全力で神様を呪え。[廿壱-弐]

その日は朝から休日のはずだった。
それなのに、どうしてこうなったと、はお茶を片手に首を傾げる。
「で、ここはどう考えますか?」
「風はここはこうした方がいいと思うのですよー。お兄さんの意見を聞きたいのです」
「……俺って、休みだったよな」
「私に聞かないでよ。で、こっちの税収はこんな感じよ」
今日も東屋にて自堕落な生活をしようと思っていたは、軍師三人に囲まれて額を押えた。
「何?今日は休みって言ってなかった?」
「おお。ちょうどいいところへ」
そこに顔を出した月と詠には目を輝かせた。
「どうかしましたか?」
「月、工房からお茶と何か摘めるもの持ってきて。湯飲みは少し多めに。詠は、ここで俺と一緒に資料と睨めっこ」
「結局、仕事?」
呆れたように言いながらも、詠は置かれた資料に目を通していく。
「いや、資料を読んで参考意見を述べる程度なら、茶飲み話で終わらせられるだろ?」
結局、話を聞きつけたらしい面々がぞろぞろと顔を出し、最後には華琳までやってきて、東屋は臨時の会議場になってしまった。

午後、ずいぶんと日が傾く頃になって、軍師達が持ってきていた書簡を片付け始める。
「これで全部?」
「ええ。お陰で捗りました」
稟は最後の書簡をまとめながら、ほっと一息吐いた。
「それは良かった。華琳、代休って申請できる?」
山のような書簡を兵士達に運ばせている風と桂花の背中を見ながら、はいつの間にか隣に座っていた王様に話しかける。
「茶飲み話の延長でしょう?休みなのに仕事をしてたなんて、はそんなに怒られたいのかしら」
「くっ……」
ぐうの音も出ないとは、まさにこの事である。
「いつか、絶対勝ってやる」
「楽しみにしてるわ」
上から目線の顔も可愛いとは反則だろと思いつつ、は苦りきった表情でお茶を飲み干した。
「ふふふ。さんも華琳様には敵わないんですね」
「月、そんな事はないぞ?五回に一回くらいは反撃している」
空になった茶碗に新しいお茶を入れてもらいつつ、は煎餅に手を伸ばす。
この煎餅、最近甘くないお茶請けとして人気が出てきていた。原料も米と醤油だけなので、比較的安価で出来るし、お茶請け以外にも保存食としての側面もある。砕いてお湯を注げは、簡易のお粥にもなるので行軍食としての利用も検討中だ。
「その反撃も二回に一回は叩き落してるわね」
「……まあ、そういう訳で敵わない訳じゃないぞ?本当だぞ?」
そんな二人のやり取りを月は楽しそうに笑って見つめた。
「お、ー。茶飲み話終わったなら、軽く身体動かさへん?」
「俺を殺す気か?」
少し離れた場所で鍛錬をしていた霞と凪が、期待に満ちた目でこちらを見つめている。
「ちょっとだけやって。そんな酷い事せえへんよ」
「お前らのちょっとは、俺には十分酷い」
隙あらば手合わせを強請ってくる武官達に、は渋面を隠さない。
「えー、凪からも頼んだって」
「え?あ、その……出来れば、一度お手合わせをお願いしたいと……で、出来ればでいいんですけど」
「……凪一人十五分。それ以上は、本気で死ぬ」
申し訳無さそうに頼んでくる凪に、反則だと内心叫びながらも、黒髪の青年はぎりぎりの譲歩を行う。
「ほ、本当ですかっ!?」
「うちは!?」
「霞は酒を勝手に蔵から持ち出さなくなったら、相手してもいい」
「そんな事をしてたの?」
多少のことでは怒ったりしない華琳も、さすがに眉を寄せる。
「金は給料から引いてるからいいんだけどさ。蔵の警備担当から泣きつかれた。ちなみに、大吟醸の試作品も、この間全部やられたから作り直し」
「霞。五日の禁酒を命じるわ。城はもちろん、城下で飲むのも禁止。破ったら、期限が延びるから注意しなさい」
そう言って命じる華琳は、実に綺麗な笑顔であるが目はマジだ。
勿論、華琳自身が楽しみだと思っていた部分も多いだろうが、が自分の国の酒なのだと嬉しそうに瓶を撫でていたという事も、怒りを上乗せしているだろう。
お陰で命じられている霞の方は涙目である。
「まあ、もう次の奴の準備は終わったからな。最後の仕上げをするだけだ。霞の禁酒の明ける五日後には、いい具合になってるだろ」
だが、のその言葉に、霞は生気を取り戻し、華琳を始め他の面々はやれやれと言う表情を浮かべた。
千里眼と呼ばれ、敵に恐れられる青年は、身内に認定した人間に対して、実に甘い。
「俺としては、五日後の試飲会よりも、これからの十五分が問題です」
お預けを食らったワンコのように待っている凪に、は苦笑を浮かべながら、湯飲みを置いて立ち上がる。
「凪、今回はあの技は使わないから。その辺りを考慮にいれた手加減をよろしく」
「はい。でも、必要ないと思います。隊長は自分が思っておられるより、お強いですから」
「ははは。おだてても、十五分は伸びないぞ?さて、誰か審判よろしく」
そして、十五分後。
「……本当、ここの人たちの体力って、どうなってんだ?」
が全身で呼吸を繰り返しているのに対して、凪の方はうっすらと額に汗している程度だ。
「やはり隊長は強いですよ。一瞬の動きでは置いていかれる事も度々でしたし」
「凪にそう言ってもらえると嬉しいね。後はやっぱり基礎体力を地味にあげるしかないか」
こちらに来てから鍛え続けたお陰で、かなり引き締まって筋肉もついてきたが、リアルチートとは一緒に出来ない。
「せめてあの技が常時発動出来るようになればな」
武技言語を使うと、未だ反動が身体を襲う。
「あ、あの、出来れば、また手合わせをお願いしたいのですが……」
「そうだな。俺がどのくらい使えるのか、凪が知っていてくれると俺も助かるしな。こちらこそよろしく」
やれやれと一息吐いた時だった。
「明日は恋と」
とことこと歩み寄ってきた天下無双に、は即席麺が出来上がるくらいの時間の間で百面相をした後、彼女の頭に優しく手を乗せた。
「……死ぬ気で頑張ろうじゃないかっ!」
可愛い子に上目遣いされるなんて、男冥利に尽きるというもの。は覚悟を決めた。
「えー、それでうちだけ仲間外れは酷いんちゃうか?~」
「わかったよ。明日、霞も相手をする。いいか、十五分だぞ!?それ以上は、無理だからなっ!?」
魏の千里眼と呼ばれる青年は、なんだかんだ言って身内に甘いのだ―――

