[日常、あるいは平穏な日々]

出会いの日から、三人の水先案内人(半人前)の生活に、黒髪の青年は溶け込み始めた。
それは、彼にとっても心地よいものだった。

「グランマ、こちらの書類整理終わりました~」
今日はARIAカンパニーで書類整理のお手伝い。
まとめた書類を整えながら、電話の応対を終えたグランマに声を掛ける。
「お疲れ様、。貴方に手伝ってもらって、とっても助かってるわ」
グランマの言葉に、彼はとても嬉しそうに笑う。
その笑顔は、まるで母親に誉められた子供のように誇らしげだ。
「そろそろ晩御飯の用意してもいいですか?」
「お願いしていいかしら?そろそろあの子達も帰ってくるでしょうし」
「はい」
青年は笑顔で二階へあがっていった。

「ぷいにゅー」
「ただいま帰りました」
ARIAカンパニーへ三艘のゴンドラが戻ってくるのを、グランマと並んで出迎える。
「お帰りなさい」
「今日も一日お疲れ様。ご飯の用意が出来てるよ」
エプロン姿の彼に、三人は顔を見合わせた。
「もしかして、が作ったのか?」
「ええ。今日は特製ライスコロッケです」
「とっても美味しそうよ」
晃の言葉に答える彼は自信満々で、グランマも笑って頷いた。

「これ、本当にが?」
アリシアは目の前に並べられた料理に、思わず聞いていた。
「ええ。自分が食べたいと思ったものを作っていたら、結構腕が上がって。やっぱり、食べるなら美味しいものがいいじゃないですか」
料理を並べ終えたも椅子に座って食事が始まる。
「この間、作ってくれたお昼ご飯、とても美味しかったのよ。それで今日は晩御飯をお願いしたの」
グランマが口に運んでいるコロッケは綺麗な狐色で、お店で売られているものと比べても遜色ない。
「……美味しい」
気付けば、アテナのお皿は半分が空になっている。
「どういたしまして」
彼女に笑顔で答えて、彼はグランマへ視線を移した。
「グランマ、誰かに食べてもらえるって本当に嬉しいですね」
「そうでしょう?のご飯は美味しいんですもの。是非、皆に食べてもらいたかったの」
グランマはに笑顔を返す。
「また作ってもいいですか?」
「他にも出来るのか?」
「一応。ただ、味の保障はあんまり出来ませんけど」
青年は肩をすくめる。
「どうして…?こんなに、美味しいのに」
アリシアは不思議そうに首を傾げた。
「食べてくれる人がいなかったんですよ。家の他の人たちは、母親の作ったものを食べてましたから」
どうして、この青年はこんなに淡々と話せるのだろう。
それは、暗に『自分は食べられなかった』と言っているのに。
「これからがどんな料理を作ってくれるか楽しみね」
そう言って微笑んだのは、グランマだった。
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
は照れくさそうに微笑を返す。
「今度、ピクニック行く時は弁当作る係な」
晃がの鼻先に指を突きつけた。
「あらあら、それは楽しそうね」
アリシアはカレンダーを見て、次の休みはいつだったかしらと考えた。
「……鶏のトマト煮を希望」
アテナも自分の食べたいものをリクエストしておくのを忘れない。
そんな優しさに満ちた三者三様の言葉に、はもう一度照れくさそうに笑った。

« | ARIA. | »

評価

1 Star2 Stars3 Stars4 Stars5 Stars (1 投票, 平均点: 5.00)
読み込み中...

後書&コメント

No comments yet.

Leave a comment

Posted: 2009.01.03 ARIA.. / PageTOP