全力で神様を呪え。[廿]

反董卓連合が解散して数日。
会議に待ちに待っていた報告がもたらされた。
「呂布がみつかった?」
「あの戦いの後、南方の小さな城に落ち延び、そこの拠点を構えることにしたようです」
卓上に広げられた地図に桂花が示した場所は、ここから南西にある小さな城だった。
周りに大きな勢力はなく、ほとんど無法地帯のような場所だ。
「なるほど。秋蘭、呂布が逃亡した時、何名か武将が同行しているわね」
「はい、陳宮と華雄が行動を共にしているという報告が」
秋蘭が華琳に答えた後、は軽く手を上げた。
「ちょっと迎えに行ってくる。俺一人だと城を出る前に殺されそうなので、誰か付いて来てくれると助かるな」
一言目で、この場に居る全員に軽く睨まれたは、苦笑して肩をすくめる。
「いつもなら凪に頼むのだけれど、今回は霞以上の適任はいないわね。霞、これをお願い。無茶しそうになったら、気絶させてもいいから確実に持ち帰りなさい」
「これって……俺は物扱いかよ……」
華琳に指差され、は肩を落とした。
「任しとき。付き合いはまだ短いが、あんたらが不安がるのがようわかったからな」
ヘコんでる当人を他所に、霞は華琳の命令を笑顔で請け負った。
「では、呂布はに任せるわ。他には?」
「はっ、先日の袁紹と公孫賛の争いですが、予想通り袁紹が勝ちました。公孫賛は徐州の劉備の所に落ち延びた様です」
反董卓連合で功績のあった諸侯には、漢王朝から官位などの褒賞が与えられている。
その中で、劉備は平原郡から徐州に領土を拝領していた。ちなみに華琳もいくらかの領土を貰って支配域を拡大している。
「青州や并州にも勢力を伸ばし、河北四州はほぼ袁紹の勢力下に入っています。北はこれ以上進めませんので、後は南に下るだけかと」
河北四州のすぐ南が海沿いの徐州、そこから内陸部が華琳の領地だ。その更に南にあるのが、袁術の本拠地揚州だ。
「次に狙われるのは劉備か?」
「麗羽は派手好きでね。大きな宝箱と小さな宝箱を選ぶように言われたら、迷わず大きな宝箱を選ぶ相手よ」
「領土の大きな我々が狙われるという事ですか?」
華琳の例え話を正しく理解した流琉の頭をは優しく撫でる。兄と慕う青年に頭を撫でられて、流琉は嬉しそうだ。
「そういう事。国境の各城には、万全の警戒であたるよう通達を。それから河南の袁術の動きは?」
「特に大きな動きは見受けられません。我々と劉備の国境を偵察する兵は散見されますが、その程度です」
桂花の報告に、華琳は眉を寄せた。
「あれも相当な俗物だけれど、動かないというのも気味が悪いわね。警戒を怠らないようにしなさい」
「はっ、そちらにも既に指示は出しております」
「桂花も大変だな」
「これが華琳様から与えられた私の仕事ですもの。名誉に思いこそすれ、大変に思ったことはないわ」
桂花の仕事ぶりに感心するに、軍師様は胸を張って答えた。
「そうね。手の空いている誰かに手伝わせたいところだけれど、秋蘭とには色々任せているから無理として……」
「使えそうなのがいませんから、いりません」
ぐるりと周囲を見回して、桂花は首を振った。
「なんだとう!」
「まあ、うちらは所詮殴り合い担当やからなぁ」
その言葉に激昂する春蘭とは対照的に、霞は苦笑しながらも頷いている。
「なら、桂花には悪いけれど、もう少し情報を集めておいて。他の皆は、いつ異変が起きてもいいように準備を怠らないこと。いいわね?」
華琳の言葉に、全員が大きく頷き、会議はお開きになった。
文官や武官達が退室していく中、は霞とこの後のことについて打ち合わせる。
「異変が起きるまでに戻っていたい。霞、悪いけど今日中に出発できるか?」
地図を覗き込みながら、目的地と現在位置の距離を考える。
「うちはかまへん。でも、うちの速さについて来れるんか?」
「無茶言うな。俺を殺す気か?」
神速の張遼に馬で勝てるなんて思ってはいない。
加速と治癒の呪文を併用すれば何とかなるだろうか。

