全力で神様を呪え。[閑話休題-壱]

※今回は女体(男体)化するというネタ話です。そういうのが嫌いな方は回れ右してください。
  無問題な方はどうそこのままレッツスクロール。

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「なんだっ!これは!!」
その日の朝は、普段聞くことの出来ないの悲鳴から始まった。

悲鳴をあげた本人は、直後に自分の行動の迂闊さを呪う。
耳を澄ませれば、人の声と足音が聞こえてくる。
「まずい…っ!」
このままでは、扉を閉じても蹴破られるのは目に見えている。それでも咄嗟に鍵を掛けた。
っ!」
「何があったっ!」
自分の声にすぐに駆けつけてくれる人たちに感謝すべきなのだろうが、今回ばかりは涙がでそうだ。
!答えなさい!」
「華琳!?」
扉越しに聞こえてきた声には驚いた。
「王様自ら駆けつけたら駄目だろ……」
「そう思うならここを開けなさい」
「大丈夫だ。何もない」
「あんな悲鳴をあげておいて、説得力の欠片もないわね。それに大丈夫なら、主たる私に顔も見せないとはどういう事なのかしら?」
「すみません。全然大丈夫じゃないので、しばらくそっとしておいてください」
「大丈夫でないなら、何があったか事情を説明しなさい」
正論ってズルイ。は扉に額を当てて、心の中で涙した。
「じゃあ華琳と桂花だけなら」
「皆は今日の仕事に向かいなさい。私と桂花がから事情を聞いておくわ」
華琳の言葉は魏の首脳部には絶対だ。
華琳と桂花が部屋に入ったところで、はもう一度鍵を掛けた。
「で、どうした……!?」
「朝、起きたらこうなってた。原因は昨日桂花の持ってきた酒だと思うから、彼女を指名させてもらった」
華琳を背後から抱きしめただけで、彼女は彼に起きた出来事を理解した。
後頭部にあたる柔らかな感触に、少し高くなった声。抱きしめる腕も力強さよりもしなやかさが増している。
「で、桂花。昨日の酒はどういう代物……だぁっ!? 何してらっしゃるかな、この覇王様はっ」
突然、胸をつかまれては、腕の中の主を見下ろした。
「触り心地が良さそうだったんですもの」
「いやいや、今の問題点はそこじゃないだろ?」
としては今の自分の状況、つまり『彼』が『彼女』になっているという事実の理由と原因を理解したい。さらには、おそらく首謀者である目の前のネコミミ軍師を締め上げた挙句、解決方法を聞きだしたいところなのだ。
「……昨日の酒と言ったわね。桂花、説明をしなさい」
仕方ないわねと言わんばかりの表情で、華琳は俯いたままの桂花に説明を促す。
「ええと、その……」
華琳の命令に口を開いた桂花の話を聞き終えたは、寝台に座ってガックリと肩を落とした。
要約すると、最近華琳に可愛がられる回数が減ったのはのせいだから、制裁を!ということらしい。酒の成分さえ抜けてしまえば元に戻るということなのだが、としては正直泣きたい。
「それでこの有様か……」
額を押さえて落ち込む青年を余所に、覇王様と王佐の才は、部屋の真ん中で桃色の空気を生み出していたりする。
「……着替えるか」
他の部屋でやれと言いたくなる様な彼女たちを一瞥したは、ひとつため息を吐いてジーンズと上着を取り出した。
現実逃避をしたくなったとも言う。
「ここまで体型が違うのか」
男物が女性の体型になった彼に合うことはなかったが、身体のサイズ自体が一回り小さくなっていたこともあり、辛うじて着替えることが出来た。
「さて……」
どうしたものかとは首を傾げた。魔力自体は感じられるので、問題は体格の差によるリーチの違いだろうか。
第一、この格好で外へ出れば、彼が彼女であることは一目瞭然である。
「どこへ行くの?」
「それを考えて……もう少し掛かるかと思ったが」
背後から掛かった声には振り返り、幸せそうな桂花と満足げな華琳を見つめて首を傾げた。
「ふふ、続きは夜にと言ってあるわ。それより、今は……」
そうして華琳は艶然と笑ってを見つめている。