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評価

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後書&コメント

  1. 主人公は死ぬ気で頑張る事になりました(笑)
    まあ、ほどほどに皆さん手加減してくれているので、死ぬ事はないですけどねー。
    さて、次回は、まだまだ続きます拠点編と行きたいところですが、そろそろ袁家に引導を渡して、海を手に入れたいとも思っています。ビバ、塩&海産物。主人公は涙を流して喜びます。
    と、その前に、甘ちゃん夢想家に一言ガツンと言ってやりたい。そんな感じで、まて次号!
    ……でも、予定は未定です(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/09/11 @ 01:29

  2. 更新乙ですー

     茶飲み話が政治の話とかお茶が不味くなりそうだが文句を言わない諒さん、最終的に小会議にまでなってるなら華琳も代休認めてあげればいいのにww諒さんのことだから休みついでに実験がてら新作料理とか作ってると思うんだけどなぁww

     すっかり凪に弱くなってますねぇ、やはり素直な子には弱いのかwwしかし恋や霧の相手より加減ができなさそうな春蘭の相手のほうが危険な気がするww

     ついに番外ではなく本編で劉備と論じる機会ができるのかしら~?前のあれは顔合わせって以前のやり取りだったしなぁ

    コメント by ヨッシー喜三郎 — 2011/09/11 @ 01:51

  3. あぁ、そろそろとんずらの為にニート製造国の奴等が魏領を通過するんだっけ?
    ついでに星を引き込みたいところだなぁ。関羽より現実を見てる、ニート国の数少ない現実主義の常識人だからなぁ。
    流石に熟女コンビは無理がありますからね。