「ん?どうした、華琳」
桂花との打ち合わせが終わったらしい王様が、近くへ歩み寄ってきていた。
「すぐに出るの?」
「ああ、この後凪達に留守中の事を頼んだら、すぐにでも」
「そう。何が有るかわからないわ。可能な限り早く戻ってきなさい。そう言えば……はどっちを選ぶの?」
華琳は思い出したように、の顔を見つめた。
「宝箱の話か?外見や大きさだけで決める気にはなれないな。問題は中身だろ?そういう華琳は?」
「決まっているじゃない。両方を開けて、中の良いところを全部よ」
華琳の答えに、は小さく噴出した。
「実に華琳らしい答えだな。……箱を選ぶっていう前提条件を蹴散らすとは」
「言っていなさい」
楽しそうに笑うの脇腹に、華琳は軽く一撃を食らわせる。
そんな彼女にと霞は揃って挨拶をすると、戦いに間に合わせるべく用意を開始した。

「この辺りに居るって聞いたんだけど……でかいな」
中庭を進んでいた青年の目の前に、突然巨大なクレーンのような仕掛けが現れる。
「あ、隊長なら分かるかもなの!」
「おー、師匠やん。どしたん?」
その機械の側にいた沙和が、やってきた青年に気づいて声を掛けてきた。
彼女の側には、恐らくこの巨大な道具の設計者であろう真桜がいる。凪も一緒だ。
「いや、これから出かけるから一声掛けておこうと思ってな」
「隊長ー!真桜ちゃんがひどいのー!」
「何かしたのか?」
沙和の言葉に真桜に尋ねるが、彼女は軽く首を振る。
「別に何もしてへんよ」
「凪の意見は?」
これは埒が明かんと、第三者の意見を聞いてみることにした。
「ちょっ!なんでウチやのうて凪に聞くん!」
「いえ、特に酷い事は何も……」
「えー!凪ちゃんもひどいって言ってたのー!」
「酷くはあるが、理由も分かると言ったんだ」
「……結局、何の話なんだ?」
三人寄ると姦しいとはよく言ったものだ。
「真桜ちゃん、これが何か教えてくれないのー」
「ああ、なるほど。……秘密兵器ということか。知っているのは、華琳と桂花くらいか?」
沙和が後ろの大掛かりな仕掛けを指差したので、大体の理由が理解できた。出なければ、真桜が黙っている理由がわからない。
「さすが、師匠……。当たりや」
「まだ大きくなるよな、これ。組立式じゃないみたいだがいいのか?」
「いいのよ。私の指示で作らせているのだから」
青年の問いかけに答えたのは、桂花だった。どうやら、作業の進み具合を確認に来たらしい。
「桂花の指示……。華琳は設計図を見たのか?」
はぐるりと仕掛けの周りを歩いて、桂花に尋ねた。
「いいえ。それがどうかしたの?」
「そうか。真桜、さっきの質問に答えてくれ。組立式じゃない理由」
「強度とか威力を考えたら、一体式のがええやろ?」
「何?そのくらいの事もわからないの?弟子に劣る師匠ってのも居るものなのね」
何を言っているのかと首を傾げる真桜と、ここぞとばかりに青年をこき下ろす桂花に、は派手にため息を吐いてみせる。
「……俺としては華琳が設計図を見ていない事実に感謝だな。華琳がこれを見過ごしてたら、さすがに泣いた」
「なんや、ウチの最高傑作に文句でもあるんか?」
「何を言ってるの?やっぱり、馬鹿じゃない?」
「あのな、強度とか威力以前の問題があるだろ?……門とこいつの大きさを比較して、導き出せる結論は?」
大きな木の骨組みを軽く叩いて、は二人をじっと見つめた。
「……あ」
「考えてなかったのか……。真桜、すぐに設計図を修正。桂花は……反省しているみたいだからいいや」
慌てて設計図を広げて考え始める真桜と、顔を真っ赤にしている桂花に、青年は苦笑してしまう。
「凪、沙和、俺はこれから恋を迎えに行ってくるから、後は頼む。道中の護衛は霞がしてくれることになった。いつもなら凪に頼むけれど、今回は事情が事情だからな」
「はっ、承知いたしました。道中、お気をつけて」
「隊長、気をつけてなのー」
忙しそうな二人はそのままに、凪と沙和に事情を告げれば、彼女たちは笑顔で見送ってくれた。

「あの城だな」
機動力を最優先という建前で、護衛の兵士が付いて来ると面倒くさいという本音を押し隠して馬を走らせて、漸くと霞は目的地を見下ろす高台にやってきていた。
「……信じられん。けど、間違いないやろ。って、待たんかい」
食事と睡眠以外は走り続けた結果だったが、想像よりもかなり早い到着に霞は驚きを隠せない。
「どうやって中に入るつもりや?」
さっさと丘を下り始めた青年に、追いつきながら霞は声を掛ける。
「こういう時の相場は決まっている。正面突破さ。それに恋なら、声を掛ければ開けてくれそうだと思わないか?」
「……否定できへん」
笑いながら話す青年の言葉に、霞は恋のなつき度合いを思いだし苦笑するしかなかった。