ぞわり――――

背中を走りぬけた悪寒に、は鍵を掛けていた扉を蹴破り、部屋から脱兎の如く逃げ出した。
「待ちなさいっ!」
「無理っ!」
背後から聞こえてくる華琳の制止に拒否の意向を伝えて、一気に廊下を走り抜ける。
「華琳様っ!いかが……!?」
「春蘭、を捕まえなさいっ!」
戸惑った様子を見せた春蘭だったが、それも一瞬のこと。
華琳の命令に一気に腰の大剣を抜き、の前に立ちふさがった。
「見逃してくれ!」
「華琳様のご命令だっ」
「そう言うと思ったよっ!【ヘイスト】」
加速の呪文を唱えて、彼女の脇を潜り抜けて春蘭からの距離を稼ぐ。
が、声や音を聞きつけた者達の足音が聞こえてくる。
「秋蘭!」
剣を構える姉、その背後の主君、そして走り去ろうとする
「ここは通さぬぞ、
この三点で全てを悟れる彼女の優秀さが恨めしいと、初めては思った。
視線を動かさず周囲を確認する。
そして、唯一の逃走経路を発見した。
「すまん、7日後には戻ってくる!」
秋蘭にそれだけを叫び、は開いていた窓へ飛び込んだ。
【レビテト】
地面に着く寸前に、浮遊の呪文を唱えては大怪我を免れた。
【バニシュ】
同時に茂みに逃げ込み、透明化の呪文を使用して、漸く一息吐いた。その状態で、何とか城外へと逃げる算段を考える。
あのまま部屋にいれば間違いなく、華琳に味われていた事は疑いない。というか確定事項だ。
今、捕まっても連行された先はきっと桃色の空気だろう。元に戻った後なら大歓迎だが、今の状態では謹んで遠慮、いや全力で拒否したい。
華琳に喰われる女になった自分。茂みの中で想像しては軽くへこんだ。
だが、いつまでもここには居られない。とりあえず近くの山林に逃げこんで、ありとあらゆる解毒の呪文が効くか試してみよう。
そう思い立ち、彼はおもむろに立ち上がった。
【ワッ・クオー 黒鳥嵐飛レイ・ヴン】
入り口は封鎖されていると考えて、城壁を飛び越える。
こうして、覇王の居城から天の御遣いが姿を眩ました。

「奴が逃げ出して、6日か……」
普段から春蘭の手伝いをしてくれていた青年が居なくなり、溜まりにたまった書簡を手に春蘭はため息を吐いた。
「では、もう明日が約束の期日だな」
姉の手伝いをしていた秋蘭は、書簡から顔を上げて窓の外を見つめる。
「あいつは約束を違えたりはせぬからな。しかし、何故逃げ出したりしたのだ?」
「姉者は気付いていないのか?」
「何をだ?」
「実に華琳様の好みだったのだが」
「うむ。だから、何故逃げ出したのかわからんのだ」
の女性化には春蘭も気付いていた。だが、華琳に愛されるのが大好きな彼女には、何故逃げ出したのかがわからないのだ。
「男の意地みたいなものだと、思ってもらえると助かるな」
窓の外からの苦笑交じりの返答に、二人は同時に視線を向けた。
「約束の日には一日早いぞ?
「ああ、本格的には明日戻る。春蘭が仕事を溜めていないか心配になってな」
は窓の外に隠れて姿は見せず、秋蘭に答える。
「なんだとっ!」
「秋蘭に手伝ってもらっていては説得力がないぞ。お師匠様?」
「ぐっ……」
「これ、差し入れ。蜂蜜を手に入れたから甘いものを作ってみました」
の手がひょいと現れて、窓の縁に布の袋が置かれた。
「他の人の部屋にも置いていくから、皆によろしく」
「ああ、わかった。伝えておこう」
「貴様の仕事も溜まっている。必ず戻って来い」
「了解。では、また明日」
すっと離れていく気配を感じて、春蘭と秋蘭は小さく笑う。
彼の向かったその先には彼女たちの主である華琳の執務室があった。

