その日、青年は朝からARIAカンパニーの台所を借りて、せっせとお弁当を作っていた。
「えっと、これで全部かな……?」
「朝からお疲れ様、」
後の作業を思い出していたは、背後からかけられた声に振り返る。そこには、この上に暮らす女性が立っていて、彼は微笑みと共に朝の挨拶を告げた。
「ああ、おはようございます。アリシア」
アリシアは部屋に充満した珈琲の香りに頬を緩める。
「いい香り。一杯いただいてもいい?」
「勿論」
「カフェオレにしてもらってもいいかしら?」
「お任せください、お嬢様」
彼は笑って、アリシアのお気に入りのマグカップを取り出した。
「今日はすみません。朝からお邪魔してしまって…」
はカフェオレをアリシアに手渡しながら、苦笑いを見せた。
「あらあら。頼んだのは、私たちですもの。台所を貸すくらい当然よ」
アリシアはカフェオレに口をつけて、ふんわりと微笑む。
「何か手伝うことはあるかしら?」
「いえ、先ほど終わりました。もしよろしければ、朝食をご一緒していただけませんか?」
微笑みと共に告げられた言葉に、アリシアはちょっと考えた。
彼がここへ来て結構な日数が経っていると思うのだけれど、彼はいつも彼女達にお伺いをたてるのだ。
「あらあら、は一緒にいるのに、私とは別に朝ご飯にしたいの?」
「え? あの、その……出来れば一緒に」
うろたえるように、照れくさそうに告げる彼を、アリシアはまっすぐに見つめる。
「変な遠慮はしないでね。私はとご飯を食べるの、大好きよ」
はちょっと驚いたように目を丸くした後、幸せな、照れくさそうな、子供みたいな、そんな複雑な笑顔を見せた。
「ありがとう、アリシア」
そんな笑顔と共にお礼を言われて、アリシアは思わず頬を染める。完全な不意打ちだった。
「今、朝ご飯を持ってきますね」
アリシアが真っ赤になっている事に気付かず、は用意してある朝食を取りに戻ろうとする。
「ぷいにゅ~!」
いつの間にか起き出していたアリア社長が、朝ご飯の一言で青年へと飛びついた。
「もちろん、アリア社長も一緒にね」
朝ご飯を食べ終えてしばらくすれば、グランマがやってきて。
「アリシアー、ー」
外から彼らを呼ぶ声が聞こえてくる。
アリシアはアリア社長を抱き上げて。
は特製メニューを詰め込んだバスケットを手にとって。
「いってきます」
「はい。気をつけて行ってらっしゃい」
さあ、今日はピクニック日和―――