家はどっかで成長イベント挟まないと無能なまんまですよね~袁術はまだ子供なんで矯正で済むかもしれませんが袁紹は叩き折らないとどうしようもない気がします。まぁ劉備にも言えることですがネww
華雄さんがどうなったかって描写はなかったですよね?生きてるといいなぁ、原作でアレな扱いだったんで心配です。
どうしたんですかくろすけさん!ここのとこ更新ラッシュじゃないですか!!
コメント by ヨッシー喜三郎 — 2011/04/18 @ 01:31
>エクシア様
言われてみれば…なんですけれど、良かったです。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
>ヨッシー喜三郎様
袁家は1回足払いをかけて、再教育をお願いしたいですね。劉備諸共、軍師辺りにちくちくと。
華雄さん生きてますよー。一応、目指せ全員生存魏ルートなので。
……これが世に言う【筆が進む】?大丈夫。もうそろそろこんな異常事態は収束しますから(笑)
コメント by くろすけ。 — 2011/04/18 @ 10:44
王の前に一人のオンナノコ。
甘えられる環境を作るのも「漢」たる諒君のお仕事です。
目指せ天下統一!目指せ覇王様とのまったり散歩!?
コメント by 蒼空 — 2011/04/19 @ 21:43
>蒼空様
女子な王様も大好物ですから。頑張れ、主人公。
早くのんびり散歩(沢山のデバガメ付)に出かけられる日々を手に入れるのだ!
コメント by くろすけ。 — 2011/04/20 @ 10:37