「では、しばらく休憩にするわ。桂花、あの件は上手く処理しておきなさい」
「はっ」
軍師や文官達が退室してから、華琳はゆっくりと立ち上がり窓の方へ歩み寄った。
「それで、どんな言い訳を聞かせてくれるのかしら」
窓の外で、その身体を小さくしている存在に声を掛ける。
「……少しは俺の身になってくれても、いいと思うんだが」
久しぶりに聞くの声に、華琳は思わず微笑んでいた。
「私はならどちらでも構わないわよ?」
「俺が構う。……入室を許可してもらえるか?」
「いいわ。入りなさい」
は窓から室内に音もなく降り立つと同時に、華琳に抱きつかれた。
「残念。とても触り心地が好かったのに」
「ちなみに、二度と同じ酒は効かんぞ?」
「ちっ」
舌打ちして本気で残念がる覇王様に対して、はガッツポーズである。
「城から出ていた間に山に視察に行っていた。ちなみに、これはお土産の蜂蜜菓子。それで、少し考えたことがあるから聞いてもらえるか?」
「では、早速敷物になりなさい」
手渡された袋を片手に華琳は椅子を指差した。
「Yes,My Master」
は笑って彼女をお姫様抱っこすると、机の前に座り、華琳を膝の上に乗せる。
「まずは……」
彼の話し始めた報告の有用性に、華琳はすぐに気付いた。彼の報告とは養蜂と、その専売についてであったのだ。
「山間部の貴重な収入源となるだろう。詳しいやり方については、改めて技術者を交えて話した方が合理的だ」
「その報告書、明日までに提出できる?」
「ああ、言われると思って作っておいた。詳細な方法もな」
彼が机に置いた書類に華琳はさっと目を通す。
「……いいわ。これをもって、私からの逃亡の罪は免除してあげる。視察という名目でね」
「それは、ありがたい」
「でも、今夜は逃げるのは許さないわ」
「いや、今日は是非桂花を可愛がってあげてくれ」
そういった彼が口元に浮かべたのは珍しく黒い笑いで、華琳はぞくりと背筋を振るわせる。
「男を女にする酒があるんだ。女を男にする蜂蜜があってもいいと思わないか?」
「……そう。そういう事」
先ほどお土産と渡された袋を見つめて、華琳は小さく笑った。
「ああ、大丈夫。桂花のところにおいてきた奴だけが特別製だ」
「甘いものにするあたり、貴方も策士ね」
いくら桂花が彼を嫌っていても、疲れた身体に甘いものをとろうとするだろう。
何より、彼特製の甘味は大人気である。
「少し甘めに作ってあるから、後でお茶を煎れてもらうといい。俺は明日の朝議に合わせて戻る」
「仕方ないわね。明日、遅れないように戻ってきなさい」
「Yes,My Master」
は愛しの覇王様に口付けを落として、何かを彼女の耳元で囁くと、再び窓から部屋を後にする。
そして残された華琳は、顔が赤いことを自覚していた。
『一週間お預けにされて辛いのは、俺の方だから。明日が楽しみだ』
耳元で囁かれた言葉を思いだし、華琳は低く呻いた。明日の朝、彼を見て冷静で居られるのだろうか。
「……この曹孟徳を言葉ひとつで支配するなんて」
寂しがり屋の少女はそう呟き、もう一度小さく笑った。

次の日の朝議。当然のように現れた天の御遣いに、事情を知らぬ者たちと事情を知る者たちからの視線が突き刺さった。特に桂花からは殺気を籠められた視線を一身に浴びている。
そして、その視線のせいで少し居心地の悪そうな青年を、覇王様はご機嫌な笑顔で見つめていた。
その様子に事情を知る者たちは、安堵のため息を吐いた。彼が逃亡した直後の彼女は、ちょっとご機嫌斜めだったのだ。
朝議の結果、天の御遣いの行動は『視察』ということで片付けられ、彼の提案した『養蜂』は国家事業の一環として進められる事となった。

