没原稿を漁ってきました。諸々です。
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「た、助けてくれ!」
は山賊達の命乞いに耳を貸すことはなかった。
目の前に引きずられてきた男に、は淡々と問いかけた。
「お前はそう言って命乞いをした者を、一人でも助けたか?」
「そ、それは……」
「自分だけは助かりたいなどと、寝言を今更聞かせるんじゃない」
「い、嫌だ!俺には家族が……っ!」
「だから?殺された奴らにも家族がいた。口を塞げ」
「はっ!」
が、泣き叫ぶ連中にすら同情をする自称王様が口を出してきたのには、さすがの青年も呆れてしまった。
「なんとか命を助けてあげられませんか?」
「……諸葛殿?」
目を開けたまま寝言をいう奴の相手なんか出来るかと、隣に控える小さな軍師殿に声を掛けた。
「申し訳ありません……」
彼女としても本意ではないらしい。本当に申し訳ないと、小さな身体を更に縮めている。
他の者も驚きと諦めとが入り混じった表情を見せているという事は、彼女の国ではよくあることなのだろう。
「桃香様、やはりこれはこちらの国の問題です。我々には……」
「でも、命は大事だよ。ちゃんと話せば……」
「命は大事?あいつらが何人の民を殺したか、解って言ってるんだよな?」
まずい。の後ろに控えていた霞と稟は、思わず視線を交わしていた。
「でも、命乞いをしている人を殺すなんて……」
「あいつらが、命乞いをした民を助けたと思っている訳か?村に夜襲を掛けて焼き払ったんだぞ?」
「彼らにだって家族がいるんですよ?」
「その言葉を家族を殺された民に言えるか?俺には到底無理だ。一家全員皆殺しになった家族が多いから、生き残りはそう多くないが……試してみるか?」
の鋭い視線と言葉に、劉備は声を失った。
「さて、この内政干渉に関しては、後日きっちりと話を聞かせてもらう。勿論、代償はでかいぞ?」
「はい……」
青年はもう既に交渉を王としようとは思っていない。
「ええっ!?これは、私が勝手に!」
「そうだ。『王様』がしたことだ。国として責任を取ってもらおう」
この期に及んで未だ王としての自覚が足りないらしい彼女に、は冷たく言い放った。
肩を落として天幕を出て行く劉備を見送り、はがっくりと全身から力を抜く。
「なあ、俺、頑張ったよな……」
「ええ。後の交渉はお任せください」
「よう、頑張った。お疲れやった」
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「様、怪我人の確認終了しました。ただ……」
「どうした?」
言い辛そうにしている軍医に続けるよう促す。
「元々居た怪我人や病人の家族達が、待遇の差に不満があるようでして……」
「……それは劉備軍の問題だ、とは言えないくらいか」
「はっ、手当されている怪我人達も居心地が悪いようでして」
「なるほど。それは困るな。稟の意見は?」
「そうですね。劉備と交渉して、傷病人の世話をこちらで引き取りましょう。多少出費はありますが、利益もあります」
「あいつらお得意の人気取りだな?よし、受け入れ準備を進めてくれ。稟は交渉を頼む」
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住み慣れた土地を捨てて、いつ命を失うかわからない逃避行の中で、恐らくまともな食事など一度もないだろう。そんな彼らが、野営地で作り始めた料理の匂いに誘われても無理はない。
好奇心の強い子供達は、それゆえに恐れを知らず、調理中の場所へと近付いていた。
遠巻きにこちらを伺う彼らの様子を見て、青年としてはどうしたものかと思いながら、かき混ぜている手は止めない。
「どうしますか?殿。このままでは……」
人が集まってくる気配に、稟がやってきた。その後ろには霞が見える。
周囲を取り囲む兵士達も警戒感を強めていた。狙われているのは自分達の食事だし、作っているのは『千里眼』なのだ。
「これ以上、厄介になる前に劉備軍の話のわかる奴を……って、御大自ら来やがった。何考えてるんだか。俺は何も考えてない方に賭ける」
「……、あかん。黒いのがもれとる」
小声とはいえ真っ黒な本音に、霞は苦笑するしかない。
「わかってるよ。大丈夫。本音と建前の使い分けくらいは出来る。……たぶんな」
「そこが不安なんです」
小さく付け加えられた最後の言葉に、稟はため息を吐き、霞はやれやれと肩を竦めた。
「いい匂いですね。なんていう料理なんですか?」
「この状況で、それとはある意味尊敬に値するな……。『普通』の汁物だ」
笑顔で問いかけてくる劉備に、黒髪の青年は肩を竦めて答えた。
そして、その後ろでは彼の『普通』に、ため息を吐く霞と稟の二人の姿がある。
「俺としては、早めに皆さんを下げて貰えると助かる。観衆に見られながらの料理は、趣味じゃないんでね」
意訳すると、『さっさと連れてけ。邪魔だ』である。稟は聞こえてきた副音声に、眉間を押さえた。
「え~?見せてくださいよ~。もの凄く美味しそう」
副音声が聞こえなかったらしい劉備は、実に楽しそうに匂いをかいでいる。
「なんと、どこまでも堂々とした偵察宣言だな。実力で排除してもいいという、遠回しの許可か?」
