「あの人は何をしているのか」
という疑問は、黒髪の青年に対しては無意味に近いと、この城にいる者達は思っている。
今日も幸せそうな顔で工房前で何かを作り始めた彼の様子を、生暖かい目で見守っていた。
「今日は何をしているのだ?」
「秋蘭。休み時間か? 天気がいいから、外でしかできない作業をしようと思って」
彼がごそごそと工房から持ち出してきたのは、廃油を始め、動物の脂身などありとあらゆる油脂成分だ。
「揚げ物でもするのか?」
「……どうして、俺が何かを始めると食い物と結びつけるんだ?」
「日頃の行いというものだな」
「……理不尽さを感じる。俺は内政にも頑張ってるのに」
実際、彼の功績は幅広い。何より公衆衛生の概念を徹底させたお陰で、少なくともこの許都では病人の数が減っている。
「で、本当のところは何を作るんだ?」
その事実を知っている秋蘭は笑って、彼の手にある数枚の紙を覗き込んだ。
「石鹸を作り方をまとめようと思って。とりあえず油の種類別に色々実験しようかと」
「それで外で作業なんだな」
「さすがにこの匂いが篭るのは困る」
廃油は色々混じっている上、酸化が進んでいるので、炭やお茶ガラを炒った物を入れたりして匂いを抑えたりしてみた。
が、動物性の脂を綺麗にする作業中は、どうしても匂いが出る。
「後で、こっちも匂いをとる方法を考えないと」
なにぶん、彼が『練成』して作り出している石鹸は、最上級品と言ってもいい。
「が作ればいいだろう」
「一人の生産量は、たかが知れてるからな。働きすぎ防止のために、俺は断固として、機械化を希望する!」
青い空に向かって決意表明をする青年に、秋蘭はこっそりため息を吐いた。
その日からしばらく晴天が続いたので、は工房前で理科の実験を繰り返していた。
「んー。大体出来上がったけど、手がかぴかぴする」
蜜蝋クリームを手に伸ばしながら、一休憩と隣の東屋でゴロリと横になった。
これまでの実験結果をまとめた資料を読み返す。
「自分の能力の反則度合いを思い知らされるなぁ」
油の種類よりも、アルカリ溶液の濃度が問題だった。薄くても濃くてもいい石鹸にならない。
灰の種類にも違うようなので、一番手に入る木灰を使っていた。
アルカリ溶液の濃さと油の比率は、これにしようという数字が出来上がっている。
「休憩中ですかー?」
「だとしても、少々だらしないのでは……」
東屋で畳に突っ伏して考え込んでいると、風と稟がやってきたらしい。
「ちょっと考えすぎで知恵熱が出そうなんで、大目に見て」
「石鹸の大量生産計画ですか。首尾はどうですか?」
風は靴を脱いで、勝手知ったるとばかりに畳の上に上がりこむと、書き散らされた紙を集めだした。
「んー。まあまあかな。大体のところは出来たから、まとめるのはこれからかな。廃油や灰の回収方法とかも検討中」
は廃品回収的なものを考えていた。
それにあわせて色々考えている事もある。肥料とか硝石とか、通常ゴミにされるものから出来るものが意外とある。
「色々忙しくなるなぁ」
「お休みを貰った代償なのですよー」
「ですね。華琳様のために、身を粉にして働いてください」
「ここは鬼の国か」
よいしょと身体を起こし立ち上がり、はぼんやりと空を見上げる。
「たまに逃げ出したくなるんだが……」
「大陸を股に駆けた鬼ごっこですかー。豪快ですねー」
「そんな無駄な事をするくらいなら、予算は別の事に使ってください。夏候惇将軍に執拗に追いかけられたいというのなら、止めはしませんが」
「誰か、俺に優しさを」
がっくりと肩を落す黒衣の青年の大きな背中を、ぽむと二つの手が優しく叩いた。
「諦めてください」
「……しかたない。住人の一人として、微力を尽くして住環境の整備をいたしますか」
「そのために、新市街地を作っているのです」
「住民の皆も楽しみにしているようですよ。ふふ、上からのぞける展望台は、連日の人だかりです」
その後、許都に端を発する『廃品回収』は立派な公共事業として、大陸全土へと広まっていくことになる。
今年の猛暑も半端無かったです。
軽い熱中症になったりとちょっと大変でしたが、やっと少し進みました。
現在は、内政作業中ー。
とりあえず、新市街地を建設しながら、石鹸研究してみました。
皆様、まだ暑い日が続きそうですが、水分補給は小まめにどうぞ。
私は先生に「吐いても、飲めっ!」と指示されました。
風邪引いて吐いてたんですよねー、やれやれです。
コメント by くろすけ。 — 2013/08/29 @ 17:14
熱中症は結構辛いですからねぇ。気を付けてくださいね。
俺も昔熱中症で目の前が真っ白になったことがありますよ。
まあ、今年TDLに行ったときもなりましたがね(苦笑) 昼飯が全然喉を通らなかったですが、流し込んでましたな。
汗で身体が冷えてたので、温かい飲み物が効果ありましたね。
内政に力を入れてますか。新市街地は楽しみですね。
何気に展望台があることに驚きました。どこまで現代に近づくかな?
しっかり製造法があるってのが大きいですね。チート頼みの超パワーに依存してないのがまた凄い。
コメント by エクシア — 2013/08/30 @ 12:01
くろすけ。さん、ご無沙汰しております。
おおっ、更新されているw
ちょくちょく覗きに来ていた甲斐がありました!
まだまだ残暑が続きそうです。
体調には気を付けてくださいね。
コメント by Hiro — 2013/08/30 @ 20:56
自分自身は、風邪の時は豚の生姜焼き(生姜多め)とベットの横にはスポーツ飲料を完備し、ノンカフェインの栄養度リングでブーストアップで風邪菌との戦いに備えます(笑
今回は石鹸ですか…
コレを発見&固形化した人達には頭が下がります
コメント by 蒼空 — 2013/08/30 @ 22:12
> 皆様
お気遣いありがとうございます。病院に行ったその日に点滴を入れてもらって、無事頭痛と吐き気から開放されました。今後とも頑張って書きますので、また是非お越しください。
> エクシア様
内政編ですが、後一話くらいで、そろそろ西涼に向かいます。
チート頼みは、主人公ロスト=破綻になってしまうので、社会にはあまり普及させてないです。製造法を確立させて、それを普及する手段をとっている模様。
新市街地展望台は、工事の様子を見せて、新しい街が出来るよーというアピールをしています。3階建てくらいのイメージです。
> Hiro 様
更新遅くて申し訳ないです。またお暇な時にでもお越しください。
> 蒼空様
石鹸です。発見は早かったけど、大量生産は意外と後になるという不思議物質。
でも、これがあると、衛生的にレベルがあがるんですよねー。
きっと、今頃真桜に竹&木製ワンプッシュポンプを作らせてると思いますw
コメント by くろすけ。 — 2013/09/04 @ 15:44