「お~~い」
矢が届くか届かないかのぎりぎりの場所から城門の中へ呼びかけると、城壁の上にひょいと赤いものが現れたと思ったら、すぐに門が開いてそれが駆け寄ってきた。
「元気そうで何より」
あれだけの距離を走ってきたのに息ひとつ乱していない恋の頭を、青年は笑いながら撫でる。
も、元気そう」
彼の手を嬉しそうに笑いながら、恋は受け入れていた。あまりに強すぎる彼女に、こんな事をしてくれる人は月以来だったから。
「ちんきゅーキーック!」
「ははは。まだまだ!」
そんな二人の間に飛び込んできたのは、またもや必殺キックを放ってきた小さな軍師だった。
「音々も元気そうやな」
軍師を助けながら、霞は苦笑した。
「相変わらずで、安心した。そんな君達に提案があって来たんだ。俺と一緒に来ないか?」
「はぁ!?」
改めて蹴りを放とうとしていた陳宮は、目の前の青年を見上げて呆れた声をだした。
「ここにいても補給の当てもないだろ?うちには、月と詠も霞もいる。悪い提案ではないと思うけど?」
「あの子達もいい?」
恋の指差した先には一部隊が編成できそうな動物達がいた。
「ああ、かまわない。だが、うちに来る以上働いてもらうことになるかもしれないぞ?警備の手伝いとか、倉庫のネズミ取りとか」
「ん。を信じる」
「よし。じゃあ、城内に入って兵士さんたちとも話ししようか。田舎に帰りたい人もいるだろうし」
馬を引いて歩きながら、青年と三人は城へと向かう。城の中では結構な視線に晒されたが、表面上は飄々と青年は兵士たちに話を始めた。
「あー、では説明を始める」
広場に集めた兵士たちの数は、ざっと見積もって二千というところだろうか。
「君たちには曹操軍の兵士となるか、このまま郷里に帰るか。この二つの選択肢がある」
ざわついていた元董卓兵の間に、彼の言葉が広がって行く。
「郷里に帰りたい者には、曹孟徳からの見舞金が支払われる。見舞金を受け取って、帰路に着いてくれ」
その言葉にざわめきが広がるが、青年が言葉を続けると直ぐに静かになる。
「兵士となる事を希望する者には、軍から支度金が支給される。支度金を受け取り、顔を見せたい者への挨拶を済ませた後、誇りを持って我が軍へ参加してほしい」
しんと静まり返った広場に、彼の声は染み渡るように伝わっていく。
「だから、まずは全員で城まで来てもらいたい。そこで我が軍の規律を知った上で、どうするか君達自身が決めてくれ」
それは今までの待遇からは考えられない厚遇だった。
「……それは本当なのか?城に連れて行かれて、全員首を刎ねられるなんて事はないんだろうな?」
やはりにわかには信じられないらしい。
「曹孟徳に二言はない。それに、このの名において約束しよう。俺の店を売り払っても、君達全員分の見舞金もしくは支度金は用意する」
だからこそ、青年も真摯に答える。
この世界の人間の命はとても安い。だからといって、無駄にする事をは許容できなかった。
なにぶん、金ならある。錬金術士を舐めるなと言わせて貰おう。
ならば、金髪の銀河帝国元帥が行ったように、投降してきた兵士達を厚遇することで味方に引き込むことは当然の選択だった。
「うちも保証したる。降将のうちをちっとも差別しようともせん。あんたらの事も本気で考えとるよ、このって男は」
「恋も、についてゆく」
張遼と呂布が青年の隣に立ったことも、彼らの説得に力を貸した。
「……わかった。俺は将軍達が信じるあんたを信じよう」
「その信頼に必ず応えよう」
「よっしゃ、明日の朝には出発するで!各自荷物まとめとき!……そう言えば、華雄は?」
「ご飯、採りにいった」
「なるほど。では、帰ってきたら説明するか」
しばらくして、大猪を担いで帰ってきた華雄将軍への説得は、主にが行った。
伊達に春蘭の弟子をやっている訳ではないのだ。持ち上げておいて、必要なところには、きちんと釘を差す。青年の前に華雄は、いつの間にか正座させられた。
「将軍はとりあえずこのまま説教な。汜水関の戦いの時から、ずっと言ってやりたいことがあったんだ。霞はどうする?」
「うちもええんか?」
「勿論だ」
霞とは一度夜を徹して語り明かしたいと思っていたりする青年だった。主に猪武者について。
「恋は他の人と協力してご飯作りな。せっかくだ。美味しくいただこう」
「ん」
「私が狩ってきたのに……」
猪を担いで調理場へ向かう恋に、華雄は恨めしそうな視線を向けた。
「それに免じて食事時間までにしてあげますよ。本当なら一晩は説教したい。そちらがご希望で?」
「うう……食事までで頼む」
真っ黒な笑顔の青年に、華雄は小さくうなだれた……