近付こうとする彼女を、自然な動きで遮りつつ、は殊更に呆れた声を出してみせた。
「ええ!?」
「何を勘違いしているのかしらないが、俺達は味方じゃないんだぞ?お前等が通行料をツケで払うっていうから、渋々道案内兼監視をしているだけ。何か異論は?諸葛殿?」
「いいえ。ありません……が、天の御遣いとして、民に施しを与えるのは責務なのでは?」
驚いている主に代わって、隣にいた孔明が相手になるが、青年の態度が変わる事はない。
「ん?天の御遣い?そんなの居たか?」
「いいえ。我が軍にそのような者はおりません」
稟はの問いに、眼鏡を指で軽く押さえながら答える。
「良かった。俺が誰かを忘れてるのかと思ったよ。大体、俺達の食事は税金から賄われてるんだぞ?領民に還元するならともかく、通行人に無料で振る舞ったり出来るわけないだろ?俺が領民に白い目で見られる。あ、それとも、それが目的か?なかなかあくどいな」
「つまり、正当な対価を支払えば、いいのですかな?殿」
「もちろん、代金を支払ってくれるなら、余分を分けるのは吝かではないよ、趙雲殿」
「なるほど。で、その良い匂いをさせているものは、いかほどで?」
「……こんなもんだな」
「!……本気で、言っておられるのでしょうな?」
「無論。だが、余分となると三十くらいだ。誰が食べるかで揉めそうだな」
「……確かに」
「理解いただけたなら、帰って貰えないかな。俺達も腹が減ってきた」
「え~、食べられないんですかぁ?」
「酷い王様だな。民はひもじい思いをしているのに、自分だけ腹一杯食うつもりか?民も良く付いて来たものだ」
働かざる者食うべからず。食料を無料配布するなど、彼の選択肢からは最初から除外されている。
この食料も、元を正せば魏領の税金である。米一粒たりと無駄には出来ない。
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「ただいまー」
「お帰りなさい。早かったわね」
「……もう、そこに居る理由は聞くのを諦める」
一仕事を終えて帰ってみれば、人の天幕で寛いでいる王様に、青年はがっくりと肩を落とした。
「報告を聞いてあげるから、話してみなさい」
「はいはい。と言っても、そんなに大した事はないぞ。逃げ出す女官を二人保護するっていうのと、恋は彼女の前に立ちふさがらなければ被害は減らせる。以上」
「女官二人というのは?」
「元董卓と元賈駆。死体は偽装するつもりだから、安心してくれ。つまり、俺が保護するのは、二人のそっくりさんと言うことになる」
眉を跳ね上げかけた華琳に、は手早く説明しておく。
「恋も二人が逃げ出せば、逃亡に入るだろうからな。無理に立ちふさがらないことだ。だが、まずは俺達が董卓軍を撃ち破るのが最低条件」
「わかったわ。その情報だけでも十分よ」
華琳は頭の中で決戦の布陣を考え始める。自軍には呂布軍と対峙しないように徹底しておかねばなるまい。
「貴方の作戦のお陰で、早々に決戦を挑んでくるわね。決戦の布陣を考えなくてはね」
「遅かれ早かれ、それは変わらなかったと思うぞ。俺の王様は優秀だからな」
「戦いが終われば褒美をあげるわ。楽しみにしていなさい」
俺のと言われた内心の喜びは押し殺して、華琳は座っていた寝台から立ち上がった。
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「それで、用はこれだけか?」
「ん?ああ、二人とも気をつけて。俺のお祈りが効くのを祈ってる」
秋蘭はニヤリと笑ってる。
「であれば、是非一つして欲しい事があるのだがな?」
「?俺に出来ることなら」
言った瞬間に、後悔したくなってきた。
「口づけが幸運のお守りだと、華琳様から聞いたのだがな」
ピシリと音を立てての表情が凍りついた。
「し、秋蘭!?突然、何を言って……」
「姉者は要らぬのか?霊験あらたかと、華琳様から聞かされているぞ」
「がしたいと言うなら、そ、その受けるのはやぶさかでは……」
「ということで、姉者と私の二人に頼もうか」
「……なんだ。口ではないのか」
「ああ、もう!わかったよ!この連合が解散して、城に戻ったら、君らが望むだけしてやるから!」
もう勘弁してくれと言いたげに、は顔を赤くして叫んだ。後々、大変な事になるとわかっていても、今すぐここから逃げ出したい。
「ふふふ、仕方ないな」
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上三つは、劉備軍と同行してた時。何か黒いものが光臨していた模様w
下二つは黄巾の時の話だと思われます。イチャイチャさせたくて書きました。没ですが。
コメント by くろすけ。 — 2013/09/26 @ 14:06
くろすけ。さん、こんばんは。
うん、あったんですね。わかりますw
美味しくいただきました。ご馳走様でした。
コメント by Hiro — 2013/09/28 @ 22:10
>Hiro様
お疲れ様ですー。
きっと色々あったんだと思います。
秋蘭には尻に敷かれているといいんですw
コメント by くろすけ。 — 2013/10/02 @ 13:36