    霞は酒好きなのは知ってますが、盗むのはやめた方がいいですよね。
    諒の作る現代物が大好きな覇王様の逆鱗に触れるだけですからね。
    買いだめして置いとけば更に味がよくなる酒もあるんですがね。
    霞は我慢できないんでしょうね。

    そろそろ塩&海産物ですか。日本食が増えそうですね。
    いずれ、居酒屋に刺身が出てくるんでしょうね。
    人気が出れば、釣り場があっても面白いかもしれませんね。
    皆で釣りをする→殺気全開のため釣れない春蘭→まともに釣れてる諒に八つ当たりが浮かびましたよ(笑)
    ひっそりと恋が大量に釣っていそうですね。

    やべ、作者じゃないのにネタが止まらない気がしてきた。
    まあ、拠点シナリオしか出ませんがね。

    テイルズオブエクシリアを発売日に買いました。
    どんどん進めたら、いつの間にか第三部になってましたよ。
    まあ、楽しいからいいんですがね。

    コメント by エクシア — 2011/09/11 @ 04:06

  4. >ヨッシー喜三郎様
    いつもありがとうございます。
    新作料理というか開発というか、そういう話もあります。そっちが先になるか、桃香に黒い笑顔を振りまくのが先か、微妙なところですなー。
    そうですね。死亡率が一番高いのが、春蘭ですね。後は皆、手加減してくれるいい子たちですから(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/09/11 @ 07:48

  5. >エクシア様
    いつもありがとうございます。
    熟女コンビはこの時点では、まだ南の劉表?とかのとこですね。確か。記憶が定かでないんで、すみません。星は引き入れたいけど、ちょっとまだそこまで進んでないので、予定は未定です。
    霞は別に盗んでいる訳じゃないんですよ。ツケで飲んでる感じ?代金は引くぞと言ってあるので。
    ただ日本酒は気になって仕方なくて、ちょっとのつもりが……というやつですね。これだから酒飲みはと、主人公は苦笑い程度なんですけど、覇王様は怒るよなーと。
    食べ物関係の話は、今後もちょろちょろ書く予定です。元々は、魔法遣いだけど、魔法を使わない食料品関係チート話のつもりだったので。つまり、あれです。私が行ったらどうするかなーと。錬金術とかで時短はしてますが、基本出来ないことはしていない……はず(笑)

    コメント by くろすけ。 — 2011/09/11 @ 08:02

  6. 覇王様と諒君が大吟醸で”二人っきり”で月見酒を妄想しちゃいました。
    で酔いの勢いを利用した覇王様の潤んだ瞳で見つめられた諒君の理性部隊が本能部隊に辛くも勝利した雰囲気も一緒に妄想しちゃいました。
    こんな妄想が一瞬で展開できるなんて、このサイトの覇王様は可愛いすぎです。

    しっかし忠犬凪のくぅ~んは反則と思います。
    あの諒君すら白旗降参なんで、まさに最終兵器!
    星の引き抜きと個人的には雛”も”引き抜いて諒君に休日を!

    コメント by 蒼空 — 2011/09/14 @ 23:04

  7. >蒼空様
    コメントありがとうございます。
    うちの覇王様は凛々しくて、可愛らしいをモットーにお届けしておりますので、気に入っていただけて何よりです。
    うちの主人公は基本身内に甘いですからねー。というか、考えてみてくださいよ。あんな可愛い子達に上目遣いでお願いですよ?断ったら、男が廃るというものでしょう。
    凪と恋は男主を守る!と心に決めているので、とても仲良しさんです。

    コメント by くろすけ。 — 2011/09/15 @ 00:40

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Posted: 2011.09.11 真・恋姫†無双. / PageTOP