「これで定期的に蜂蜜が手に入るといいなぁ。あれで作るレモン漬けは旨い。いや、ヨーグルトアイスにかけるのも甲乙つけがたいな」
朝議が終わった後、最初にが発したのはそんな言葉で、桂花の怒りを買った。いや、たぶん他の何かを言っても怒りを買っていただろうが。
「何てものを食わせてくれたのよ、このケダモノ!」
「勿論、他の人とは違う特製蜂蜜だがそれが?」
が珍しく黒い笑いを浮かべるので、この間の事件の原因は桂花にあったのだろうと、その場に残っていた全員が理解した。
「天然ものの特級品だぞ?特に疲れているだろう軍師様に謹んで献上したと言うのに、何か問題でも?」
「大有りよっ!こ、この私に、あんなもの!」
「あんなもののお陰で昨日は華琳に可愛がってもらえただろ?」
「ぐっ!」
ニヤリと笑う彼に、桂花は言葉を失う。
「俺に得体の知れない酒なんか飲ませるからだ。反省して今後に生かしてくれ。俺は基本的にやられた事はやり返す」
「くっ……また絶対、飲ませて」
「ああ。あの酒は二度と俺には効かないんで」
不穏なことを口にする桂花に釘を刺しておく。
「何ですってっ!」
「反対にあの蜂蜜に解毒剤はない。男にはただの精力剤に過ぎないからな。今後の行動には注意されたし」
怒りに赤く染まっていた桂花の顔が、急速に真っ青になってゆく。
「桂花の可愛い顔を見られるのはいいんだけど。そこまでよ、
「Yes,My Master」
華琳の言葉に、は軽く肩を竦めた。
「桂花も二度とが、業務を停止するようなことは止めなさい。各部署から陳情書が何通も上がっているわ」
「はっ」
苦々しげにを見上げながらも、華琳の言葉に頷く。彼が担当している警備だけではなく、手伝っていた部署から悲鳴にも似た訴えがあがってきていた。
も次はないと思いなさい」
元より華琳が襲おうとしなければ、彼は逃げ出したりはしなかったのだが。黒髪の青年は苦笑して一礼を行った。
「これにてこの件は終わりとするわ。もこのまま仕事へ行きなさい」
「では、御前失礼。さて、俺の居ない間、仕事の方はどうなってる?」
三羽烏に声を掛けて、は警備詰め所の方へ歩き出した。

こうして『天の御遣い逃走事件』は原因も理由も首脳部以外には不明のまま幕を閉じた。
その日の夜、覇王様が味わったのか、味あわれたのか。それは覇王様と天の御遣いだけが知る秘密である。

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評価

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後書&コメント

  1. 実は、この話が恋姫で最初に書かれた話だったりする事実。
    [閑話休題-壱]となっているのは、時系列的に微妙なネタ系列の話だからです。
    今後、ちょいちょい増えていくかと思われます。
    いつものように時系列に沿った拠点話も書いていく予定なので、そちらも楽しみにしていただけると嬉しいです。

    ちなみに、漸く公開したのは、前回晴れていちゃいちゃ出来るようになったからです(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/05/08 @ 22:28

  2. 性別問わず、覇王様は好みの人間ならどっちでも問題ないか。
    ある意味女だから出来る反応ですよね。
    野郎がそんなだと流石に気持ち悪いですし。

    コメント by エクシア — 2011/05/09 @ 14:38

  3. >エクシア様
    コメントありがとうございます。
    これは覇王様が相手だからこそ書ける話でした。
    覇王様が変わったりしたら、男主は即効ばれるのも厭わず、魔法を使いまくってでも元に戻すと思います。
    というか、私が書けません&言われるまで想像すらしませんでした(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/05/09 @ 17:06

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Posted: 2011.05.08 真・恋姫†無双. / PageTOP