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後書&コメント

  1. 恋と音々と華雄の三人&二千人の兵士GET!
    さて、次回は本格的に戦乱に突入&全員集合!?
    とりあえず全員集合したら、拠点話も書きたいなー。

    コメント by くろすけ。 — 2011/05/14 @ 21:35

  2. 前回の更新から、たったの二日、だと……?馬鹿な、くろすけさんのシナリオブック(脳内)には、一体どれだけの貯蔵がなされているんだ……是非とも見習わなければ!
    いやぁ、それにしても恋はかあいいなぁ~。真田君に餌付けされたとはいえ、あそこまですんなり信用するのは主人公の人誑しの賜物かな?華雄さんも、真田君と霞の説教で、少しは改善されるといいですね。

    そんなことより、華琳とのいちゃラブはないのかな?かな?(オイ

    コメント by 近衛丸 — 2011/05/14 @ 22:56

  3. なんつうか、戦力としては申し分無い状態ですね。
    恋の部隊(今回獲得した兵士たち)をそのまま諒の親衛隊にするのもいいと思いますよ。
    ある種の過剰防衛ですけどね(苦笑)

    これで、劉備軍は戦力低下、ついでに原作でのわざと手薄にした戦いも回避かな?
    恋の活躍は大きいですからね。

    コメント by エクシア — 2011/05/15 @ 03:27

  4. > 近衛丸様
    今回の話は、もうかなりの部分が出来ていた状態でのクラッシュだったので、脳内に残っている部分からの再構築は結構早かったのです。
    恋はむしろ野生の勘?この人は信用できる。勿論、美味しいご飯をくれる人ってのもあるでしょうけど(笑)
    華琳とは、恐らく今までと凄い変化が有るわけじゃないんですよね、きっと。まあ、つまり今まで「どうしてくっ付いてないんだ」が、くっ付いた程度なので。
    でも、いちゃいちゃ解禁されたので、その辺りも書いていきたいです!

    > エクシア様
    戦力は既に三国トップでしょうね。三姉妹による兵士の補充もありますしね。
    元々史実でも、三国っていっても、魏に蜀と呉が引っ付いてるっていう程度というイメージが拭えないですしね。
    恋の部隊をそのまま~っていうのは、私も考えたんですが、古参の人間が許さないだろうなーと思ったので、その案は残念なことに消えてなくなりました。
    恋、1人で三万相手に出来るもんなー。でも、あの話はとても重要なので、ちょっと展開を考え中です。

    コメント by くろすけ。 — 2011/05/15 @ 09:29

  5. 真田動物園による諜報活動が!!
    戦力が充実してくるのは良いんですが、管理・運用する担当が…
    なんでココは、一国の主たる諒君の店から千里眼で大抜擢して欲しいですねぇ~
    もちろんツンデレ眼鏡を省いてですよ

    コメント by 蒼空 — 2011/05/16 @ 00:37

  6. >蒼空様
    犬は番犬。猫はねずみ取り。諜報活動は無理かと(笑)
    戦力の充実と言っても、投降兵ですからねー。主人公にその気がなくても、おそらく桂花辺りが拡散させて各部隊に入れているんだろうなーと想像しています。
    抜擢も何も主人公の店にそんな人は居ない気が……?まあ、次の話辺りで、軍師が二人入ってくるので、管理運用はとくに問題ないと思いますよ。

    コメント by くろすけ。 — 2011/05/16 @ 22:53

  7. 徐晃とか入ってきたら一気に充実しますね。これ。

    対袁紹終わったあたりでいれたら面白いことになりそうですよ?

    諒とその他の武将たちともイチャイチャしてほしいかな?

    (サイトはつい最近造ったばかりですので、あんまり作品はないです。内容はお楽しみに、です。できたら相互リンクしてくれるとうれしいです)

    コメント by 瑪瑙 — 2011/06/05 @ 22:26

  8. >瑪瑙様
    コメントありがとうございます。
    残念ながら、オリジナルの武将を登場させる能力が私にないのです。本当は出してあげたいんですけどね。曹仁さんとか。四天王とか格好いいですよねー。
    そのうち、いちゃついてくれるといいんですが、その辺りは私にもわかりません(笑)
    リンクに関してですが、張っていただくのは自由なんですが、こちらから張るということはサーチ系サイト様以外は行っておりません。何故ならば、以前運営していたサイトでご迷惑をおかけした事がありまして……。本当に申し訳ありませんが、ご容赦くださいませ。
    本当、大変だったんです……。

    コメント by くろすけ。 — 2011/06/05 @ 22:53

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Posted: 2011.05.14 真・恋姫†無双. / PageTOP