全力で神様を呪え。[丗弐-壱]

「聞いていいか?」
目の前に並べられていく黒絹の衣装やら、副官に任命されて物凄く嬉しそうな凪とか、彼女が掲げる黒旗にちょっとトキメイたところを秋蘭に見られてニヤリと笑われたりとか、もう表情を消してやり過ごそうと心に決めた所で、練兵場まで連行されたは、目の前の光景に、隣に立つ華琳に声を掛けた。
「答えられる事ならいいわよ」
「どこまで巻き込んだんだ」
「国中。ちなみに、厳選するのには春蘭と霞に任せたわ」
きっと恋を入れなかったのは、華琳なりの優しさというものだろうか。
一瞬そう考えたが、あの二人の前に立つことを思い浮かべ、即座に否定した。頼まれても嫌だ。
改めて現実を直視する。
眼前に直立不動で待機する騎兵三千、彼ら全員が自分の部下だという。
ちなみに、凪は無手なんだから、騎兵にするには勿体無くないかという問いには、満面の笑顔でトンファーと棒術も使えますと答えが返ってきた。
「……つまり、俺は外堀どころか内堀まで埋められた大坂城状態という訳だ」
「オオサカジョウが何かはわからないけれど、そういう事ね」
無条件降伏以外の手を誰か考えてくれ。
思考すら放棄したくなってきたは、今日もいい天気の空を眺めてしまった。
「自分の間抜けさに死にたくなった?」
「今日だけはちょっと同意してもいいと思うツッコミをありがとう、桂花。……どうして、止めなかったんだよっ!三千も兵が居たら、俺なんかよりマシな将軍に割り振るべきだろうが、この猫耳軍師っ!」
は八つ当たりに近い言葉を桂花に向けた。
「私だって嫌だけれど、使えるものはゴミだって使ってやることにしたのよ!特にあんたなんて擦り切れるまで遣いつぶしてやるわ!」
「もうすでに色んなものが擦り切れそうだ!」
「うっさいわねっ!関羽と趙雲と打ち合える人間を放っておく軍師がいると思うのっ!?」
「うっ……あれは、火事場のくそ力というか、窮鼠猫を噛むというか、そういう類のだな。むしろ、打ち合えた俺吃驚なんだが」
「と・に・か・く!これは決定事項なのよっ!今の今まで気づきもしなかった自分を恨めば!?」
それを言われるとグウの音も出せない。
「現状の理解は終わったかしら?」
桂花とのやりとりを楽しげに笑って聞いていた華琳は、黒髪の青年を見上げる。
「自由に使える三千の人手が手に入ったと思うことにする」
「旗は気に入ったみたいだしね」
「う……」
否定したい心と厨二的浪漫心で、男心は色々複雑だった。
「後で、月と詠にお礼を言っておきなさいね」
「わかった。これだけ揃えるの、大変だっただろうしな。……全く、俺が旗が羨ましいって言った時から、ばれないように手を尽くしたもんだな」
「ふふふ、それは貴方が見聞きしても、自分の事だと思っていなかっただけでしょう?」
「ま、そうだな。俺もここまで本格的に巻き込まれるとは思ってなかったし。……後は、挨拶だけ?」
「そうね。それと百人隊長以上との顔合わせはしておきなさい。凪に丸投げするのは構わないけれど、『貴方』の部隊なのだから、きっちりまとめなさい」
「了解。……拡声器、貸して」
張三姉妹の術との知識で、拡声器は比較的早くに完成し製作されていた。
「あーあー、全員、俺の声が聞こえるか?」
練兵場に響く声に、全兵士が姿勢を正す。
「俺は戦場ではあんまり役には立たないからな。主に書類仕事で発生した腰痛と肩こりで」
彼の激務を知る隊長たちが苦笑いを浮かべた。
「この際だから言っておくが、俺は『国』の為に戦ったことなど、ただの一度もない」
続く彼の言葉に、兵士達に動揺が走る。
「大切な人に、笑顔でいてほしい。明日が待ち遠しいと思って、眠りについて欲しい。そんな世界が欲しくて、俺は戦っている。俺の下にいるって事は、俺の望む世界の為に、こき使われるって事だ。話が違うっていう奴は、今ここで辞めてもいいぞ」
誰も動かないのを見て、は小さく頭を振った。
「……やれやれ、俺なんかの下に付きたいって物好きがこれだけ居るって事実は驚きだが、これからよろしく頼む」
「どこかの誰かの未来の為にっ!」
黒髪の青年が頭を下げると同時に、凪が声を上げる。
「どこかの誰かの未来の為にっ!」
三千の兵が唱和して、黒旗を穂先に縫い付けられた槍を掲げられた―――

将軍達と顔合わせの時、聞き覚えのありすぎる「徐晃」や「張合」や「朱霊」とかの名前の持ち主から、尊敬に満ち溢れた視線を向けられた千里眼の青年が、その黒髪をかきむしる事になるのは、また別の話。

« | 真・恋姫†無双 | »

評価

1 Star2 Stars3 Stars4 Stars5 Stars (2 投票, 平均点: 4.00)
読み込み中...

後書&コメント

  1. うし、部下との顔合わせ終了ー。
    でも、残念ながら、名前だけ。ごめんなさい。
    この後は西涼に向かってレッツゴーです。
    錦馬超さんGet~!

    コメント by くろすけ。 — 2013/12/04 @ 17:38

  2. くろすけ。さん、今晩は♪
    おおっ!i更新されてる!
    年内はないかと思っていた(「年内にもう一度更新するべく、頑張りますー!」はスルーしてましたw)だけに得した気分ですw

    やっぱり内堀まで埋まってましたか。
    まあ、自業自得ですねw
    いよいよ、西涼戦ですね、年内の更新を楽しみにしております♪

    コメント by Hiro — 2013/12/04 @ 20:24

  3. > Hiro様
    お返事遅くなりましてすみません。
    今回はのりと勢いの回でしたのでw
    次回、西涼戦頑張りますー

    コメント by くろすけ。 — 2013/12/09 @ 16:09

  4. 徐晃・張合・朱霊だとぉ~
    武だけならまだしも、文までフォローできそうな英傑が…
    コレで擦り切れる寸前の諒君が助かる………訳ないよねぇ~(笑
    演説でつかみはOKなんで、後は胃を支配するだけっすかね?

    とりあえず、月と詠には旗のお礼で渾身の”甘味”でお礼しないとね!
    女の子にはやっぱり甘いモノでしょ

    コメント by 蒼空 — 2013/12/17 @ 01:18

  5. > 蒼空様
    お返事遅くなりましてすみません。
    張コウのコウの字が出なかったので、合の字にしてあります。
    まあ、今後絡んでくるのは戦場のワンシーンだったりする程度なので、残念な事に名前はあんまり出てこないと思います。すみません。
    次回は西涼戦になると思います。
    頑張れ主人公。

    コメント by くろすけ。 — 2013/12/20 @ 22:56

Leave a comment

Posted: 2013.12.04 真・恋姫†無双. / PageTOP